きゅう。
暫く二人で泣きながら好き好き合戦をしていたが、さすがに疲れて二人ともソファに転がった。泣いた後の心地いい怠さに身を任せていると、くまたんは俺の腹に座って話し始めた。
「優太、高校生になってから、とっても悩んでいたでしょ。僕、なんとかして優太を元気付けたかったんだ。でも、動けないし、喋ることも出来ない僕にできる事って何もないって、しょんぼりしてたんだ。優太は最近、僕が喋れたらって、そればかり言ってたでしょ。僕もそう思って、神様に毎日お祈りしたんだ。そしたら今日、動けるようになってた。神様って良いひとだよね」
くまたんは、俺の為に一生懸命お祈りしてくれたんだな。そう思うと凄く嬉しい。
「くまたん、ありがとう。おかげで元気出た。俺、もうごちゃごちゃ考えるの止める。きっとこれからも、くだらない事で悩んだり、どうしようもない事を考えちゃったりすると思う。でも、それが俺だし、変える必要はないんだよな。
こんな自分が大嫌いだって思っていたけど、くまたんがそんな俺を好きだと言ってくれるなら、俺はそれを信じるよ。それから、今まで人に合わせる、合わせないで悩んだりしてたけど、それももう止める。くまたんが本当の俺を知っていてくれるなら、俺は周りに流されることはないから。全部くまたんのおかげだよ。本当に、ありがとう」
俺がそう言うと、くまたんは得意気に鼻を鳴らした。
「言ったでしょ、僕は優太の為だけにいるんだ。当然の事をしただけさ。それに、こうして優太とお話が出来て、僕だって凄く嬉しいんだ。こっちがお礼を言いたいくらいだよ」
「くまたん……そうだ、今度一緒に神社に行こう。どこの神様が願いを叶えてくれたのかはわからないけど、久しぶりに外で遊ぼうよ」
周りからは変な目で見られるだろうけど、気にするもんか。
「ふふ、それは楽しそうだね。……たくさん泣いたら眠くなってきちゃった。少し寝たいな」
くまたんが俺の身体をよじ登ってきて、瞼を優しく撫で眠気を誘ってくる。雨音と、くまたんの匂いが混ざり合って、だんだんと意識が薄れていく。
「おやすみ、くまたん」
かろうじでそれだけ言うと、本格的に眠る態勢に入る。
「おやすみ、優太。もう大丈夫だね」そんな声と共に、深く眠りについた。
▽
「優太、起きなさい。風邪引くわよ」
「あれ、母さんいつ帰ってきたの」
「今。もう一九時よ、ご飯作っちゃうから先お風呂入ってきなさい」そういって台所に消えていく母をぼんやりと眺めて、ソファから起き上がると、ぽとっと何かが落ちた。
「あ、くまたん、」
何やってんだよ、笑いながら拾い上げてやると、もうくまたんは何も反応しなかった。抱きしめても、キスをしても動き出すことは無かった。
「ちょっと優太、なに一人で喋ってるの。あら、ぬいぐるみなんか持ってきて、
どうしたのよ」
「なんでもない」
動かないくまたんを抱えて、部屋に戻り、ベッドに寝かせてやる。お腹をくすぐってみても、可愛い顔をして天井を見つめているだけだ。
きっともう、動くことはないのだろう。
でも、悲しくなんかない。くまたんは動かなくなってしまったけれど、生きているから。
もう、くまたんの瞳には流れ星は流れていないけど、小さな宇宙のような瞳は、これからもきっと、俺を見守っていてくれる。
「くまたん、これからもずっと一緒だよ」
動かなくたって、喋らなくたって、くまたんは俺の大好きな友達だ。