嵌められてみた
セリアさんに連れられ、アクアレイン家の屋敷に二度目の招待を受けた。
俺は今、セリアさんと屋敷の前に立っているのだが……
「セリアさん。ここにいた兵士の二人は……」
俺に槍を向けてきた兵士たちがいない。
代わりに違う兵士がいる。
「あら、お客様に失礼な態度をとったんだもの。……どうなったか知りたい?」
人間知らなくていいことってあると思う。
俺は魔族だけど、魔族でも知らなくていいことはあるだろう。
聞くと恐ろしい答えが返ってきそうな気がする。
「あの二人はね……うちのメイド長にこってりと絞られて貰ったわ」
なんだ、思ったよりたいしたことないんじゃないか
「うちのメイド長はね。冒険者出身でランクAだったのよ。ある事情で冒険者から身をひいて、メイドをやることになったの」
へー、実力はありそうだ。
兵士長もかねてるのか?
だから、メイド長が説教をしたのだろうか。
「彼女、怒ったら怖いのよね。夫には甘いらしいんだけど」
なんだ、ただのノロケ話か?
「だけど、彼女一回大喧嘩したことがあるらしくてね。夫の人はなんでも全治半年の大怪我を負ったとか」
「……」
「まあ、彼女の夫もランクAの冒険者だったから。その程度ですんだらしいって話だけど」
こえぇぇぇぇぇ。
何その人!?
ランクは同じなのに全治半年の怪我を負わせるってどういうことだよ。
「でも、その間夫の看病できてよかったって彼女言ってたわね。なんだか、彼に甘えて貰って嬉しかったって」
最終的にノロケかよ。
彼女の夫は大丈夫なのだろうか?
「……あら、噂をすれば」
屋敷の方を見るとメイド服を着た女性がこちらに向かって歩いてきている。
「お帰りなさいませ、奥様」
セリアさんに向かって、綺麗な角度でお辞儀している。
そこまで、年をとってはいないだろう、美人な人だ。
本当にこの人がさっきの話に出てきた人なのだろうか?
「お客様ですか?私、アクアレイン家のメイド長を勤めています。ソフィアと申します」
「あ……どうも。俺ヨウキっていいます」
頭を下げられたので俺も軽く会釈する。
なんだ、全然普通の人じゃないか……と思っていた俺は馬鹿だった。
「ソフィア、例のことは済んだの?」
「いえ、まだです。やっと半分終わりました」
なんの話だろうか?
「まだ、半分なの?」
「はい、何度も気絶するので思いの他、時間がかかっています」
「……」
何故だろう、会話に入ってはいけない気がする。
「奥様、骨は何本までなら、許してくださりますか?」
「ん〜、ソフィアに任せるわ。好きなだけやっちゃって」
まじで、何の話してんのこの二人?
「わかりました。では、我慢して五本にしておきますね。魔法は中級まで使って大丈夫ですか?」
「そうねぇ……あと半分もあるならいいんじゃないかしら」
「わかりました。ではそう致します……ヨウキ様、どうかなさいましたか?顔色が優れないようですが」
「いえ、大丈夫です。気のせいです」
決してあなた方に対して引きましたなんて口が裂けても言えない。
何の話をしていたか。
真相は闇の中である。
「では、屋敷にご案内しますね」
ソフィアさんに着いていき、アクアレイン家に入る。
屋敷に入るなりセリアさんに引っ張られ、前回来たセシリアの部屋の前に着いた。
ソフィアさんは屋敷に入ってすぐにどうぞごゆっくりと言ってどこかへ歩いていった。
「じゃあ、ヨウキくん。私が合図してから入って来てね」
注意され、セリアさんは部屋に入って行った。
すぐに、ドアから手による合図が出されたので中に入る。
「なっ!?何故ヨウキさんがいるんですか」
そこには今起きたばかりなのだろう。
寝癖がついていて、寝巻姿のセシリアがいた。
「この娘ったら、休日ってなると朝弱いのよね〜」
部屋の隅にはクスクスと笑ってるセリアさんがいる。
何で部屋の隅にいるのか不思議に思ったが、セシリアの行動を見て分かった。 彼女はベッドの近くのドレッサーに立て掛けてあった杖を取り、こちらに向けている……っておい!
「《シャイニーボルト》」
光の初級魔法。
雷状の聖なる光が俺に直撃し、部屋の外に吹っ飛んだ。
いきなりだったので反応できず、ノーガードで魔法が直撃したので俺は部屋の外でのびている。
「部屋から出ていってください!」
バンッと扉を閉める。
それは魔法を放つ前に言って欲しかった。
ドアを閉める直前に、部屋から俺を見てクスクス笑っているセリアさんが見えた。
あの人嵌めやがったな……。