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人魚に会ってみた

大変遅くなりました、すみません。

「……そこまで驚くことではないと思うが」



「……変」



前世のことを考えると人魚などお伽話の世界だからな。

でも、今まで人魚以上のファンタジーを体験したことを考えれば、今更かもしれない。



ハピネスはいつものことだが、レイヴンにまで微妙な顔をされるとは軽くショックだ。



「……ヨウキは人魚を知っているんだよな? だから、この事件に関与していると思ったんじゃないのか」



「まあ、知っているっちゃ知っているけど」



生憎と俺が知っている人魚がこの世界の人魚と同じだとは限らないからな。

下手に完璧に知っていると言うのは良くない。



「……そうか。一つ聞かせて貰うが、何故今回の事件に人魚が関係していると思った?」



知ったかぶりがばれたのか、俺を試すような質問をぶつけてきたな。

別に違っていても勘違いですむだろうし、俺の考えていることを素直に話すか。



「綺麗な歌声を聞いたって言ってただろ。歌声で人を魅了する魔物は少なくないからさ。それを考えると、海っていったら最初に考えられるのは人魚かなーって思ったからさ」



人魚については深く語らずに、半分適当に答えたんだというオーラを出す。

これなら、疑われずに乗り切れるはずだ。



「……単純」



「毒舌はいらん。それより、レイヴン。この説明でいいかな」



「……やはりヨウキは流石だ。臆測とはいえ、事件の核を突き止めたんだからな」



いきなりレイヴンがカッコつけ始めた。

普段はこういう臭い台詞を言わないのに。

ハピネスの前だから、いつもよりキャラを作っているのかもしれない。



「……変」



ぼそっとハピネスがレイヴンに聞こえないように呟いた。

メンタルが弱いレイヴンには気を遣ったのだろう。

俺への毒舌は聞こえるように言うくせに。



「……実はさっき有力な情報を手に入れたんだ。どうも、近くの洞窟の入り江で人魚を見たらしい」



「詳しく話を聞かせて貰おうじゃないか!」



「……早急!」



話を聞こうと詰め寄ろうとしたが、身を引く。

何故かというと、ハピネスも気になったのか、レイヴンに迫ったからだ。

中身純情なレイヴンはすっかり赤面。



こういうのが青春というのだろうなとしみじみ思う。……なんか、年寄り臭いな、俺。



「それで、情報は?」



ラブコメをするのもいいが、それは依頼を片付けてからだ。

俺の視線により、レイヴンがハピネスから距離を取る。



本人はクールに平静を装っているが、顔はまだ少し赤い。

無理はしなくていいぞ、レイヴンよ。



「……っ、実はヨウキとハピネスに情報収集を任せていた時に近づいてきた男がいてな。入り江で人魚と積まれている荷物を見たと言ってきたんだ」




こちらとしては欲しかった情報が転がり込んで来たわけだ。

しかし、あまりにも都合が良い気がする。



「そいつ、怪しくないか? 俺達が情報を集めていたのを見越して近づいてきたってことだろ」



「……ヨウキの言いたいことはわかる。でも、今は頼れる情報がこれしかないんだ。確かめる価値ぐらいはあるんじゃないか?」



レイヴンが普段より三割増しぐらいイケメンな気がするな。

いつもなら流されるがままのイメージだったのに、積極的に行動しているし。

頼れる男になりつつあるぞ。



「……決定」



ハピネスもレイヴンの案に賛成らしい。

レイヴンの言う通り、動かないよりは増しか。



「じゃあ、明日その人魚がいる入り江とやらに行ってみよう。何もなかったらまた情報収集だ」



「……わかった」



「……了解」



こうして話し合いは終わり、明日に備えて寝ることにする。

ちょっぴり期待していたラブコメ展開もなく、その日は終わりを迎えた。



次の日になると準備をすぐにし、件の入り江に向かうことに。



「……レイヴン、このまま順調に依頼が終わればデートが待っているぞ」



ハピネスに聞こえないようにレイヴンに囁く。



「……ヨウキ、今は依頼の最中だぞ」


真面目に正論で返してきた。

だが、俺には顔が赤くなっているのが見え見えだぞ。実は少し想像したな、レイヴンの奴。

レイヴンがノリノリなのはわかっているので、問題はハピネスだ。



どうやって、レイヴンと二人きりにさせようか悩み所である。

レイヴンにハピネスをデートに誘えとか無茶な要求はしたくない。

素直に首を縦に振るハピネスでないからだ。



どうしようかと、入り江に続いているはずの洞窟を進む。

すると、広い空間が見えてきた。



「……到着」



「……ここか」



レイヴンの聞いた情報通り、入り江は存在した。

それも中々の広さで、見たところ水も綺麗だ。

魚が普通に住んでいそうなぐらい清んでいる。



「人魚がいなくても充分綺麗な場所だな。……よかったなレイヴン、とりあえず良い思い出が出来たろ?」



俺はレイヴンの背中を軽く叩いた。

ハピネスは何のことかわかってないみたいだが、レイヴンはコクコクと頷いている。



「……あれ」



レイヴンが思い出作りの第一歩を踏めたと感心していると、ハピネスが何かを発見したようだ。

指を差している方向を見ると、そこには積み重った木箱が置いてあった。



