守り神の悩みを聞いてみた
「小僧、頼みがある」
「んー? どうした」
たまには部屋でゆっくりするのも良いだろうと、ベッド上で寝転んでいた。
ぼーっとしていたので、ガイに適当な返事をする。
「働きたい」
「働きたい……だと?」
「ああ、我輩このまま穀潰しのままでいるのは限界だ。頼む」
「ちょ、待て! いきなり過ぎるだろ」
「この通りだ」
俺に向かって土下座をし出した。
プライド地味に高いガイが土下座。
とりあえず、何故いきなり働きたいなどと言い出したのか聞くため、頭を上げてもらう。
「何があった」
「最近、我輩が悩んでいたことを知っているだろう」
「まあな」
ガイがティールちゃんのヒモと化している現状。 セシリアのことでいっぱいいっぱいだったので、案を考えることを忘れていた。
「考えても良い策が浮かばんのだ。この宿から一歩でも出れば、周りは敵だらけ。外に出ることすら、小僧の力を借りねばならん」
「人気のない夜に、魔法で姿を消してこっそりとな」
魔法の効果が切れたら不味いから、そこまで遠出も出来ないしな。
「わかっているのだ。我輩がこの人間社会で働くなど夢物語だということをな」
「ガイ……」
「だが!」
力強くガイは床に拳をぶつける。
「ティールが笑顔で訪ねてくる度に『守り神様、どうぞ』と袋いっぱいの魔鉱石を我輩に渡してくるのだ。無下に扱うわけにもいかず、食していると『また、来ますね』と笑顔で帰っていく……稼いでいる給金をどれだけ我輩に回しているのか」
「あー、それはちょっとな」
「情けない話だが、我輩は聞けなかったぞ。……小僧にこの気持ちはわかるまい」
「……ごめん」
聞いていて泣きそうになってしまった。
いらないと言っても、ティールちゃんは聞かないだろうし。
強めに拒絶すれば、何をやらかすかわからない。 ティールちゃん、取り扱い注意だからなあ。
「このままでは、お互いに良くないと我輩は思う」
「んー、でも村にいた時は無償でお供え物受け取っていたんだろ。それと、同じじゃないのか?」
「確かにそうだな。しかし、昔の我輩がよしとしても今の我輩には無理だ。出来ることなら、過去に受け取っていた分も含めてティールに返していきたい」
「ふむ……」
割りと真面目な相談のようだ。
まあ、このままヒモでいるのも良くないだろうし。
「ガイが稼げたら、宿部屋も取れるしな」
「む、まあ、そうだな」
イチャイチャを俺の部屋で見なくても済むし、気まずくて、ひっそりと出掛けなくてもいいわけだ。
「よし、俺に任せろ」
ミカナやセリアさんたちのおかげで、セシリアと良い感じになれたし。
今度は俺が誰かのために動いてやるぜ。
「すまないがよろしく頼む」
何よりこんなに低姿勢なガイを邪険に扱うことなど出来ないしな。
「じゃあ、まずはどうやって外に出るかだ」
いろいろと問題点があるからな。
石の体に人間離れした身長。
翼に角に顔が鬼……町に出たら即レイヴンたちが飛んで来てしまう。
身体を隠すにしてもデュークみたいに、鎧兜じゃ顔が出るから無理だし。難しい……デューク、ハピネス、シークの時は直ぐに思い付いたのにな。
「やはり、無理だろうか」
「簡単に諦めるな。ガイの決意はそんな直ぐに諦めるほどに弱かったのか!?」
「ぐ、しかしだな。我輩もここ最近ずっと考えたが」
「ふん、言い訳だな。決意が重ければ泣き言など言わずに可能性を模索し続けるぞ。足掻け、絶対に策はある!」
気持ちが高揚して、厨二スイッチが入ってしまった。
「ぐ……確かにそうだな。考えてみよう」
「それで良い」
ガイを励まし、二人でどうにか出来ないか考える。
そして、厨二スイッチが入り頭が冴えたのか妙案が浮かんだ。
「ガイ……閃いたぞ」
「何!? 本当か」
「ああ。でも、これはガイに相当な覚悟がないと試せない。最悪、失敗すれば……」
「……覚悟はある。小僧の案を聞かせてくれ」
「ふっ、では、聞かせてやろう」
俺の考えた覚悟がいる案をガイに話す。
悪ふざけ無しのガチな作戦だ。
ガイは真剣な表情で話を聞き、静かに首を縦に振って俺の案を実行に移すことになった。
いろいろと物がいるので、その日の内に買い物を済まし準備完了。
そして、夜になると二人でこっそりと宿から抜け出し、人気のない郊外の森の中へ向かった。
「声は出すなよ」
「わかっている」
「よし、じゃあ、始めるぞ。ガイの身体、大改造だ」
俺が考えた作戦はいたって簡単。
目立つ部分を無くすことだ。
俺が角や翼をちぎっていること同じだ。
