表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/420

人魚の話を聞いてみた

「……どうして人魚を庇う」


「……ダメ」



俺が作った足場を渡って二人の元に着くと、現場は修羅場と化していた。

未だにレイヴンは剣を向けたままで、ハピネスは両手を広げて人魚を守るように立っている。



そして、人魚も状況についていけていないようで、辺りを見回し困惑しているみたいだ。

……今なら、歌えば俺達を戦闘不能に出来るかもしれないのにな。



そこまで悪い奴でもないのか、事情を聞けるなら聞いた方が良いかもしれないな。

まあ、先にこの二人を止めないといけないが。



「おい、とりあえずレイヴンは剣を下ろせ! 」



「……ヨウキも人魚の味方をするのか? 相手は魔物だぞ」



「そういう訳じゃないけど……人魚にはもう敵意がなさそうだし、一旦剣を納めてくれないか?」



「……お願い」



「…………わかった」



俺とハピネスの説得により、レイヴンは剣を鞘に納める。

途端にハピネスはその場に座り込んだ。

いつもと表情は変わらないが、よく見ると手が震えている。



「大丈夫か?」



「……平気」



「それでこそハピネスだ」



昔、人間に襲われたトラウマか、ギリギリなタイミングで割り込んだからか。

理由はわからないが、少し精神的にダメージを受けたっぽい。

本人は平気だと言っているが、少し休ませておく。



「……」



レイヴンはレイヴンで、不機嫌そうに腕組みをして、視線を全く別の方向に向けている。

ハピネスがいきなり座り込んだというのに……声もかけないとは。



下手したら二人の間に亀裂が生じたかもしれない。

ふと、デュークの言葉を思い出した。

このまま、二人が微妙な雰囲気でミネルバに帰ったら……デュークとセシリアからのダブルお説教が待っているな。



「まじかぁ……」



良い感じだと思っていたのに、どうしてこうなったのか。

俺は別に余計なことをした覚えはない。

うん、俺は無実だ……多分。



「あ、あの……」



「ん、あ、ごめん。忘れてた」



俺がどう責任逃れをしようか画策していると、人魚が声をかけてきた。



「わ、私を殺さないんですか?」



「まあ、見ての通り事情が変わったというか、なんというか……」



「え……?」



二人に視線を向けて、苦笑いするも、人魚はこちらの人間関係を知らないからか首を傾げている。



「とにかく、仲間の一人が君に対して何か引っ掛かるところがあるみたいなんだ。もし、何かあるなら話して欲しいんだけど」



「わ、私は魔物ですよ。魔物の話をあなた達は信じてくれるんですか?」



この場に人間は一人しかいないんだけどな。

もちろん、ばらすわけにはいかないので言わない。

しかし、この口ぶりだとやはり何かしらの事情があるみたいだ。



「信じるかどうかは」



「……信じる」



話を聞いてからと言おうとしたのに、いきなりハピネスが会話に入ってきた。



「ほ、本当ですか!」



「……本当」



「おいおい……」



このままで良いのかと思い、ちらりとレイヴンに視線を送る。

しかし、レイヴンは完全に我関せずという状態だ。



「それじゃあ、話しますね。えっと」



「そ、その前に自己紹介をしよう。俺はヨウキだ、よろしくなー!」



雰囲気がかなりまずいので、ヨウキだけに陽気に自己紹介をしてみた。

……今、思ったことを口にしていたら、極寒になっていただろうな。


「……狂った?」



「正常だ、阿呆! この無礼なのが、ハピネスで、そっぽ向いているのがレイヴンだ」



いつものハピネスとの絡みにもレイヴンは反応しない。

かなりの重症か、今のレイヴンの心境がイマイチわからん。



「えっと、私はシケです」



「シケちゃんな、なるほど。で、シケちゃんは家のハピネスが感じとった、何かしらの事情があるのか?」



ハピネスの頭をぽんぽんと撫でつつ、尋ねる。

すると無言で撫でていた手を弾かれた。

不快な思いをさせたみたいだな。

まあ、いつもは俺がおちょくられているから、謝罪はしない。



「は、はい。私は脅されて、歌わされているんです……」



「……はい?」


ここまでに到る過程をぶっ飛ばして、自分の現状を説明してきたな。



「……詳細」



「あっ! これでは説明になりませんね。ごめんなさい」



「いや、いいから。とりあえず、落ち着いて説明してくれ」



「はい。ある日、私は友達のミサキと一緒に海を泳いでいました。しかし、突然の嵐に巻き込まれてしまい、気がつけば……私は手を縛られて、目隠し、さるぐつわをされていたんです」



「嵐で海の外に打ち上げられて、運悪く見つかり捕まったんだろうな」



「……理解」



「もがいていたら、私の耳に聞こえてきたんです。『仲間の命が惜し気れば、言うことを聞け』と」



「友達の人魚も捕まっていたってことか」



「ミサキが殺されると思い、怖くなって首を何度も縦に振りました。そしたら、担がれてここまで運ばれて……後は指示通りに港で歌い、船に乗っている人達を眠らせていました」



