プロローグ
広い天井、薄暗い部屋。その中心に大きな魔方陣があり、それを取り囲むように三人の人影があった。
「女王様……やはり、占いの結果どおり、召喚するのじゃな……?」
フードを被った、魔法使いの風貌の老人が、しわがれた声で、女王と呼ばれた方を見て声を発する。
「そうですわね、あなた……グスムの予言は当たるからね」
重々しく呟くのは、まるで湖のようなハーフアップの緑色の髪は、どこにも乱れが無く、蒼い澄んだ瞳、緑と白を基調とした服装、それらを合わせて王族の風格を醸し出している。
「ふむ……そうじゃの……お主の意見はどうじゃ、メヌエリュート」
グスムは、先ほどから難しい顔をしているメヌエリュートと呼ばれた女性に声を掛けた。
とても濃い色合いを出している栗色に、艶やかなセミロングの髪型、少し垂れ目がちだが意志の強そうな黒い瞳、それと釣り合いそうな綺麗な黒いローブを着ている。
「……そうですね、女王様次第、かと」
外見とは裏腹に冷ややかな声が漏れる。
その言葉に女王は、少し黙考。
やがて
「……ふむ、わかった」
ようやく口を開くと。
「メヌエリュート……異世界から、我らの宝である。ネクロノミコンを救う者を召喚せよ」
そう、命令した。
「了解しました……では、はじめますね」
メヌエリュートは両手を魔方陣の前にかざす。
魔方陣が、まず、斜めの線を切るように七色に輝きだし、やがて全ての線が輝く。
「我の命に従い、ネクロノミコンを救う者よ、来たまえ!」
その瞬間、魔方陣から、七色の光が、部屋中を包んだ。
そこには――
誰もいなかった。
「ん……?」
メヌエリュートも少し垂れ目がちな目を擦り、中をもう一度見ても、何もないし、誰もいなかった。
「あれ? 術は成功したはずなんだけどな、はははー」
思わず、素のペースでしゃべってしまうメヌエリュート。
「はははー、じゃないわ! どういうことなの?」
女王は怒り心頭の様だ。
「まあまあ、お二人とも、術は成功したと言うことはどこか近くに召喚されたということじゃろうて、探しに行けばいいのじゃ」
グスムは朗らかに笑いながらなだめる。
「分かったわ、すぐに捜索隊を出して」
女王はつかつかと、この部屋を出て行くのだった。