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三話

 


 風呂は極楽であった。

広い湯船にゆったりとつかり、洗い場では若い「洗い女」が身体を洗ってくれた。

湯気のこもった洗い場で、しめった薄着が張り付き洗い女の体の線がくっきりと浮かび上がる。

湯気で豊かな乳房の先端までもがくっきりと際立ち、しかも浴衣が身体の色がところどころ微妙に透けてなかなかの見応えである。

髪は手ぬぐいでまとめているために白く艶めかしいうなじも露わになり、清吉は生唾を飲み込みながら、薄暗い中に浮かび上がる瑞々しい肢体をこれでもかと凝視しつづけた。


 洗い女は、見たこともないような美女にこれでもかと見つめられ、とても居心地が悪かった。

しかも、美女の視線になにやら淫靡なものを感じ、女二人しかいないはずの浴場に悩ましげな空気が漂っていた。



 もちろんというか、どうにかというか、何事も起こさずに湯浴みをすませた清吉は、使用人の女に生地のよい浴衣を着せられた。

着せてもらう最中、偶然をよそおって何度か肘で使用人の胸を突付くのは忘れない。


 清吉はとことん下種であった。



 使用人の女に案内され元いた座敷に戻ると、酒盛りの用意がされていた。

「おぉ! こりゃ至れりつくせりじゃのう!」

清吉は喜んで座敷に飛び込んだ。

そのまま座り込みもせずに、膝立ちのまま徳利に手を伸ばしたときだった。


「失礼したします」

廊下から、人好きのする笑顔を浮かべた男が声をかけてきた。


「わかってんなら、失礼なことせんでくれよ」

清吉の間の抜けた返答で、どうにか笑顔を保っている男のこめかみに見事な血管が浮かび上がった。



「はっはっはっはっは! これはなんともとんちの利いたお答えだ。見た目も良ろしければ頭も良いとは! これは参りましたな」


 いまだ血管を浮かび上がらせている男の後ろから、でっぷりと肥えた男が腹を揺らしながら出てきた。

脂ぎった頭には申し訳程度の髷しか結えておらず、肉に埋もれかけた目は、いやらしい粘っこい目つきで膝立ちの清吉を眺めていた。


(なんちゅう嫌らしい目じゃ…)

