に。
いつの間にか目が覚めていて、ぐだぐだと考え事をしてしまった。
おかげで余計に疲れた気がする。目を閉じたまま耳をすますと、微かな雨音が聞える。
さっきまで降っていなかったのに、いつ降り出したのだろう。
さらに耳をすましてみると、雨音に混じって調子はずれな歌声が聞こえてきた。なんだこの声、誰が歌ってるんだ?
意味がわからず目を開けて確認すると、ぼやけるくらいの至近距離にくまたんの顔があった。俺の鼻先を優しく撫でながら、蕩けてしまうような心地いい声で変な歌を歌っている。
「ゆうた、僕の可愛いゆうた。寝顔もとっても可愛いの、食べちゃいたいな、がおーんがおー……はっ!」
とても気持ちよさそうに歌っていたが、俺が目を覚ましたのに気が付くと慌てて歌を止めた。
「ああ優太、起こしてしまったね。ごめんね、とても可愛らしく眠っていたものだから、口が勝手に愛を奏でてしまったんだ」なんて変な事を言いながら、申し訳なさそうに額にキスしてくる。
その仕草はまるで王子様がお姫様に口づけをするかのようで、思わず少し赤面してしまう。ぬいぐるみ相手に顔を赤くするなんて、なんか悔しい。
「お、おう、気にすんな。それより、くまたんって音痴だな。なんだよ今の歌、超面白かったぞ」
恥ずかしくてつい少し意地悪な事を言うと仕返しのように、くまたんがショッキングな事を打ち明けた。
「え、そうかな?僕、優太が歌っているのを聞いて歌う事を覚えたんだけど」
うげ、俺がいつも熱唱してるのを聞いていたのか、恥ずかしすぎる。ていうか自分が音痴だって初めて知った、地味に辛いな。
少なからずショックを受けて沈んでいる俺を見て、くまたんは心配そうに顔を近づけてきた。
くまたんの瞳はキラキラしていて、まるで瞳の中に流れ星を飼っているかのようだ。宇宙の中のようにひんやりとしていて、吸い込まれそうになる。
「なんでもないよ、そんな顔すんな。それよりも、」
反動をつけてベッドから起き上がり、くまたんを膝にのっける。頭を撫でたり耳をくすぐったりすると、その度にくまたんは嬉しそうにジタバタと動く。
「安心した。くまたん、動いてる。夢みたいだ、本当に夢じゃないよな」
「うん?夢なんかじゃないよ。優太、ちゃんと今起きてるじゃないか」
当たり前だろう?と腰に手を当ててふんぞり返っているくまたんを見て、俺はやっと実感が湧いてきた。
「くまたん、俺すげー嬉しい。ずっと、くまたんが動いたらいいのにって思ってた。最近は特に、くまたんと話せたらってそればかり考えてたんだ」
「ふふ、知ってるよ。優太は寂しがりやさんだもんね。あのね、僕は優太が望むことはなんだってしてあげたいんだ。だからなんでも僕に言うんだよ。僕は君のためだけにいるのだから」
大好き、優太。そう全身で訴えるように俺のお腹にぴったりくっついて、くまたんは、これ以上の言葉は無いってくらいの甘い言葉をはく。
そんな可愛らしくかっこいい俺の友達をそっと抱きしめたら、不安や悲しみ、嫌なものが浄化されていくような気がした。
「うん。くまたん、大好きだよ」ぎゅうっと、抱きしめる腕に力を込めると
「いやん、潰れちゃう~」と楽しそうな声が聞えてくる。
このままずっと、くまたんと遊んでいられるのなら何も要らないなんて、ちょっとバカみたいな事を思ってしまった。