現実 その3
投稿8回目(*・x・)修正及び加筆完了です(*>x<)ゝ
ぱっちりと目を開けて見えたのはいつもの見慣れた天井なのに何故かぼやけてみえる。瞬きをするとぽろりと涙が溢れた。
「・・・嫌な夢」
思い出すのは恐怖と悲しみのあまり意識を失う前に見えた底冷えするようなアンダーさんの眼差しと伸ばされた手。拳を血がでてしまうくらい握り締めて俯くシャインさんの背中。
また、涙がこみあげてきて目を閉じるけど溢れてしまう。ぽろぽろと頬を伝って流れ落ちてく。両手でお顔を覆ってベッドに丸まりながら泣いてしまいました。
涙は流しきってしまったのかもぅ出てこない。天井を見上げて何も考えたくなくてぼーっとしてた私はしばらくしてから横目で目覚まし時計を見た。時刻は午前5時を指している。
「・・・シャワーでも浴びてすっきりしよう。」
このままの気分でいるのはイヤでシャワーを浴びようと私はベッドから起き上がると脱衣所に向かった。鏡の前を通り過ぎようとして映る自分のお顔が酷いことになってることに気付く。泣いたせいで赤く腫れた目元と涙のあとでぐちゃぐちゃだ。思わず苦笑が浮かんでしまう。
「夢で泣くなんてバカみたい」
そぅ呟くけど夢で最後に見たシャインさんの姿を思い出して私の胸は痛くなりました。
パジャマを脱いでシャワーの蛇口を捻ると暖かなお湯が頭から足先まで流れてくる・・・お顔を上げて暖かな雫を浴びながら涙のあとのように・・・この胸の痛みも気持ちも全部洗い流せたらいいのに。
濡れた体をバスタオルで拭きながら鏡を見ると少しまだ目は赤く目元も腫れてるけどさっきよりはすっきりしたお顔になってる。メイクで隠せば大学に行っても気付かれないでしょう。
お顔はすっきりしてもやっぱり気分まではすっきりはしてくれない・・・一つ方法があるけど時計の時刻は7時を指してる。時間的にぎりぎりで講義に遅刻してしまうかもしれないから諦めましょう。
少しでも気分を持ち上げるために両手で頬を叩きました。加減するのを忘れて思いっきり自分の頬を叩いてしまったのであまりの痛みにまた涙が出てきた。鏡に映る痛みに悶えて涙目になる自分の姿が馬鹿らしくて笑ってしまった。痛かったけど怪我の功名って言うのでしょうか?気分が少しあがりました。
午前8時までにはお家を出たい私は濡れた髪を急いでドライヤーで乾かすこと10分。泣き顔を隠すメイクと着替えに30分。朝食は栄養補給ゼリーで済ませました。時間がない時には便利ですよね。玄関に鍵を掛けて腕時計を確認すると7時50分。・・・達成感を感じてちょっと気分がまたあがりました。
大学の校門を抜けて噴水のある庭園を歩いて学部棟に向かう私は今日の講義の時間割を確認するためにスマートフォンを操作した。
「・・・っ」
思わず息を飲む。1時限目の講義は藤岡教授の心理学。あの時は怖くて悲しくてそれどころではなかったけど・・・アンダーさんのお顔もそのお声も藤岡教授にそっくりだったことを思い出した。会うのがすごく怖く感じてしまってる私は首を左右にぷるぷる振った。違う。藤岡教授とアンダーさんはお顔とお声はそっくりだけど別人です。藤岡教授はあんな風に無表情で冷たい眼差しを向けるような人じゃありません。あれは夢・・・夢だからそんなことで藤岡教授を怖がるなんて失礼です。
自分にそう言い聞かせて歩き出そうとした。
「おはようございます」
背後から聞こえたシャインさんのお声に私は一瞬体が固まる。でも、すぐに違うと考え直した。ここは夢ではなくて現実です。このお声の持ち主はライオネルさん。
「お、おはようございます」
慌てて振り返りどもりながらも挨拶を返した。目の前には金髪セミロングの黄金色の瞳のライオネルさん。にこりと微笑みを浮かべて彼は口を開いた。
「昨日は学食まで案内して下さり改めてありがとうございました。一緒に昼食をご一緒出来てとても楽しかったです」
流暢な日本語を話すライオネルさんはシャインさんに似てるけど雰囲気も話し方も違う別人です。シャインさんは堂々とした態度と話し方をするのに対して彼は柔らかく丁寧な話し方だ。それでも、姿が似てるから重なる部分があって胸が痛くなる。気にし過ぎないように注意しましょう。
