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元部下に相談してみた

周囲は燃え盛る炎が広がっている。

家屋に畑、教会が燃えているので場所は何処かの村だろう。

そんな燃え盛る村の中心で、俺とユウガは対峙していた。



「どうしても俺の邪魔をすると言うのだな」



「ああ……君は僕が止めてみせる」



ユウガは聖剣を俺に向ける。

俺の格好は魔族……ではなく封印したはずの黒雷の魔剣士だ。



「俺は俺の行くままに進ませて貰う。誰の指図も受けん。止めるというなら突破するまでだ」



「僕は勇者だ……人を正しい道へ導く義務がある。だから、君を絶対に止めてみせるよ」



ユウガが聖剣を握る手に力を込めたのを感じる。

どうやら、遊びではなく本気で向かってくるようだ。



魔王城で闘った時とは比べ物にならないぐらいのプレッシャーを感じる。

今まで闘ってきた中で一番の強敵かもしれない。

だけど、俺は負けない。

いや、負けられないんだ。



「そこまでして俺の……恋愛の邪魔をするんだな」



「君の恋愛感情は歪んでいるんだ。君じゃセシリアを……幸せには出来ない!」



「黙れ! 俺は自分の歪んだ恋愛感情になんて負けない!」



「勝つ、負けるの話じゃないんだ……君のそれは自分自身の意志では絶対に抑えられない」



「ふん、この俺を誰だと思っている。俺の名は黒雷の魔剣士だ。自分の恋愛感情程度、俺は支配するっ!」



俺は高らかに宣言し、ユウガに向かって走り出す。

ユウガは鞘から聖剣を抜き、俺を待ち構える。

やがて、俺達の剣は交差し戦いが始まった。



「阿呆かぁ!!」



俺はツッコミ入れつつ、ベッドから飛び起きた。

周りを確認すると、確かに俺が借りている宿部屋。

念のために頬を少しつねる。



「いててて……夢じゃないな、現実だよな。良かったー」



謎過ぎる夢から覚めたことに安堵し、ベッドから起き上がる。



「む、起きたか。今回の夢はどうであった? 我輩、魔法をかけた後、すぐに寝てしまったのだが」



「とりあえず、いい加減変な夢を見せるのは辞めろと言っておく」



たまには普通に目覚めたい。

うわぁとか、なんでだとか悲鳴あげ、ツッコミを入れつつ起きるのは疲れる。



「ふむ、そうか。では、最近覚えた新しい闇属性の魔法を試してやろう」



「待て、俺で魔法の実験をするな。しかも、闇属性の魔法とか怖過ぎるわ」



「遠慮するな、小僧。別に苦しむ魔法ではないからな。闇属性中級魔法『イリュージョン・アイズ』我輩の目の光を見た物はたちまち幻覚に襲われるという……」



「ちょっと待ってろ。今すぐにサングラス買ってくるから」



変わった物を専門に扱っている店に売っていたはずだ。

買ったら土魔法でガイの目の部分に埋め込んでやる。



「夢よりも幻覚の方がよりリアルで心地好いと思うが」



「その危険な香りのする発言を止めろ! つーか、新しい魔法を覚えたって、よく考えたらおかしいよな」



ずっと宿の部屋に引きこもりなガイが何故新しい魔法を覚えられたのか。

魔物との戦闘もなく、普段の魔法の使用といったら俺への『ナイトメア・スリープ』ぐらいのはずなのに。



「ティールが持ってきた魔鉱石を食べたらな、魔力が上がったのだ。さらに、魔法についての本も持ってきてくれたので、読まないわけにはいかず……」



「お前、完全にティールちゃんに養って貰ってるじゃねーか」



昨日ティールちゃんとガイの会話を聞いていたが、まさか、魔法書まで持ち込んでいたとはな。

ティールちゃんはガイに何を目指して欲しいんだ。



「待て、その言い方は止めろ。それでは我輩が何もせずに部屋にいて、ティールが我輩のために身体を張って働いていることになるではないか!?」



「実際そうじゃねーか」



ピシッとガイの身体に亀裂が入った音が聞こえたような。

相当ショックだったのか、顔が固まって、石像のようになってしまった。

……元々石像だったな。



「『イリュージョン・アイズ』についてはまた、今度にな。……なんなら、お礼にティールちゃんに幸せな幻覚でも見せてやれよ。二人で手を繋いで街中で買い物している幻覚とかさ」



