君との距離
ある夜のことだった。椅子に座り目の前に積んである問題集と向き合いながら秋元 れいなはふと窓の外を見た。少し曇っているが月の光は見える。夏の蒸し暑さが部屋に少し残っている。れいなは椅子から立ち上がると部屋を出た。台所へ行き、冷凍庫を開けて中を見る。中はほぼ空っぽと言ってもいいほど何もなかった。
「アイス、食べたいなぁ」
れいなはそう呟くと部屋に戻り、財布を取ると雲行きが怪しいのでとりあえず傘を持って家を出た。近くのコンビニまで行き中に入る。冷房が効いた店内。れいなはアイスコーナーへ向かい、ふと立ち止まる。アイスコーナーには一人の少年が立っていた。見覚えのある後ろ姿にれいなはドキッとした。ゆっくり近づき、隣に並ぶ。少年はれいなに気づき、少し驚いた表情でれいなを見つめてくる。
「こんばんは、タロー」
「レイ。なにやってんだ?」
三日月 たろう。れいなとは幼なじみで、れいなが恋してる相手である。
「アイス買いに来たの。タローも?」
「あぁ。暑いからな」
二人は少しの間アイスを決めるため無言だった。
「俺これ。レイは?」
「これに決めた」
二人でレジに向かい、会計を済ませて外に出る。外は雨が降っていた。
「うわぁ、雨かよ。傘持ってきてねぇ」
「私持ってきたよ。入る?」
傘立てに立てていた傘を取り開く。たろうは頷き傘を持ってくれる。二人は少しの間無言で歩いていた。先に口を開いたのはれいなだった。
「タローはさ、その、好きな人?とかさ、いるの?」
「…いるよ」
れいなはドキッとする。
「そう、なんだ。私もね、いるんだ。好きな人」
震える声を抑えながらたろうに言った。
「前から好きだったんだ。なかなかね、自分の思いを伝えられないんだけどさ、タローはその人に気持ち伝えたの?」
「…いいや、まだだよ。でも、近々伝えようとは思ってる」
たろうは淡々と言った。たろうがどんな表情をしてるのかはわからない。れいなは近づく家を見つめながら深呼吸した。
(今日、伝えよう)
れいなは決心し、口を開いた。だがその前にたろうが口を開く。
「俺もさ、前から好きで、近いのになかなか伝えられなくて。後悔はしたくねぇからさ、ちゃんと伝える」
れいなは何も言えないまま頷いた。
「傘、使っていいよ」
「悪い。今度返しに来るから」
れいなは「じゃあね」と言って手を振る。たろうも手を振ると踵を返して歩き出した。だが、数歩行ったところで立ち止まる。
「なぁレイ」
「ん?なに?」
たろうは顔だけれいなに向ける。
「俺が好きなのってさ、レイなんだよね」
れいなは少しの間停止した。次の瞬間顔が真っ赤になるのがわかった。
「えっ!?あっ、あのねっ、タロー、わっ、私もね、タローのことが…」
最後までいう前にたろうは駆け出していた。れいなは胸を押さえながら、いつの間にか晴れた空に浮かぶ月を見上げた。
はじめまして、神無月 時雨です。はじめてなので下手くそですが、楽しんでくれたら幸いです。