ろく。
「八つ当たりしてごめん。うん、辛いのは自分のせいだ。俺が弱くて卑屈だから辛いんだ。俺は面倒でどうしようも無い事ばかり考えて、考えて、もう高校生活は楽しめないって、諦めちゃったんだ。諦めちゃいけないのに、もっと頑張らなきゃいけないのに」
「まだ高校生になって二カ月だよ。諦めるのが早すぎる」
くまたんは不貞腐れたように言う。
「早くない、むしろ遅すぎるくらいだよ。俺が楽しく過ごす為には、俺が変わらないと駄目なんだ。でも変わるって凄く大変な事で、いくら頑張ったってネガティブ思考は治らないし、無駄に考えすぎる所も治らない。考えすぎないようにする方法を必死に考えて、もう頭おかしくなるくらい色んなことを考えて、それでも何も変えられない自分が情けなくて」
こんな事なら中学の時点で諦めてしまえばよかったのだ。期待しなければ傷付くこともなかったのに。
俺の話を、くまたんは目を閉じて静かに聞いていて、それから暫くして目を開けると、くまたんの瞳の中の流れ星は滲んでよく見えなくなっていた。
じわっと、一瞬流れ星が消え、くまたんの瞳から滴が一粒流れたかと思うと、吸い込まれるようにすぐ消えていった。
「優太はたくさんの事を考えて、悩んで、頑張ったんだね。面倒臭いなんて言ってごめん。優太は凄いよ、自分の嫌な部分をちゃんと見つめて、考えることが出来るんだから」
「凄くなんかない。考えるだけで終わっちゃうから、何も変わらないもん」
「どうして変わらないといけないの?今のままで、どうして駄目なの」
「それは……」
だって、こんなの気持ち悪いじゃないか。こんな卑屈な奴と一緒に
いて、楽しい訳がないから。
「優太は、もっと楽に生きたらいい。考えてもどうしようもない事は、世の中にたくさんあるんだよ」
「それは俺だってわかる。でも、考えずにはいられないんだ。考える事を止めたら、それこそ現実から逃げることになる」
逃げるなんて格好悪い事をしたら、俺は皆から見放されてしまう。皆から置いて行かれてしまう。
「優太が何を考えているかなんて、他人には解らないよ。だから、考えるのを止めたって、ちょっと逃げたって、誰にもわからないさ」
そう言うと、くまたんは俺の顔面にしがみついてきた。もこもこしていて上手く息が吸えない。
「だからさ、ごちゃごちゃ考えずに楽しみなよ。もっと自分に自信を持って」
がつん、と頭を殴られたみたいな衝撃だった。
くまたんの言葉は、どんな偉人の名言も霞んでしまうくらい、俺の心にすっと入ってきた。
とてもシンプルで、ありきたりな言葉なのに、俺はその簡単で軽い言葉が欲しかったのだと気付いた。俺は、もっと気楽に生きたかったのだ。自分の事を、好きになりたかったのだ。