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よん。



黙々と食べていると、くまたんが感慨深げにため息をついた。


「どした?ため息なんかついて」


「いや、ママは、優太の事が大好きなんだなって思って」


「はっ!?何言ってんだ、そういう事言うのやめろよ」


「照れなくてもいいのに。ママは毎日優太の事考えてお弁当を作ってくれているんだね」


優太は愛されていると、何故がくまたんが自慢げに言う。


「なんでそう思うんだよ。別に普通だろ」


お弁当くらい、高校生だったら殆どの人が作ってもらっている。そう反論すると、くまたんは首をふるふると振った。



「お弁当の中身のことだよ。優太、最近元気がなかったでしょ、昨日は特にため息ばかりついてた。だからママ、今日のお弁当は優太の好きなものを入れて、元気づけようとしてくれたんだよ」


確かに、昨日は遠足の班決めが嫌すぎて憂鬱だった。まさかくまたんに気付かれていたとは。


「でも、母さんは昨日も今日も何も言ってこなかったし、逆になんかイライラしてたよ」


「ママだって恥ずかしいんだよ。年頃の息子のことを気にしすぎるのも駄目かなって悩んでるんだ」


くまたんには何もかもお見通しらしい。吉田家の事なら僕にお任せとでも言うように、得意気な顔をしている。


「そんなもんかなあ」


「そんなものだよ」



母さんに、心配掛けてたのかな。くまたんの言っていることが本当なら、申し訳

ないことをした。

いつも当たり前のように食べていたお弁当に、母さんの思いが詰まっていると思うと、なんかちょっと、ほんの少しだけ嬉しい気がしない訳でも無かった。

今日は洗濯物でもたたんで親孝行しようかな。


「洗濯物なら僕も手伝うよ」


「あ、うん。ありがとう」

もしかしたら、くまたんは俺の心が読めるのかも。なんて、そんな訳ないか。くまたん、大好きだよ。


「ふふ、優太、だーいすき」


耳元で囁かれた。だからなんでこんなに色っぽい声出せるんだよ、恥ずかしいからやめてほしい。

やはり、くまたんは俺の心が読めるんだ。


「恥ずかしがり屋さんめっ」なんて、今度は可愛い声で言ってくる。


いや、もしかして俺が分かりやすいだけかもな。真っ赤になった俺の顔を見て笑っているくまたんを、これでもかと強く抱きしめてやる。


「ぐえええ綿が出るううう」



 洗濯物は部屋干ししていたためか、まだ乾いていなかった。

せっかくやる気を出したのに、悔しいからお弁当箱を洗ったり水回りを掃除したりした。

その間くまたんはテレビをつけて、子供向け番組で大はしゃぎしている。



それを遠目から見ていて、不思議な気持ちになった。

ぬいぐるみが動くなんてあまりにも非現実的だ。普通ありえない。なのに俺はこの事実を簡単に受け入れている。


それは、くまたんが突然動き出したことに驚きはしたが、驚き以上に嬉しさが強かったからだ。

いつも、ごろんとベッドに転がっているだけだった友達が喋って動いているのだから、嬉しいに決まっている。


だから、動き出した理由なんてどうだっていい。この時間が永遠に続いてくれるなら、それだけでいい。





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