ご。
いつの間にかぼーっとしてしまった。流しっぱなしの水を慌てて止めると、なにやら知っている音楽が流れているのに気が付いた。
「あー!なに勝手に観てんだよ、俺まだ観てないのにー」
「まあまあ、優太も一緒に観よ」
くまたんは、俺が毎週録画してるドラマを真剣に観ていた。まあ俺も観ようと思っていたから良いのだけど。
「僕、このお話知らないんだけど、どういうお話なの?」
「んー、捻くれた高校生の青春ストーリー的な」
「えっ、でも主人公の男の子あまり楽しそうじゃないよ?青春って、キラキラしているものなんでしょ?」
「今の段階ではまだ青春はしてないよ。これから信じ合える仲間とか、競い合えるライバルに出会って主人公が成長していくの。その過程が青春ていうか、まあ、楽しそうなんだよ」
このドラマの原作は、中学時代の俺が大好きだった小説だ。この小説のせいで、俺は高校生に過度な期待をした。
俺も高校生になったら、主人公のように変われると本気で信じていた。俺は本当に馬鹿だ。努力もしないで変われる訳がないのに。主人公だって、たくさん悩みながら、傷つきながら前に進んでいるのであって、高校という環境のおかげで変われた訳じゃないのだ。
そのことに、最近やっと気が付いた。努力もしないで、今までと同じだと捻くれているだけの自分が気持ち悪くて、自分を殴りたくなる。
「本当に楽しそうだなあ、同じ高校生とは思えないや」
俺も、こうなりたかったな。今更思っても、もう遅いのだけど。
くまたんは珍しく俺の言葉に何も言わず、静かにテレビを観ている。
二人掛けのソファは、俺とくまたんが座るには広すぎて、くまたんとの距離も少し遠い。そのことが無性に悲しくなって、思わずくまたんの手を握った。するとくまたんは、やっとテレビから目を離して、静かに俺に問い掛けてきた。
「優太は、楽しくないの?」
「楽しくない訳じゃないよ」
「青春できてないの?」
「青春は、できてないかな」
「学校、つまらないの?」
「……」
次から次へと痛い質問をされて、思わず何も答えられなくなった。
学校生活を楽しめていないのは、きっと人生を楽しめていないのと同じことだ。俺は生きていても何も楽しくない。それがどんなに惨めで恥ずかしいことか、自分自身よくわかっている。改めて自分がいかにゴミ屑か自覚させられて、情けなくて涙が出てきた。もう消えて無くなりたい。
「優太、だいじょうぶだよ」
「全然大丈夫じゃない。俺はカス野郎だよ、もう何もかも嫌だ」
「おやおや、情緒不安定だね。大丈夫ったら大丈夫なんだよ」
誰のせいだと思っているのだ。くまたんが辛いことばかり質問したからだろうが。恨みがましい目でくまたんを睨むと、ぷすー、と鼻息をたてて、突然くまたんが怒り出した。
「優太、いま辛いのは僕のせいじゃないよ、面倒臭いことばかり考えてる、優太自身のせいさ」
そう言うとくまたんは俺の手を振り払い、腹にタックルしてきた。
「うっ、何すんだよ!」
地味に痛くて思ず呻くと、くまたんは凄く申し訳なさそうな顔をした。
そんな顔をされたら俺だって怒れない、しゅんと落ち込んでいるくまたんの頭を少し乱暴に撫でた。