夫婦と力を合わせてみた
一度目の魔物の群れとの戦闘後。
坑道の奥に進んでいくと魔物に度々襲われたが、苦戦など全くせずに倒していき先に進む。
ソフィアさんとクレイマンが強すぎて俺の出番がないのが少し残念だ。
坑道を照らしているセシリアを守るためというが、二人は魔物を一匹もこちらに向かわせておらず全て倒しているのだ。
俺もセシリアも楽をさせては貰えているが……なんだか何もしていない感じがしてこれはこれで嫌だなと思う。
坑道はちゃんと普段働いている人達が整備しているようなので、通りやすいし事前に地図も貰っているので迷うこともない。
かなり進んだように感じるが、肝心の討伐依頼の魔物とは遭遇していない。
先程から同じような魔物と遭遇してはソフィアさんやクレイマンが倒している。
「なあ、かなり奥に進んだと思うんだけど……まだ討伐対象の魔物に会わないってどういうことなんだ?」
「ああ、あとちょっとで採掘場になっている広い場所に出るからな。多分そこにいんだろ」
「ふーん……」
適当なことを言っているんじゃないかと少し疑い、こっそりと五感を強化し確かめる。
すると、クレイマンの言う通り今まで会った魔物とは違うような臭いを感じた。
しかし、何かをかみ砕いている音も聞こえるな。
ボリボリと何か食べているようなそんな音が……何がいるんだ?
なんとなく嫌な予感がするが進まない訳にはいかないので先に進んでいく。
すると、目的地であった採掘場にたどり着いた……が。
「おいおい、あれが討伐対象の魔物かよ……」
中々にでかい魔物がいる。ロックリザードの巨大版のような容姿をしている。
しかし、岩肌の色が違う気がするな。
「あれはロックイーターですね。岩を主食にする魔物でしたが……食べているのは普通の岩ではないようです」
ソフィアさんが冷静に分析し、解説してくれる。
岩を食べる魔物のようだが、食べているのは岩じゃないってどういうことだ。
「……奴が食っているのは魔鉱石だ」
「なんだって!?」
ロックイーターをよく観察してみると器用に壁を削り、出て来た魔鉱石をボリボリと食べている。
「どうやら突然変異か何かで魔鉱石を食うようになったらしい。普通のロックイーターは岩しか食わないからな」
「いやいや、そんな話し合いする前にさっさと倒そうぜ!」
あんなお菓子感覚で魔鉱石を食われては、ガイを直すために使う分が無くなっちまう。
俺はいつもの肉体強化魔法をかけ突撃しようとするが、クレイマンに阻まれる。
「待てや。まだ話は終わってねーんだよ」
「はあ!? どういうことだよ」
「依頼の条件やら奴の特徴とかまだ説明してねーだろ。何でそんなに急いでんのか知らねーが落ち着け」
「……わかった」
クレイマンに宥められ、一旦話を聞くことにする。
焦ってミスをしてしまえばセシリア達に迷惑がかかるしな。
「んじゃ説明すんぞ。まず奴の特徴についてだが、情報によると魔鉱石を食いまくったせいか、魔鉱石の性質が体質になったみてぇだ」
「えっと、確か魔鉱石は魔力を吸収する性質を持っていましたよね。……ということは」
「魔法が効かねぇ……とまではいかないが効果は薄いみたいだ。お前らにとっては天敵だな」
クレイマンが俺とセシリアを指差す。
そして、その指をソフィアさんが無理矢理上に向かせる。
俺はともかくセシリアもいれちゃったからなぁ。
セシリアは目を丸くしているし。
まあ、中々見れないよな。奥さんが夫の指折っている光景って。
「ソフィアさん、少しやり過ぎでは……」
「大丈夫です。夫はそんなにやわじゃありませんから」
ソフィアさんの言う通り、クレイマンは少し悶絶したが、すぐに何もなかったかのように話を再開しだした。
クレイマンの回復力恐るべしだな。
「というか効かない訳じゃないんだろ。俺が上級魔法をぶっ放せば流石に倒せるんじゃないのか?」
「確かに倒せるだろうが、そりゃ無理だ。そんなもんここで発動したら坑道が崩れちまうかもしれないからな。それに依頼主のタリボーク商業ギルドが厄介な注文してきやがった」
「厄介な注文?」
「おう、それはな……」
クレイマンの説明によると突然変異したロックイーターの皮は珍しい素材になるらしく、出来れば傷つけずに倒してほしいとのことらしい。
「なんでそんな無茶な依頼の条件を呑んだのですか、あなたは」
「ソフィア、話はまだ終わってねぇ……ってかギブギブ!」
ソフィアさんがクレイマンにヘッドロックをかけだした。
何だか骨が軋むような音がしているぞ。セシリアはこのような状況に慣れたのか、心配せずにちょっと笑っているし。
まあ、俺も笑っているけど。
だいたいクレイマンの奴ギブギブとか言って腕はソフィアさんの背中に回してるしよ。
……もう、そういうことは家でやってくれ。
ソフィアさんは気がすんだようで、ヘッドロックを解除した。
「いてて……でだ、俺は何も考えないで条件を呑んだ訳じゃねぇ。ちゃんと作戦はある」
自信満々に言っているが……正直あまり良い予感はしない。
確実に自分は楽なポジションにいれるような作戦を考えてそうだ。
「どんな作戦だ?」
「作戦はいたって単純だ。俺の式神でお前の身体を包んで奴の身体に入って内部から倒す。どうだ、完璧だろ」
「ふざけんな!」
こいつそのためにあの時俺を依頼に誘いやがったな。俺をロックイーターのウイルスにでもするつもりか、冗談じゃない。
「クレイマンが行けばいいだろう」
「俺は式神を操んなきゃならねーから無理だ。ほら、行ってこい。多分大丈夫なぐらいに包んでやるから」
「いや、そこは絶対って言えよ!」
クレイマンのいい加減な発言にツッコミを入れつつ、ロックイーターを見る。
あの中に入って暴れるとしたら、肉体強化をすればやってやれないこともない。
しかし、いくらクレイマンの式神で身体を守ってくれるとはいえ……うん、きついな。
ガイやティールちゃんのためと思えばいけるか?