「……ヨウキ、中身を確認しよう。失くなった積み荷かもしれん」



「ああ、わかった」



レイヴンと一緒に木箱を開けて確認する。

中には商品であろう、日持ちする加工食品や装飾類、宝石などが入っていた。 盗まれた荷物のリストを見せて貰ったが、全て該当する物ばかりである。



「ここに荷物があるということは……入り江にいるのか、人魚が」



俺がそう呟き振り返る。

すると、入り江から何かが飛び跳ねた。

音に気付き、二人も振り返る。



「おお……」



そこには上半身は美しい女性、下半身は魚。

まさしく、俺のイメージにピッタリな人魚がいた。

俺の視線に気づいたハピネスが一言。



「……変態」



「見るだけで、何でそこまで言われなきゃならん!?」


人魚はビキニをつけているだけなので、露出度は多い。

しかし、それぐらいで変態扱いはないだろう。



「……報告」



「ちょっと待て、誰に何を報告する気だ」



「……二人共、その辺にして構えた方がいいぞ」



ハピネスと漫才をしていると、レイヴンに注意されてしまった。

確かに、敵を相手にして軽率過ぎたな。

反省して、人魚の動きに注目する。



俺達が漫才している間に、人魚は泳いで入り江の中心まで移動したようだ。

何をするのかと警戒していると、人魚が口を開き歌い始めた。



「……まずいぞ、耳を塞げ!」



レイヴンの焦りの混じった声の忠告を聞き、両手で耳を塞ぐ。

人魚は美しい歌声で人を惑わすんだったな。

レイヴンのおかげで助かった。



「……って耳を塞いでいたら、闘えないぞ」



両手を封じられていては、何も出来ない。

かといって、耳を塞ぐのを止めてはダイレクトに歌声を聞いてしまう。



「……聞こえる、な」



手で塞いでいるだけでは、完全に音を遮断出来るはずもなく。

歌声が少しずつ聞こえ、意識が薄れてきた。



「……まずい、ぞ」



このまま眠ってはやばい。打開策はないかと、くらくらしてきた頭で必死に考える。

しかし、何も思いつかないまま、ただ時間が過ぎていく。



もうやばいなと意識が朦朧としてきた中、ハピネスが何を血迷ったのか。

喉の調子を確かめるように、手を当ててから歌い始めた。



その行動に何の意味があるのかと、意識が正常ではないのでツッコミを入れることが出来ない。

だが、すぐにハピネスの行動の真意がわかった。



ハピネスの歌が人魚の歌を掻き消しているのだ。

さすがハピネス、歌は得意分野だったな。



「……いける!」



完全には掻き消せていないせいか、多少ふらつく。

しかし、レイヴンは完全に動けるっぽい。

剣を抜いて、闘う気満々て感じだ。



この差はなんなのかと思ったが、ある根拠が考えついた。レイヴンにはハピネスの歌声しか聞こえていない説だ。



恋しているハピネスの声しか聞こえないとか……レイヴンならありえそうだ。

勿論、ただの仮説だけどな。



何はともあれ、俺はまともに動けないのでサポートに回るしかない。



人魚は水中にいるので、剣士のレイヴンでは闘うのに分が悪い。

だから、俺は土魔法でレイヴンのために足場を作ることにした。



「俺が足場作るから、頼むー!」



レイヴンに聞こえているかはさておき、俺はせっせと土魔法で足場を作り始めた。

入り江から土の足場がどんどん現れ、人魚は驚いているみたいだ。



レイヴンは足場を見て察してくれたのか、俺の方を見て軽く笑うと足場を利用し人魚に接近していく。


迫りくるレイヴンから人魚は逃げるが、俺がどんどん魔法で壁を作り出し動きを制限する。

虐めにしか見えない所業だが、闘いなのでそんなことも言ってられない。



人魚もいつの間にか歌うのを止めて、レイヴンから逃げることに集中していた。


「よし、ハピネス、もう大丈夫だぞ。ありがとな」



人魚はレイヴンが追い詰めてくるので、歌う余裕が失くなったようだからな。

妨害のために歌っていたハピネスに礼を言って、歌を止める。



「……不満」



「は……?」



ハピネスは眉間にシワを寄せて、何かに納得していない表情をしている。

レイヴンはもう最後の追い込みに入っているし、不満なんてないだろうに。



しかし、ハピネスには何かひっかかることがあるようでレイヴンと人魚の元に走り出した。



「ちょっ、おい……って無理だ」



ハピネスを追い掛けたいが俺にはレイヴンの足場を作るという仕事がある。

ハピネスから一旦、視線を外し、足場作りに集中。



人魚の逃げるスペースもほぼなくなり、ついにレイヴンが人魚を追い詰めた。



「……終わりだ」



レイヴンは剣の切っ先を人魚の喉元に突き付ける。

声はともかく、中々様になっているなぁ、当たり前だけど。騎士団長の風格を感じるな。



何はともあれ、これで依頼はほぼ完了だろう。

これで二人のデートプランを考えられるな。

そう思っていた束の間に、状況は一変していた。

何故かレイヴンと人魚の間にハピネスが割り込んでいるのだ。



「いやいや、俺がちょっと目を離していた間に何があったんだよ!?」



離れた位置にいては、状況判断もままならない。

俺は急いで二人の元へ向かった。

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