ヘタレてみた
俺は何故か正座させられている。
果たして俺が何をしたというのだろうか?
「あの〜、セシリア。そろそろ足痺れてきたんだけど……前みたいにベッドに座っていいかな?」
恐る恐るセシリアに聞いてみる。
俺にとっては女神的な存在であるセシリアだ。
きっと慈悲を与えてくれるはず……
「駄目です。反省してください」
与えてもらえなかった。
ニッコリと微笑んでいるが、目が笑っていないのが分かる。
そんな彼女もいい気が……やばい、末期かもしれない。
「クスクスクスクス」
この修羅場のような状況を一人だけ楽しんでいるのがセリアさんである。
俺とセシリアの絡みを見てずっと笑っている。
……元凶はセリアさんなのだから、助け舟ぐらい出してほしい。
そんな思いが通じたのは、俺の足がほぼ限界を迎えた頃だった。
「セシリア、そろそろ許してあげなさい。別に裸を見られたわけじゃないでしょう。寝起き姿ぐらいいいじゃない」
おお、ついに救いの手がきたのかもしれない。
セシリアもいつもの表情に戻ってきている。
「どうせ、いつかは裸も見せあう仲になるんだから気にしても仕方ないでしょう?」
爆弾落としたぁぁぁぁ!?
この人味方じゃねえ。
セシリア、顔真っ赤になってるし。
俺は足が痺れて動けない。
チートがあっても正座後の足の痺れには勝てないな。
「あらセシリアったら顔真っ赤よ?まさか、もう……」
これ以上爆弾を落とされてはたまらないので、話の流れを変えよう。
「ところで、今日俺は何故呼ばれたのですか?まさか、このためってわけじゃないですよね?」
これだけの用なんてあんまりである。
「ええ、もちろんよ。でもその前に話さないといけないことがあるわ」
ベッドに座りセリアさんの話を聞くことに。
セシリアも回復したようで、俺の隣に座る。
「先日、ヨウキくん、屋敷に来たわよね。実はセシリアが男性を屋敷に招くことって珍しいことなのよ」
あの時はセシリアが話をするために屋敷に招いてくれたんだよな。
「セシリアは男性の知人が少ないの。勇者様と仲間の剣士さんだけだと思ってたのに……全然知らない方が来たんだもの。だから、最初は皆で隠れて様子を見ることにしたの」
そういえば、あの時、屋敷の中で会ったのは門にいた兵士たちだけだったな。 これだけ大きな屋敷なのに、誰も使用人がいないのかと不思議に思ってたんだけど……。
「そしたら、あなたとセシリアが笑いながらお話しているじゃない」
たぶん、俺が厨二モードに入っている時のことだろう……ということは。
「もしかして俺が言ったこととか聞いてたりします……?」
「もちろん。ヨウキくん、かっこよかったわよ。『君しか眼中にない』なんて。私も夫に言われてみたいわぁ」
ぎゃあぁぁぁぁ!?
最悪だ。ただでさえ消したい黒歴史なのに。
顔面蒼白で魂が抜けかかっている俺に対し、セリアさんは追い撃ちをかけてくる。
「決めポーズもあったわねぇ。屋敷の皆真似してたわぁ」
あはは……最悪だ。
片手で顔を隠し、残った腕を伸ばし指差すというイタいポーズ。 厨二モードになるとついやってしまうあれが屋敷中で流行るなんて。
セシリアは使用人達が真似ていることを知っていたからか、クスクス笑っている。
「いっそ殺してください……」
「ウフフ、駄目よ。……さて、そろそろ本題に入りましょうか」
急に真顔になるセリアさん。
どうやら、結構真面目な話のようだ。
俺もセシリアも真顔になり、真剣に聞く。
「セシリアに大量の婚約の話が来ているの」
それは聞いている。
有能な人材を集めるためとかっていう話だ。
まあ、政略結婚という奴だろう。
セシリアは断っていると聞いたが何かあったのだろうか?
「その中にね。勇者様からの婚約の話もあるのよ」
……何?
「勇者様ったら、セシリアのことが好きみたい」
俺の中で何かが割れる音がした。
かたや、魔王を倒し世界を救ったイケメン勇者。
かたや、ギルドランクDの冴えない顔の正体隠した魔族。
……勝ち目なくね?
「セリアさん。婚約はもう……?」
「ウフフ、大丈夫よ。セシリアが断ったもの。……でも勇者様諦めてないのよねぇ」
安心したのも束の間、すぐさま地獄に落とされる。 セシリアはというとはぁ、とため息をこぼしている。
「いや、あの勇者くん何なの!? ベタぼれな魔法使いとかパーティーにいたじゃん。 テンプレ通り王女様とかもほれてんだろ。だったら、別に 俺の恋の邪魔しなくてもいいじゃんかぁぁぁぁ!」
興奮してつい勇者くんの愚痴を言ってしまう。
やばい、素で言っちまった。
セシリアも俺が素を出したからか、顔に焦りの色が見える。
「あら、勇者様に対してそこまで言うなんて、よっぽどセシリアのことが好きなのね」
どうやら、間違った方向に解釈したようだ。
セシリアもほっとしている。
「そんな、ヨウキくんに聞くけど……あなたセシリアと結婚しない?返事は今すぐ、するかしないかで答えて」
セシリアはお母様!?と言って驚き、慌てふためいているが、手で制止される。 ふむ……。
前回ラッキーチャンスを逃した俺にとっては、またとないチャンスかもしれない。
セリアさん公認なら後腐れがあっても揉み消してくれるだろう。
俺の答えは……。
「ごめんなさい」
頭を下げた。答えはノーである。
「……理由を聞いてもいいかしら?」
「いや、とても魅力的な申し出だとわかっているんですけど。俺セシリアに告白して断られているんです。だから、自分がまっとうな生活できるようになったら再度告白しようと決めていて」
俺を真っ直ぐみて話を聞くセリアさん。
セシリアも俺の答えが気になるのか、おとなしくしている。
「それにいきなり結婚って言われても……その、何と言うか……えっと」
大切なところでどもってしまう。
そんな、俺の姿を見てセリアさんはもういいわと言い表情を崩した。
「フフッ、ヨウキくん、合格よ。どうやら娘の目は正しかったみたいね」
どういうことかわからず俺もセシリアも首を傾げてしまう。
「いくら何でも、大事な娘を今日会ったばかりの人にあげるわけないじゃない」
「ええーーっ!?また嵌めようとしたんですか?」
「違うわよ。娘に変な虫がついてたら大変でしょう。だから、試したのよ」
セシリアも知らされてなかったのだろう、少し怒っているようだ。
それにしても、試したということは……
「もし、俺がするって言ってたら……?」
「ソフィアを呼んで屋敷から追い出してもらっていたわ」
どうやら、俺はかなり危険な選択を迫られていたらしい。
チートでも越えられない壁がある。
会って分かったが、ソフィアさんもその壁の一つだ。
「合格って言ったでしょう。そんなに震えなくても大丈夫よ。……セシリアと仲良くしてあげてね。ヨウキくんなら歓迎するわ」
どうやらセリアさんに認めてもらったようだ。
……あれ?
今日、セシリアと何の関係も進んでなくね。
その後、セリアさんがセシリアの子供の頃の話をしてセシリアの顔が真っ赤になったり、ソフィアさんの伝説を聞かされ、俺の顔が真っ青になったりと楽しい一日で終わった。