「その役目、私がやりましょう」
「何!?」
俺が葛藤しているとソフィアさんがウイルス役に立候補しだした。
これにはクレイマンも驚いているようで……いつもは死んだ魚のような目をしているのに今は大きく見開いている。
「でも、いいんですかソフィアさん、そんな役引き受けて貰って?」
「ヨウキ様は魔法が主体ですので、近接戦闘が得意な私の方がいいかと」
「ま、まあ確かにそうかもしれないけど」
「そもそもこの作戦自体が危険ではないのですか?」
セシリアがもっともなことを言う。
逆に食われる場合も考えられるからな。
相手は鉱石をお菓子感覚でかみ砕いているような奴だし。
「セシリア様、心配は無用です。夫の式神はそんなにやわな物ではありません。ですよね、あなた?」
「いや、まあ、そうだが。しかしな……」
「あとヨウキ様とセシリア様にはロックイーターの動きを魔法で止めて貰わなければなりません。私が内部で攻撃をすれば相当の痛みが襲うと思いますので」
ロックイーターに暴れられて鉱山が崩れてはいけないからな。
魔法が全く効かないわけではないらしいし、拘束系の魔法を使えば動きを制限することはできる。
「おい、ソフィア……」
「ではあなた、準備をお願いします。……信じていますよ」
「お、おう、任しとけ!」
結果ソフィアさんに推されてクレイマンは何も言えずに決まってしまった。
式神を用意しているが、ものすごく集中している。
……俺が食われる役だったらあんなに集中しなかっただろうな。
「それにしても何でソフィアさんは自ら危険な役を志願したんだ?」
「……私にもわかりません」
セシリアと二人で考えてはみたが全くわからん。
俺が駄々をこねたからだろうか。
いや、ソフィアさんはそんなことで動くような人じゃないだろう。
クレイマンが準備を終えるまで二人で考えてみたが、結局わからず作戦を実行することになった。
セシリアが坑道を照らしていた魔法を解除し、代わりに松明を使う。
「よし、行け!」
クレイマンの合図でまず、俺とセシリアが飛び出す。
『アースロック』
『セイントチェーン』
俺とセシリアは地と光の中級魔法を発動。
地面が隆起しロックイーターの脚の自由を奪い、光の鎖が身体を拘束する。
いきなり食事の邪魔をされたからか、じたばたと暴れ出した。
すると動きを止めていた鎖がばきばきと音を立てて壊れ始め、岩もひびが入り出した。
「おいおい、今発動したばかりだぞ……」
「重ねて魔法を唱えないと動きを止められませんね」
ちょっと甘くみていたな。本気を出して拘束系の魔法を連発する。
『セイントチェーン、アースロック、アクアプレス、ブリザードゲイル』
光の鎖と岩の刺で拘束して、水の魔法を凍らせて自由を奪う。
セシリアもどんどん魔法をかけているが……しぶといな、まだ動いている。
「ヴォォーーーーーーー!」
思ったように動けずに苛立ったのか巨大な雄叫びをあげている。
坑道に反響して耳がおかしくなりそうだ。
だが、でかい口を開けてくれるとはこちらにとってはラッキーだ。
雄叫びをあげた瞬間、クレイマンの式神を纏ったソフィアさんがロックイーターの口の中に入っていった。ロックイーターはすぐに何かが自分の身体に入りこんだと気づいたようだ。
必死に吐き出そうとしているが、叶わないみたいだ。少しの間悶えているといきなり強く暴れ出した。
ソフィアさんがロックイーターの体内で行動を始めたのだろう。
「こいつ、結構暴れるなあ」
「相当苦しんでいるのでしょう。少しかわいそうですね」
セシリアはロックイーターに同情しているみたいだ。俺も魔族だし、同情してないとは言い切れないが割り切らないとガイを助けられない。
暴れているロックイーターを拘束することに集中する。
「おらぁ、暴れんな!」
クレイマンの怒号がしたと思ったら、ロックイーター並の大きさの式神が現れ奴を抑えつけだした。
それも一体だけじゃなく四体もだ。
……こんなにやる気を出しているクレイマンは初めて見る。
「ソフィアさんが体内に入っているからなぁ。絶対俺だったらあんなに頑張ってなかっただろうな、クレイマン」
「ふふ……どうでしょうか。案外ソフィアさんの前ですからそれはそれで奮闘していたかもしれませんよ?」
「……確かにその可能性もあるな」
