Quest16 街から村へ
街道を疾風の如く走る影があった。
蒼白い白馬に駆るのは黒衣の青年──澪夜だ。
その速さは、馬本来のスペックの高さと【騎乗スキル】のアビリティ【人馬一体】の効果もあってか、時速80kmを超えている。
ある程度を進み、王都が近付いて来たためか、まばらながらも人の影が見えるようになってきた街道を澪夜は駆け抜ける。
一時間も走ると、巨大な壁が見えてきた。
それは都市を囲うようにして都市を守る防壁。
王都【クラウディリア】はすぐ目の前だ。
◇◆◇◆◇
澪夜は王都から少し離れた林に入ると、乗ってきた白馬を消す。煙とともに白馬の姿は消え、残ったのは何も書かれていない紙札のみ。それを仕舞うと、澪夜はある心配を胸に抱きながらも、王都へと歩きはじめた。
「デカイなぁ……」
澪夜は王都の壁を見上げながら呟いた。
高さは30mほど。澪夜ならば飛び越えようと思えばなんなく飛び越えられる高さではあるが、それをすることはない。というより、そんなことをすればどうなるかくらいは予想がつく。
澪夜は大人しく、街道に沿って王都の入り口へと向かった。
「長っ」
王都へ入るためにはまず壁を抜けなければならない。
だが、それを抜けるには門を通らなければ、ならない。しかし、それが簡単にできるかといえば否、断じて否である。
王都へ入るのに必要なのは身分証明。簡単に済みはするものの、ここは王都であり人の出入りは激しい。となれば、行列が出来るのも当然であった。
さて、ここで澪夜の心配についてだ。
それについては簡単で、王都へ入れるのかということだ。澪夜が知っている知識──よくあるラノベ等の設定では、都市に入るには身分証明と入都税が必要となる。となると、かなり面倒なことになりそうだ、と澪夜は思っている。
なぜか、それは簡単で、澪夜はこの世界の金銭を持っていないし、身分証明が出来るものも持っていないからだ。エリュシオン・オンラインでは、所持金はメインメニューに記載されていた。だが、こちらに来るとその表示はなくなり、アイテム欄──インベントリを見てもエリュシオン・オンラインの通貨は無くなっていた。要するに、もし仮に同じ通貨だったとしても、澪夜は金を持っていないのだ。
それと、身分証明。
エリュシオン・オンラインには冒険者ギルドという組織があり、そこで発行されるカードがそれを担っていた。これについては所持金とは違い、インベントリ内にそのカードを見つけたが、これがここで使えるかなんてことはわからないため、身分証明書としてのいみはなさないだろう。
因みに、澪夜のエリュシオン・オンライン内でのギルドランクは最高ランクである。冒険者ギルドの最高ランク者しか入れないエリアに入るためにランクを爆上げした時の澪夜と某クランマスターの様子を見たものは例外なくドン引きしたそうだ。なにせ、効率のいいクエストを回し続ける。しかも一週間近くも。そのくせして、限定エリアにすぐに飽きるというなんともいえない結末であった。
心配を胸に抱きながら、澪夜は行列の最後尾へと並ぶ。
最悪、なにか売れば金になるだろうと考え、澪夜からすれば対して使う機会のないポーションをいくつか取り出した。そんなポーションではあるが澪夜からすれば使わないだけであって、他のプレイヤーからすれば使うのを若干戸惑うような代物である。が、自分でいくらでも造れる澪夜からしたら大した価値は無かった。
行列自体はとても長く、澪夜が門を見たのは並び始めてからおよそ5時間が経ったころだった。その頃になり、やっと見えた門では十数の兵士と数人の騎士が身分の確認やらなにやらをしていた。そして見えるかぎりではやはり身分証明と入都税が必要なようだった。
ここまで来て、澪夜の頭にはいくつかの案が浮かんでいた。
一つ目は、このまま進み所持品を売り中に入るというもの、二つ目は一旦他の街又は村に向かってそこで金銭を得てから来るというものだ。
速さを求めるなら前者、安牌をきるのなら後者だ。
万が一、問題が起きたときのことを考えると前者はかなり面倒だ。
急ぐ旅ではない。
澪夜は、ここまで並んだにも関わらず、列から離れた。
目指す先となるのは、MAPで見つけた村の1つである【カール村】。
澪夜はそこで当面の資金を得ることを目標とした。