「……ふむ」



これでシケちゃんの話は終わりのようだ。

俺は、シケちゃんが本当のことを言っているとは思う。

しかし、断言は出来ない。



命が惜しくて嘘を言っているという可能性も少なからずある。

此処は二人の意見を聞きたいところだが。



「……ヨウキ、ちょっと来てくれ」



今まで黙っていたレイヴンが俺だけを呼び出した。

会話が聞こえないように、二人から離れる。



「なんだよ?」


「……ヨウキはあの人魚の話を信じるのか?」



「俺は……」



こっちが二人の意見を聞きたかったのに、まさか先に聞かれるとはな。

答えずに沈黙しているとレイヴンから、意見を言い出す。



「悪いが俺は信用出来ない。旅の途中で何度もああいうなりの魔物に遭遇したからな」



「やっぱりか」



先程からレイヴンの意志は変わっていないみたいだ。セシリアは俺のことを導いてくれたんだけどな。

レイヴンは魔物についての偏見を簡単になくせないか。



どうしたものかと悩んでいると、ハピネスがこちらに向かって歩いてきた。

レイヴンは会話を聞かれたくないから離れたというのにな。



「……信用、無理?」



ハピネスがレイヴンの目を真っすぐ見て尋ねる。

真剣な眼差しに圧されたのか、レイヴンは目を逸らす。



「……すまないが、俺には魔物の言葉は」



「……なら、彼女を信じた、私を信じて……欲しい」



レイヴンの両手を取り、上目遣いで懇願している。

そんな光景を見ている俺は言葉を失った。

ハピネスは上目遣いなどするキャラではない。



それにあの口調、明らかに無理をして喋っている。

別に長文を話せない訳ではないが、今の精神状態はあまり良くないからな。

俺は完全に蚊帳の外な訳だが、レイヴンの答えを知りたい。



「……っ俺は」



握り閉めた拳が震えているので、あと一押しだな。

俺の入る空気ではないので、ハピネスに決めて貰おう。



「……了承?」



ハピネスはいつもの無表情で首を傾げる。

緊張に耐えられなくなったのか、考えがあってか。

最後はいつものハピネスが出たな。



「……わかった。まだ、人魚が犯人と決め付けるのは早計かもしれん。……調査をしてみよう」



レイヴンもようやく折れてくれたみたいだ。

ハピネスも、心なしか少し嬉しそうな表情になっているような……?

まあ、これで二人の亀裂も無くなっただろうし、調査に乗り出せるな。



「ん、なんで二人共俺を見ているんだ?」



「……俺とハピネスは調査を続けようという話になったが……ヨウキの意見を聞いていなかったことに気づいてな」



「……どうする?」



二人が決めたことに、俺が反対するわけないだろうに。



「もちろん、俺もシケちゃんの話を信じることを前提に調査するよ」



「……そうか」



「……流石」



ハピネスは俺にぐっと親指を立てる。

さっきまでの余裕の無さは何処にいったのやら。

もう完全に復活しているな。



「さて、じゃあ調査を始めるぞ。ハピネスはシケちゃんからもっと詳しく話を聞いてくれ。犯人に繋がる手がかりがあるかもしれない。俺とレイヴンはあそこに置いてある荷物を調べよう」



「……わかった」



「……了解」



「よし、動くぞ」



役割分担を決めたところで、俺達は行動を開始した。ハピネスはシケちゃんの元へ、俺とレイヴンは荷物が入っている木箱に向かう。



「……ヨウキ」



「なんだ。もしかして、レイヴンもハピネスと一緒にシケちゃんの話を聞きに行きたかったか?」



結構な量の木箱があるので、こういう役割分担にしたのだが。

せっかく和解したのだから、二人で行動させた方が良かったか。

最後の最後で気が利かないのは、俺の悪いところかもしれない。



「いや違う、それじゃなくて、……今、俺がとろうとしている行動は正しいことなのかと思ってな」



「……そのことかよ。そんなの答えは簡単だ」



「え……?」



俺は気合いを入れるため、レイヴンの背中を叩き、木箱まで走り出した。



「ハピネスのことを信じた自分を信じろよ!」



振り向くと、何かを考えるようにレイヴンは立ち止まっていた。

しかし、その時間はわずか数秒だけ。

すぐに走り出したレイヴンは、とても良い表情をしているように見える。



……あんなこと普段なら絶対に言わないんだけどな。ハピネスが頑張ったのだし、精一杯のフォローはしてやらないと。

ハピネスのためにも、レイヴンのためにもな。



デートの計画もあるし、あの人魚のためにも依頼を終わらせないとならない。

気合いを入れて調査をすることにしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