セシリアもこの短期間でクレイマンがどういう人物かがわかってきたみたいだ。もうメイド服の件については吹っ切れたのかな?……いや、話を堀り返すのはやめよう。
せっかくいい感じに溶け込めてきたんだし。
「二人共、奴が動かなくなるまで気を抜くなよ!」
「はい」
「わかったよ」
ロックイーターも暴れようとはしているが、これだけ拘束されたら満足には動けないらしい。
ソフィアさんが遅い仕事をするはずもなく、ものの数分でロックイーターは地面に倒れ動かなくなった。
完全に倒したことを確認し、魔法を解除する。
セシリアは若干疲れたようだが、俺はまだまだ余裕なので近くに駆け寄る。
「セシリア、お疲れ」
「お疲れ様ですヨウキさん。……随分と余裕ですね」
「俺はまあ……規格外って奴だからな」
そんな他愛のない会話をしているとロックイーターの口がもごもごと動き、ソフィアさんが出て来た。
クレイマンの式神が解除されると、何処も汚れておらず無傷の姿だ。
声をかけようとセシリアと共に近づく。
しかし、俺達より早くクレイマンがソフィアさんの下に走っていき抱きついた。
「ソフィア、無事だったか。良かった」
「はい。このとおり無事ですので離れてください。ヨウキ様とセシリア様が見てます」
「別にいいだろ。見られても減るもんじゃないしよ」
「ダメです。離れてください。まだ依頼は終わっていませんし、私は薬の材料を探さねばなりません」
「うっ……わかった」
渋々といった感じでクレイマンがソフィアさんから離れた。
……今のやりとりを見ていて思ったことを言うと。
「ラブラブだなぁ……」
「ですね」
俺とセシリアは顔を見合わせお互いに顔を赤くしてしまった。
何で赤くなってしまったのかはわからない。
あんな夫婦を見て何かを感じとってしまったのかもしれない。
「おーい、二人共何そこで突っ立ってんだ。お互いに目当ての物があんだろーが。さっさと探して帰るぞ」
「あ、悪い。今行くよ」
「私も探します」
こうして坑道の探索が始まった。
ロックイーターがめちゃくちゃに食い荒らしたのでかなり荒れている。
だが、さすがに全部の魔鉱石を食べきってはいなかったようで簡単に見つかった。
問題はセシリア達の方で、そこら中に石や鉱石が散乱しており、薬草を探すのに手間取ってしまった。
結果、鉱山を出たら外は真っ暗であった。
「くそ、これじゃあ今日は帰れないか……」
「夜道は危険だからな。馬車を走らすわけにはいかねぇだろ。ま、明日のんびり帰ろうぜ」
「俺はのんびりしてられないんだよ……」
まだ時間が残っているとはいえガイのことが心配だ。俺は持ってきたかばんを見る。
中には先程拾った魔鉱石が詰まっているのだ。
これがあればガイの身体は直るのだ。
一刻も早く渡してやりたい。
「ヨウキさん、どうかしましたか?」
「なあ、俺だけ先に飛んで帰ったら駄目かな」
セシリアにこそこそと相談する。
別に夜だろうが空を飛べば関係ない。
俺なら馬車よりも早く王都に着くことができるし。
「いや、それはまずいですよ。確実に後で怪しまれます。それに万が一飛んでいるところを人に目撃されたらどうするんですか?」
「リスクの方が高いか……しかしなぁ」
「どうかしましたか?」
二人で悩んでいる内にソフィアさんが来てしまったので、慌ててごまかす。
「あはは……ただ、セシリアと疲れたなって話していただけです」
「そうですか。私も久しぶりにギルドの仕事をしましたので多少疲れました。今夫が鉱山で働いている方々にロックイーター討伐と素材の解体について報告をしに行っていますので、帰ってきたら今日は宿でゆっくり休みましょう」
「あ、はい、わかりました」
ソフィアさんの手前で余計なことは言えないのでおとなしく従うことにした。
程なくクレイマンが帰ってきて昨日泊まった宿に直行した。
夜に宿を抜け出して王都に向かおうかと考えたが、セシリアの言葉を思い出し寝ることにする。
そのかわり明日は朝早く馬車に乗りミネルバに帰ろう。
寝る前に予めセシリアにその旨を伝えてガイのことを考えながら、俺はベッドに潜り込んだ。
終わるとか言って終わりませんで申し訳ない。
次話で本当に終わりますので……。
追記
飛ばないと不自然なので次回飛びます。