動く石像が動かない石像になってしまったので、俺は部屋を出ることにした。

いてもやることはないし……ちょっと、いたたまれなくなったからだ。



「じゃあ、俺出かけるから。その……すまん」



動かない石像になったガイに軽い会釈をし、部屋から出た。

ガイにばかり構っていられない。

俺は俺で悩みがあるからな。



「……で、結局俺が呼ばれるんすね」



「相談役がデュークしかいないんだ、頼む」



行きつけのケーキ屋のカフェコーナーに俺とデュークはいる。

悩みがあり、相談するといったら一番始めに浮かぶのかデュークなので、呼び出した。



「隊長、適度に物事を相談出来る知り合い、作った方がいいっすよ……」



「別に俺にだってここに来て、出来た知り合いぐらいいるぞ。コンプレックス持ちの剣士に、だらけ癖のあるギルド職員だろ。後は筋肉ムキムキなパティシエに……」



「類は友を呼ぶって奴っすね」



「お前もその友に含まれているからな?」



「首が取れてる時点で常識から外れてるっすよ」



それもそうかと思い、俺の知り合いが少ないという話は打ち切る。

さっさと本題に入らないと、だらだらと時間だけが過ぎてしまう可能性があるかだ。



「で、相談は二つあるんだが」



「まじっすか。まあ、内容はだいたい想像出来るっすけど」



聡明で相談慣れしてしまっているデュークは俺の悩みに薄々感づいているみたいだ。

本当にこれから頭が上がらなくなりそうで怖い。



優秀な部下を持てて幸せと喜ぶべきか……いや、元部下だった。



「じゃあ、話は早いな。一つ目はレイヴンとハピネスについてなんだけども」



「……二人は一旦距離を置いた方が良いんじゃないすかね。隊長から聞いた限りだと、何かの段階は踏んだはずっすから」



あの時、ハピネスのストレートにより俺は二人に何があったのか、見れなかったからな。

キスまでいったのか、ハグでもしたのか。

キスなら頬にしたのか、口なのか。



「むうう……気になるな。二人は何をしたのか」



「聞くのも考えるのも野暮っすよ。ハピネスは知られたくないから、隊長にストレートを叩きこんだんすから」



デュークから余計な詮索はするなと注意が飛んできた。

俺だって気になりはするが、しつこく二人に聞く気はない。

逆の立場になったら、聞かれたくないしな。



「わかってるよ。じゃあ、今は二人には何もしない方がいいんだな?」



「後は二人で少しずつ距離を縮めていくと思うっすよ。一度回り始めた歯車はもう止まらないっす」



「……あの二人なら、外から回さないと止まる気がするが」



「そこまでするのは余計なお世話ってやつっすよ。サポートは良いっすけど、無理矢理くっつけようとするのは駄目っす」



「きっかけは出来たんだし、早めることぐらい、良いんじゃないか?」



あの二人はもうくっついても不思議じゃないと思う。後押しする感じでくっついても問題はない気がするけど……駄目なのか。



「隊長、気持ちの整理が出来てないまま、無理矢理くっつけても意味ないっすよ。あの二人なら、気まずくなって会う回数が激減するのが目に見えてるっす」



「マジか……そんなことになるのか」



「レイヴンもハピネスも引っ込み思案すからね。お互いに待つ体勢になって、会わなくなるパターンになると思うっす」



「じゃあ、今はほっとくしかないのか」



「そうっすね。とりあえず、どっちかが行動を起こしたそうにしていたら、相談に乗る感じでいいんじゃないすか」



先程の話からすると、どちらが行動を起こすまでかなり時間がかかりそうな気もするけどな。

気持ちの整理をつけなきゃってことには一理あるな。



「よし、レイヴンとハピネスについてはしばらく手を出さずに様子見ということにしよう」



「そうするっす。じゃあ、二つ目の相談に移るっすよ。……隊長自身の相談っすよね」



「ああ、そうだ。レイヴンとハピネスは一歩進んだ感じなのに、俺は何も変わらずに現状維持。このままでいいのかと考えていたら、昨日眠れなくてな」



