Quest10 騎士
「お嬢様!
危険です!なかにお戻りください!」
騎士──フレイドと呼ばれた騎士が少女に言う。
なるほど、お嬢様。つまり、この騎士たちの主人の娘か。澪夜は呟く。
それにしても……
「危険なのは自分たちの態度だよなぁ」
澪夜は思わずそう口にしてしまった。
前も言った通り、この騎士はなにを思ったかしらないが、中々に高圧的な態度で澪夜に接している。
舐められないようにというのは、騎士──誰かを守る者としては正しいのかも知れないが、あの戦闘を見られ、あまつさえ助けられた相手にするものではない。
それこそ、自分達よりも強いとわかる相手なのだ。刺激しないようにというのが正しい。
それに、今回は澪夜だったから良かったものの、何かしらの身分……特に爵位を持っているような相手だった場合は、自分だけでなく主人にも迷惑を掛けることになるだろう。仮にだが、澪夜がどこかの国の王族であったりしたなら、完全に国際問題となる。
兎に角、彼らの対応はかなり危なっかしいものだという認識が澪夜の中にできた。
まあ、それがどうしたということはないのだが。
ただ、貴族の社会で生きるうえでこのようなことが起こり得るなら気を付けたほうがいいと言える。変に弱みを見せればそこに付け入られるのはどこの世界のどの社会でも同じだ。
「はぁ…面倒だ……」
澪夜は呟く。
その言葉に反応してか、フレイドが澪夜を睨みつける。
「貴様、お嬢様の前だ。礼を取れ!」
「まずはお前がしろ」
即答。
しかも、礼を取れという割に自分はまったくその礼を取っているようには見えない。
「貴様、こちらの方が誰だがわかっていないのか!」
「知らん」
「この方は、アルカディア公爵家のティファナ・フラン・ド・フォン・アルカディア様だ」
「で?だからなに?」
澪夜はまったく興味なさそうに返す。いや、完全にどうでもいいと思っている。それにフレイドは偉そうにしているが、所詮は騎士。ジャ○アンの威を借るス○夫もとい虎の威を借る狐と同じだ。
「だから何だと!?
貴様は公爵家に喧嘩を「売ってねぇよな?」
フレイドの言葉を遮って、澪夜は答える。
その声音は若干の怒気を孕んでいる。
「お前、さっきからなんだよ。
喧嘩売ってんのはお前のほうだろ?お前がどんだけ偉いのか知らねぇが、礼節というのを学んだらどうだ」
澪夜はローブを掛けた女を一瞥し、さらに口を開く。
「そのローブはやる。
ああ、あと俺が殺ったオークの死体は持ってかせてもらうぞ」
「空間魔法……!?」
澪夜がオークベルセルクに触れると、その死体が消える。
ただ、インベントリに仕舞っただけ。澪夜からすればそれだけであっても騎士たちを驚かせるには十分だった。
「じゃあな。二度と会わないことを祈ってる」
「待て!」
「……なんだ」
澪夜が背を向けて歩き出そうとするとフレイドがそれを止める。
「オークの死体は置いていぐべっ!」
「はいはい。騎士様の言うとおりにしますよ。
重いから気を付けてね〜?運が悪いと死ぬよ?」
澪夜はフレイドの言葉の途中で上空にオークベルセルクの死体を出した。その死体は重力に従って落ち、偶然その下に居たフレイドに当たった。そう、偶然当たってしまった。
まあ、掠った程度だから大した怪我はない。もし、直撃していればかなりグロテスクな光景が見れたことだろう。
「それでは。
盗人騎士の皆様、さようなら」
澪夜は今度こそ、ここから離れようとする。
「待ってください!」
が、少女の声に制止される。
「まだ何か?」
「私の護衛が失礼しました。
お詫びをさせてくださいませんか?それに……助けていただいたお礼もできていません」
「ふっ」
少女──ティファナの言葉に思わず澪夜は笑みを浮かべる。
喜びの笑みではない。そこにあるのは軽い嘲りの感情だ。
「お構いなく。
ああ、それと忠告ですが……そこの男の様な護衛を連れていては貴方の品位が問われると思いますよ。
なるべく早く離しておくのが得策かと。では」
澪夜はそう告げると、今度こそこの場から離れた。
「はぁ…」
溜息を吐きながら。
澪夜はMAPに従って街道を往く。