「あの時は嬉しさのあまりあなたのお名前を聞きそびれてしまったので・・・その・・・」
私がそう内心で決意してる内に昨日、決意したことも思い出した。奇しくもライオネルさんに先に聞かれてしまった。少し恥ずかしそうに『あなたのお名前を』と。
「えっと・・・私の名前は龍堂 渚です」
私はライオネルさんに名前を名乗れたことにほっとする。夢のことは抜きにしても彼とはお友達になったのですから仲良くしたいのです。
「龍堂 渚さん・・・渚さんとお呼びしてもよろしいですか?」
私の名前を呟いて微笑むライオネルさんに名前呼びしてもいいかと聞かれた。ちょっと戸惑ってしまうけれど私が俯きながらもこくりっと頷けば満面の微笑みを浮かべるので恥ずかしくてお顔が熱くなるのを感じた。心の片隅でシャインさんだったらと考えてしまう自分の思考が浮かんだので慌てて振り払うように首をぷるぷる振った。
ライオネルさんは満面の微笑みを浮かべたまま「ありがとうございます」と言ってくれた。幸い、私が首を振ったところは腕時計を確認してたようで見られなかったのでほっとしました。聞かれても答えられないですからね。そろそろ1時限目の講義がはじまる時間なのでお互いに会釈して私達は別れました。
教室に入ると教壇の前には既に藤岡教授の姿がありました。
「おう、龍堂君が一番乗りだな」
藤岡教授は切れ長の漆黒の瞳を優しげに細めてにっと笑って私に挨拶をしてくれます。お顔とお声はいっしょなのに性格も表情もぜんぜんアンダーさんとは違います。
「そう言えば昨日の講義は途中、上の空になってたが何か悩み事でもあるのか?」
昨日、私が余計なことを考えてたことを見抜かれてました。藤岡教授は悩み事だと思って心配してくれてるから申し訳のない気持ちになる。ある意味悩み事だけど実に個人的なことだ。学生をしっかり見てくれてる面倒見のいい藤岡教授の優しさに罪悪感が沸く。
「ちょっと変な夢を見たので・・・」
さすがに正直に話すわけにもいかず言葉を濁して言ったら心配した藤岡教授は教壇から離れてこちらに歩み寄ってくる。
「・・・っ」
藤岡教授に底冷えする眼差しで手を伸ばすアンダーさんの姿が重なって見えた私はびくっと震えて後ずさりしてしまう。
「・・・大丈夫か?」
私の反応に驚き立ち止まった藤岡教授は漆黒の短髪を掻いて困惑した表情で私に声を掛けてくれる。今までにない私の反応に戸惑ってるようだ。あれは夢なのに藤岡教授には関係ないことなのに怯えてしまう。
「大丈夫です。・・・すみません」
私はもう一度、自分に藤岡教授とアンダーさんは違うと言い聞かせた。心配そうにこちらを見つめる藤岡教授は私の知ってる学生に優しい努力家な藤岡教授だ。アンダーさんとはぜんぜん違う。頭を下げて謝りながら怯えてしまった自分に対する沸々とした怒りを感じた。
「大丈夫ならいいんだが・・・無理はするなよ?」
無理に追求はせずに気にかけてくれる藤岡教授は今日も優しいです。心理学の講義を受けに来た他の学生が教室に入ってきたので私は会釈して彼から離れて窓際にある席に座りました。すぐに講義は始まります。
心理学の講義を終えた私はノートを閉じようとして昨日、藤岡教授に質問があったことを思い出した。幸い、彼はまだ教壇に居ました。
「教授、昨日の講義で質問したいことがあったのですけどいいですか?」
教壇で教材を片付けていた藤岡教授の前に立って彼を見上げる。アンダーさんとは違うとしっかり認識出来たお陰で恐怖に怯えることなく話すことが出来てほっとする。
「おう、どこがわからなかったんだ?」
藤岡教授は私が怯えてたことなど気にしてないと言うようににっと笑って快く質問に答えてくれました。本当に優しい人です。
滞りなく午前の講義は終わった。お昼を食べようと学部棟の小道を学食に向かうために歩いてた私は先に見える庭園の噴水前でライオネルさんの後ろ姿を見付けた。何してるのだろ?首を傾げて歩き続ければ彼の前に藤岡教授の姿がある。二人の姿に夢で見たシャインさんとアンダーさんの姿が重なった。
渚ちゃんの気持ちを表現するのがすごく難しいお話でした。如何でしょう?(´・x・`)藤岡教授はいい人ですよね♪