好きな子の母親と会ってみた
レイヴンと友達になった日から数日がたったある日。
俺はというと……
「もぐもぐ……」
ギルドで朝食を食べていた。
黒パンに野菜と豆のスープという、一応稼いではいるんだが、質素な物を食べている。
前世で親がこんな物を朝食として、出してきていたら、文句を言っていただろう。
だが、この世界ではこれが当たり前のような感じなのだ。
慣れとは恐ろしいもので今はこれを食べないと依頼を受けに行く気がしないぐらいだ。
「クスクス、すごい食べっぷりね」
いきなり声をかけられた。
食べるのに夢中で気づかなかったが、いつのまにか、俺が座っているテーブルに貴婦人が座っていた。 驚いて食事中だが手を止める。
「あら、どうしたの?食事中なら全部食べてしまったら?」
なら、遠慮なくと食事を再開する。
そんな、俺の姿を見て、さらに、クスクス笑っている。
……にしてもこの人誰だろうか?
依頼でこんなに綺麗な貴婦人とお近づきになった覚えはないのだが……
食べながら、必死に思考を働かせるがわからない。
「娘の言う通り。あなた、面白いわね」
……?
娘の言う通り?
まさかと思い、俺は右手に持っていた黒パンを落とした。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はセリア・アクアレイン。
セシリアの母親よ。よろしくね、ヨウキくん?」
どえぇぇぇぇぇ!?
なんでセシリアのお母さんがこんな、朝早くギルドに来てるのおぉぉ!?
「あら、まだ食事中でしょう?あなたが食べ終わるまで待っているわ」
そこからの俺は早かった。
前世でもこんなに急いで飯を食ったことはないんじゃないか?
食べているというより、飲んでいる。
そんな朝食だった。
「クスクス……そんなに急いで食べなくても大丈夫だったのに。本当にあなた面白いわね」
最後に口の中に残っている物を牛乳で流しこむ。
一呼吸置いて、セリアさんの用事を聞くことに。
「……それで、俺に何か用でしょうか」
「実は先日、家の兵士があなたに失礼な態度をとったと報告があってね。その謝罪に来たの」
いやいやいやいや。
どう考えてもセリアさんじゃなくてよくない?
てか、あいつらに来させればいいじゃん。
なんで、屋敷の奥様が直々に来るんだよ。
「いや、確かにちょっと態度悪いかな〜と思いましたよ。腹も立ちましたけど、新しい出会いがあったんでいいかな〜と思いまして……」
謝罪して貰うのが心苦しいので、俺は気にしていないということを伝えたかったのだが
「……あら?私が調べた情報だと、あなたセシリアにベタ惚れって聞いたんだけど……?」
ひいぃ!?
なんか勘違いされてる。
セリアさんがさっきまでの穏やか笑みからうって変わって、冷たい眼差しでこちらを見てくる。
「ごっ、誤解です、誤解。その日に新しい友達が出来ただけです」
「そう……その子とは一体どんな関係なのかしら?」
「出来たの男友達ですよ。男」
まだ、疑っているようだったので、性別もしっかり言った。
「あら、そうなの?あらぬ勘違いをしちゃったわ、私ったら。もし娘が酷い男に引っ掛かってたら大変でしょう?だから、つい疑っちゃったわ。ごめんなさいね、怖がらせちゃったかしら?」
見られ続けたら、凍りついてしまいそうな笑みから、先ほどの穏やかな笑みに戻った。
ちびりそうになったのは内緒だ。
「イエ、ダイジョウブデス」
全然、大丈夫じゃなく、カタコトになった俺がいる。
「そう?ならよかったわ。じゃあ、朝食も食べ終わったみたいだし、行きましょうか」
「ドコニデスカ」
いまだに回復していない俺。
かなりの精神的ダメージを負ってしまったので回復には時間が…
「決まってるでしょう?私の屋敷によ。セシリアちゃんに会いたいでしょう」
回復した。
何かが俺の中でたぎっている。
「はい、行きます。すぐに行きたいです」
幸いまだ仕事の依頼を受けていないので大丈夫だ。 一応クレイマンに今日は仕事はなしと伝えにいく。
「クレイマン、俺、今日、仕事しない。休む、大事な用、できた」
必死の形相でカタコトながら伝える。
「お、おう。なんか必死だな。まあ、俺は仕事が減るから別にかまわねぇよ」
返事を聞き、回れ右をして、すぐにセリアさんのところに戻る。
「あら、もう準備はおわったの?じゃあ行きましょうか。急いで帰らないとね」
何故か急いでいるセリアさんに着いていき、前回同様、馬車に乗り込みアクアレイン家の屋敷にむかった。