レイヴンに対して嫉妬に近い感情を抱いているような気がして嫌だ。

レイヴンとハピネスの恋についても相談しに来たというのに、なんだか矛盾している気がしてもやもやする。



「隊長はまず、好きな相手……セシリアさんのことを知った方が良いっすよ」



「セシリアについて? つまり、俺にセシリアのストーカーになれということか」



「馬鹿じゃないすか。そんなことしたら、俺は騎士として隊長を捕まえることになるっすよ」



「じゃあ、どういうことだよ」



セシリアについて知るってのは、ストーキングしろということではないのか。



「前の尾行デートの時に言ったじゃないすか。セシリアさんについて知った方がいいって」



「……言ってたな」



ストーカーにならない程度に調べようと決めた記憶がある。

そういえば結局、調べてない。



「はぁ、だから隊長は駄目なんすよ。俺がアドバイスしたのに実行してないんじゃないすか」



「うぐっ、すまん」



「そんなんで悩んでるって言われても俺困るっす。まず、俺がアドバイスしたことを実行して、それでも駄目だった時に相談して欲しいっすね」



「……本当にすまん」



今回ばかりは完全に俺が悪いのでとにかく謝る。

与えられた助言を無視している癖に相談に乗って欲しいとか、馬鹿にしているにも程があるよな。

デュークが怒るのも無理ない。


「隊長は知る必要があるっすよ。セシリアさんのことを」



「なんか、含みのある言い方だな」



「実際にそうなんだから仕方ないじゃないっすか。隊長はセシリアさんが何が好きで嫌いか。得意なこと、苦手なことはないのか。普段何をしているのかわかるんすか?」



いきなりの質問攻めに俺はたじろぐ。

でも、これ全部答えられたらストーカーに当てはまると思うが。



「……流石に全部は把握していない。でも、そういうことを全部知っているのって気持ち悪くないか?」



「確かにそうかもしれないすけど、ある程度の把握は必要だと思うっすよ。それに、セシリアさんのことは好きだけど、セシリアさんに興味がないっていう矛盾が生まれるじゃないすか」



「何故そうなる。俺がセシリアに興味が無いわけないだろ!」



ちょっと強めな声が出てしまった。

好きな相手のことに興味がないなんてありえん。



「それっすよ、隊長。隊長には貪欲さが足りないっす。怖がらずにセシリアさんについて調べてもいいと思うんすけどね」



デュークは俺の内にある欲を引き出すために挑発したのか。



「……分かったよ、好きな相手のことを知るってのは重要なんだな」



やってやろうじゃないか。これはストーキングではなく、あくまで調査。



このもやもやを消すには多少のリスクもやむを得ない。

俺はセシリアとの関係を深めるためにセシリアについて調査を開始しよう。



「よし、では早速行動に移る。デューク、俺の行くべき道を教えてくれたことに感謝するぞ。またな!」



「……あくまでも俺個人の意見であって、これが正しいかどうかは別だっていうことを付け足させて貰うっすよ」



デュークの言葉を小耳に挟み、俺は椅子から立ち上がり店を出る。



「あの、ヨウキ様、お代を……」


「あ、ごめんなさい」



アミィさんに引き止められ、俺はお代を支払う。

かっこがつかない俺だが今回こそはと誓いを立てよう。



「アミィさん、俺頑張るよ」


「え、あ、はい。えっと、わかりました、頑張ってください 」



「うん。じゃあ、ごちそうさま」



「またのご来店をお待ちしております……?」



最後に首を傾げるアミィさんに見送られ、俺は今度こそ店を出た。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 相手を知ること=ストーカー行為って発想はおかしいのでは?と気になりました。 レイブンのようなコミュ障なら合いますが、主人公はギルド依頼で聞き込み等で慣れている筈ですし、聞き手上手なシー…
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