清吉は太った男の目を見て、何か粘っこいものが自分の身体にまとわりついてくるような錯覚を覚えた。

それは、清吉が普段女を見る目と全く同じ目だった。


「お(せい)さん、くつろいでいただけてますかな? わしはこの屋敷の主、村長の細兵衛と申しますじゃ。」

「そのふっとい身体で細兵衛かい! 洒落がきいてるねぇ!」


 清吉の全く空気の読まない発言に、上機嫌に笑っていた細兵衛の顔が赤黒くなった。

後ろに控えていた細兵衛の部下である男のこめかみからは血管が失せ、その代わり顔をそらして小刻みに肩を震わせていた。

ちなみに部下の男は主に、さすがに清吉とは言えずに「お清」と紹介していた。



「…はっはっは。おもしろいお方だ。どうでしょうお清さん、一緒に酒を楽しみませんか?」

細兵衛はなんとか持ち直して歪な笑顔を浮かべた。


「えぇ~、わし、この酒とつまみを全部一人で楽しみたい」

細兵衛に恨みがましげな視線を投げかけながら、美女である「お清」は酒とつまみを両手で抱え込んだ。



「……それならば心配いりません、おい! わしの分を早く持って来い!」

そう背後に怒鳴ると、細兵衛は強引にお清の隣にどかっと座った。

凄い体重がどかっと座ったので、畳は揺れ、膝立ちだった清吉は横に倒れてしまった。


「おほ!」


 細兵衛は倒れた美女の裾から見える、光るような生足に目が釘付けになった。

それは触れれば手が吸い付きそうなくらいすべらかで艶かしく、そしてむっちりとしていた。


 細兵衛は熱くうずく股間をなんとか騙し、

「大丈夫ですかな?」

と、さりげなさを装いつつ美女の胸元の服を鷲づかみに抱えて抱き寄せた。


 清吉は特に気にした様子もなく、「あぁ、大丈夫です」とおざなりに返事をして、酒とつまみがこぼれていないか確認していた。

細兵衛もそれをいいことに、そのまま手を離さず美女の豊満な胸を服の上からさわさわと大胆に撫でていた。


 その様子を廊下から、男は「何なんだ、これ…」とつぶやきながら覗いていた。



 それから、なんとも珍妙な宴が始まる。

細兵衛はしきりに清吉であるお清に話しかけるが、お清は「はぁ」とか「へぇ」とかおざなりに返事をしながらご馳走と酒を楽しんでいる。

細兵衛はそんな美女に気を害することもなく、ことあるごとに太ももを撫でたり、胸をひじでつついたりしていた。



 やがてつまみも酒も無くなり、程よく酔ってきた。

清吉はそのまま後ろに倒れて大の字になって寝ようとし、その前に、廊下に出て部屋の前の松を植えてある庭に立ちションをしようとし立ち上がろうとした。


 が、いきなり隣から腕をつかまれる。

清吉が横を見ると、そこには目が血走り、鼻息も荒く口もだらしなく開いた細兵衛の姿あった。


「うっ…」


 欲望にかられたその姿は、醜悪の一言だった。

そしてそれは、いつもの清吉の姿でもあった。


「ここまで接待してやったんだ、もうわかってるよなぁ!」

そのまま細兵衛はお清を引っ張り上げ、廊下とは逆のふすまを勢いよく開けた。


「!」

そこには、10畳ほどの部屋にほとんど布団が敷き詰められ、7人の美しく若い女たちが上等な浴衣をこれまた半分脱ぎかけた淫らな姿で寝そべっていた。

仄かにともされた明かりが、部屋を妖しく照らし出している。


 思わずその光景に見とれた清吉を、細兵衛は布団の上に突き倒した。

顔から布団に突っ込んだ清吉は、急いで顔を上げると、自分の周りに寝そべっている半裸の女たちを目に焼き付けようとした。


「もうわかっていると思うが、お前もわしの妾たちの中に入れてやる! どうだ、嬉しいだろう?」

「こ、この別嬪の中に俺を入れてくれるのか!? そりゃありがてぇ!」

清吉はすかさず近くにいた女に抱きついた。

そのまま首筋に顔をうずめ、女の生肌のかぐわしい匂いをかいだ。


 細兵衛は、お清の顔が絶望にゆがむのを楽しみに待っていた。

しかし目の前の美女は、悲しむどころか自分の妾のひとりにむしゃぶりつき、あろうことか事に及ぼうとしている。


「こら! まずはわしの相手をせんかっ!!」

細兵衛は慌てて身に着けていた着物を脱ぎ捨てた。

絡み合う女二人は、すでに桃色の吐息をはいている。

己と致すときにはそんな顔をしたことないのに!


 ふと、お清の色っぽい視線が、全裸になっている細兵衛に向いた。

細兵衛はいきり立った股間を見せ付けるように身体をそらし、自慢げに笑った。


「…お前さんのちん○うはどこにあるんじゃ…? もしかして、細いのってお前さんのちん○うのことだったんかい!」


 お清の不思議そうな声に、布団の部屋から女たちの押し殺した笑いが上がった。


 細兵衛のブツは、人よりもとてもささやかなモノだった。

さらにでっぷりと肥えた腹の肉や股の肉に埋もれて、かきわけないと見えなかった……。


「やかましいわぁぁぁああああ! 今からお前にわしのモンを教え込んでやるわぁ!!」

怒りに顔を赤黒くした細兵衛が、ちゃっかりと女の乳を揉んでいたお清に飛び掛った。


 お清は女と引き剥がされ、あっという間に細兵衛に組みしかれてしまった。

「さぁ、わしのモノでひぃひぃ言わせてやるわ」

「うわぁああ、俺の上でブヒブヒ言わんでくれ、涎がかかるわ! どうせするなら見目の良い男としたいわ!」

清吉の言葉に、寝そべっていた女たちは一斉にうなずいた。




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