ただ、ガイは俺みたいに自由に身体を再生出来ない。
しかし、ロックイーターの変異体ならば腕や翼が生えてくる。
タリクーボ商会に行き、ロックイーターの変異体の素材を買ってきた。
かなり高かったが、これはガイへの先行投資ということで。
「確認だけど、あの時は生えてきたけど今回、また生えてくるかはわからないぞ」
「承知の上だ」
ガイは容赦なく、自分の翼を折った。
そして、ロックイーターの欠片をボリボリと食べる。
「何も起こらん……」
「魔鉱石だ、魔鉱石も食え!」
魔鉱石もありったけ買ってきたので、ガイの口に突っ込む。
「むむ……身体が熱いぞ!」
ガイが悶えていると、以前と同様、折ったはずの翼が再生された。
「魔鉱石も食べなきゃ駄目か。しかし、ロックイーターの変異体じゃなきゃ駄目なのかな」
「それはわからんが、とりあえず後戻りは出来そうだな」
「ああ。じゃあ、続けるか」
角と翼を綺麗に折って、魔鉱石を食わせてひびを修復。
これで作戦の第一段階が完了した。
「……で、これからどうするのだ。我輩は角と翼のことしか聞いていないが」
「後戻りが出来るかわからなかったからな。外装は任せろ」
「今更だが、我輩、不安を感じるぞ……」
ガイの心配をよそに買ってきた物を渡す。
一応、近くの村の店を何件か回ったり、行商の商人から買ったりと入手ルートをばらばらにした。
万が一何かあったらという心配からだ。
……別に何もないとは思うが。
「……着てみたが、これでいいのか?」
「よし、ばっちりだ。これでギルドに登録するぞ」
「無理だと我輩は思う。この格好ではな」
「大丈夫だ、俺もついて行ってやるからさ」
上手く登録出来るようにサポートをしてやるつもりだ。
クレイマンに頼めば、即オーケーをくれるだろう。
「小僧と歩いても我輩が目立つことに変わりはないだろう」
どうやらガイは乗り気ではないらしい。
ここまできたら覚悟を決めろよ。
「仕方ない。俺が一肌脱ぐか」
「……何をするつもりだ?」
「くくく、全て俺に任せろ」
「……不安だ」
ガイの心配をよそに勝手に計画を立てる。
俺は準備があるので宿に帰り、ガイとは翌日の朝合流することにした。
森の中なら隠れる場所が多い。
最悪、人間のふりしてごまかすように言っておいたし、大丈夫だろう。
「さて、俺もガイのために頑張るとしようか」
俺は封印していた物を解放し、明日に備えた。
翌日、無事にガイと森で合流した俺はギルドに来ていた。
理由はもちろん、ガイのギルド登録のためだ。
「おい、町を歩いているだけではらはらしたのだが、大丈夫なのか」
「気にするな。あと、俺のことは名前で呼ぶなよ。今の俺は……」
「あの、すみません。当ギルドに何か……?」
いつもの女性職員が声をかけてきた。
入り口での立ち話は迷惑だったか、自粛しないとな。
「ああ、彼の新規登録を頼みたい。引き受けてもらえるだろうか」
「は、はい。こちらの方ですね、わかりました。……確認なのですが、あなたはギルドに登録済みですよね?」
「何を言っている。俺を登録してくれたのは、他ならぬ君ではないか」
「そ、そうですね。失礼しました。こちらの席へどうぞ」
困惑気味の女性職員、何かあったのか。
別に変なことはしていないはずだ。
「おい、あの娘に何かしたのか」
「記憶にないな」
すたすたと案内に従い、受付に向かう。
今更だが、ギルドにいる冒険者たちの視線がきつい。
しかし、ガイだけではなく俺にも向いている。
木を隠すなら森の中作戦は成功だ。
「おい、我輩たちすごく目立っているが大丈夫なのか」
「気にするな、他人の視線など捨て置け」
「無理だ」
ガイとの問答をしている内に、受付の席に座る。さあ、ガイのギルド登録だ。
「おい、シエラちゃ〜ん。依頼くれよ〜」
酔っぱった冒険者がこちらに向かって歩いてきた。
女性職員の名前を始めて知ったな。
ずっと女性職員だったし。
しかし、朝から酒飲みとは、感心しないな。
俺は椅子から立ち上がり、酔っぱらいを宥める。
「すまないが、俺たちが先客だ。終わるまで待っていてもらおう」
「ああん。なんだてめーは。怪しい格好しやがって」
酔っぱらいはたちが悪いな。
しかし、俺を知らないとは。
ならば、特別に答えてやるか。
「俺の名は黒雷の魔剣士! 仲間のために久しぶりにギルドに帰ってきたぞ」
ビシッと酔っぱらい相手にポーズを決める。
ギルド内にいる冒険者や職員たち全員が固まった。
復活の黒雷の魔剣士(笑)です




