Quest15 アイテム
「お嬢様……」
馬車から下りたメイドが、ティファナに声を掛けた。
「セレナ、あのアイテムを鑑定してください」
「かしこまりました」
ティファナに命じられるままにメイド──セレナは地面に突き刺さる短剣をスキル【鑑定】のアビリティを発動させ、鑑定を始める。
「なっ……!?」
その鑑定結果を見て、セレナが小さく声を上げた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。
ただ……この短剣は……」
「なんです?」
「この短剣は【聖浄なる護剣域】と呼ばれるアイテムのようです。
等級は……」
セレナは少し言い淀む。
だが、ティファナの促すような視線を受けて、意を決したように口を開いた。
「等級は聖遺秘宝級です」
「レ、レリック!?」
セレナの言葉に、ティファナは驚いたように地面に刺さる短剣を見る。先程、澪夜が無造作に投げたその短剣を。
聖遺秘宝級といえば、物によっては国宝となる場合もあり、どれもが強力なものだ。それこそ、同じレリックの【雷狼の玉砲】と呼ばれるアイテムは国宝であり、その強力さ故に南方の辺境伯家に国境防衛の要として置かれている。
「こ、効果はわかりますか?」
ティファナは若干慌てながら訊く。
もしこれが強力なものなのを知らずに渡したのだとしたら……そんなことを考える。
「効果は……これを中心とした半径10メートルの球体内に害意のあるものを侵入させず、攻撃を防ぐ結界を24時間発生させるというもののようです。ただ……使用制限があり、使用できるのは八回までです。
それでですが、残りの使用可能数は5回となっています」
効果としては簡単なものだが、それ故にその強力さがわかりやすい。攻撃を防ぐというのがどの程度かはわからないが、それでも攻撃を防げ、その上で害意のあるもの……モンスターなどが入ってこれないというのはかなり扱いやすい。
それこそ、要人が野営をするときなどはこれを使用すれば更に安全性が高まるだろう。それにこれが役立つのは要人だけではない。
冒険者、と呼ばれるものたちも手に入れたいアイテムだろう。これだけで、野営の危険がある程度軽減されるのだ。そのメリットは計り知れない。
「国宝……とまではいかなくてもかなり有用なものですね」
セレナの一言が、響いた。
「お返ししたほうが…」
ティファナはそう言いつつも、これがなければ自分達は危険だということを理解し、行動に移そうにも移せなかった。
ちなみに、このアイテムはエリュシオン・オンライン内ではかなり安く取引されていた品だ。
元は、ドロップ限定のレアアイテムだったのだが、どっかのトッププレイヤーの妖刀使いが、作成レシピを見つけそれを公開したために安くなったのだ。
そうなったことで、初心者救済のようなことにもなったので、少しだがその妖刀使いの評価が上がったのは余談だ。
◇◆◇◆◇
ティファナたちがこうなっている一方で、噂のどっかの妖刀使いは……
「お、あったあった。謎アイテム」
そんなことを一人呟きながら昔、何故か作成したテントをインベントリから取り出した。
見た目は少し大きい程度のものだが、その内部は大きさからは測れないほどに広い。澪夜の空間魔法修練の賜物とも言える効果である。
さらに、このテントは澪夜の狂っているステータスと上位素材で作られ、その上で様々な付与がされているため、並の攻撃は受け付けず、さらに周囲に結界を張るという壊れ具合だ。
【楽園の天幕】、等級は神話級。
いろいろ間違った男の間違った作成物。エリュシオン・オンラインで使うことのないアイテムは無駄に高性能だった。
翌朝
テントから出て来た澪夜はインベントリから出したパンを食べると、テントを仕舞い、魔法の練習を兼ねて顔を洗いはじめた。
水属性魔法の【水球】を空中で固定し、そこに顔を入れて洗う。もちろん、歯磨きも忘れない。
朝の準備を終えた澪夜は空を飛んでいる爬虫類を無視して、街道を行く。MAPによれば、後二日も歩けば王都だ。
「遠いな」
澪夜は呟く。
歩くのが面倒だ。澪夜はそう思うと、インベントリから1枚の紙を取り出した。
取り出したのは【神馬の喚札】。【陰陽師系統】クラスで使用できる式札の一種だ。その効果は名の通り。
ちなみに澪夜は【召喚術師系統】のクラスも持っているが、今回これを使用したのはノリで、意味はない。
「『我、求めるは 疾き神の下僕 急ぎ、我が律令に応じよ』」
言いながら、喚札を投げると陣が浮き上がり、中から薄っすらと蒼い燐光を散らす白馬があらわれる。
これこそが、神馬。
簡単な戦闘も熟せる陰陽師の式である。
澪夜は現れた白馬に乗ると、手綱を握る。
すると、現実で馬に乗ることなど故郷の祭くらいでしかなかったにも関わらず、まるで何十年も乗ってきたかのような感覚を得る。だが、澪夜がそれに驚くことはない。なぜか。それはエリュシオン・オンラインで【騎乗】スキルを取っていたからだ。
それが適用されているのだろうということは容易に予想がついた。
澪夜は、白馬の腹を蹴り、進ませる。
最初は常足でゆったりと。急ぐ旅路ではない。
だが、それでも風のように……というのは男の性なのかすぐに走らせることとなった。