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夫婦の力を見てみた

翌日、支度を済ませて俺達は依頼先である鉱山に向かった。

宿を出る際にセシリアがクレイマンを避けていたことを見て、なんだか切なくなったりはしたが。



ソフィアさんは昨日の宣言通りメイド服で参戦していた。

本当に昨日着ていたメイド服と大して変わらないように見えるのだが……大丈夫なのだろうか?



そして、クレイマンはセシリアに避けられている理由がわからないようで少し気にしているっぽい。

ちなみに、俺は人の趣味は人それぞれと割り切った。


今は薄暗い鉱山の中をセシリアの魔法で照らして貰いつつ、進んでいる。



「なあ。俺なんだか、アクアレイン家の令嬢に避けられている気がすんだが……」



「ああ、うん。まあ、気のせいじゃないかな」



曖昧な返事を返して俺は前列で鉱山内を照らしているセシリアを見る。

ちなみに、前衛がセシリアとソフィアさんで後衛が俺とクレイマンで探索をしている。



「いや、気のせいじゃねぇだろ。昨日、俺が宿の手続きをして戻ってきてからずっとあんな感じじゃねぇか」



「あははは……」



おもわず苦笑いをしてしまう。

うーむ、このままぎくしゃくしているのもなんだか嫌だし、昨日あったことを話すか。

俺はこそこそとクレイマンに昨日した会話の内容を説明した。


一応、セシリアとソフィアさんに聞こえないように小声で話しはしたのだが……ソフィアさんには聞こえていたかも。俺が話し始めたらこっちの方に視線を一度向けてきたからな。



「あ〜、なるほどな」



クレイマンは俺の話を聞き、どうして自分が避けられているのか納得したみたいだ。



「なあ、本当にクレイマンてメイド萌えなのか?」



正直、俺はクレイマンがメイド萌えとはあまり思えない。

ソフィアさんならどんな姿でも良いっていうのがクレイマンだと思う。



「メイド萌え? なんだそりゃ。俺はそんなんじゃねぇよ。ただ……ソフィアがあの服を着ているのを見ると普通の仕事をしているんだなって実感がわくからな」


「なるほど。ちゃんとした理由があったんだな。俺はてっきりメイド萌えだと……」



「萌えってなんだ萌えって。……ちなみに俺は好きだと言っただけでソフィアに強制はしてないからな」



クレイマン曰く、そういうのはお互いにしていないみたいだ。

でも、ソフィアさんわざわざオーダーメイドで作ったメイド服あるんだよな。



……言わなくてもお互いの要望にはできる限り答えあったりしているんじゃないだろうか、この夫婦。



「なんだか羨ましいな。そんなに仲が良いなんてさ」



「なんだ、いきなり。言っとくがソフィアはやらんぞ。未だにラブラブだからな」



そんなつもりで言った訳ではないのに何を言っているんだか。

やらんぞって父親の言い方だろうに。



「そういえば、クレイマンて子供いるんだよな」



「おう、娘と息子がいるぞ。最近俺とソフィアに似てきたんだよな」



そう言って笑うクレイマンだが……息子?

確か以前ソフィアさんとセリアさんの話を聞いた時は言っていなかった気がする。



「なあ、息子もいるのか?」



「だからいるって……ああ、お前ソフィアから話を聞いたんだろ。ソフィアはクインの話はあまりしないからなぁ……すっかり自分に似ちまったからなのかもしれないが」


どうやらあの時会話に出ていなかっただけみたいだな。



「息子がソフィアさんに似たということは娘は?」



「今ソフィアがいろいろと教育しているみたいだが……合間に俺と遊んでる内にな。俺に似ちまったみたいなんだよ」



笑いながら話すクレイマンだが、俺はすぐにソフィアさんの苦労が水の泡となって消えている現状を知ってしまった。



セリアさんの前では教育しているとは言ってたけどなぁ。

愛する夫に似ちまったなんて言えなかったんだろう。……クレイマンに似たというのはだいたい想像できるし。



ソフィアさん似の息子にクレイマン似の娘ね。

実際に会ってみたいもんだ。



「ヨウキ様、あなた。無駄話もそろそろ終わりのようです」



ソフィアさんに言われ、前を見ると黒い無数の影がこちらに向かって来ている。おそらく魔物の群れだろう。

クレイマンの情報ではCランク程度の魔物がいるんだったな。



セシリアが光の魔法で鉱山内を照らしてくれているので、魔物の容姿が見えてくる。

どうやらロックリザードとロックゴリラみたいだ。

岩っぽい魔物ばかり来たな。

流石鉱山内だな、関係あるのか知らんけど。



身体の表面が岩のような固さを持っている魔物だが……俺は魔法メインだから関係ないな。



「よし、いく……」



ぞと言いかけた瞬間。

セシリアの隣にいたはずのソフィアさんが真っ先に魔物に向かっていき、空中で一回転。そのままロックリザードに踵落としを決めて粉砕してしまった。



「おー、流石ソフィアだな。メイドの仕事してたっていうのに全然鈍ってねぇ。キレッキレな動きしてんなあ」



魔物に遭遇してもクレイマンはマイペースのようで、ソフィアさんの戦いぶりをじっくり見ているようだ。その間にソフィアさんは淡々と一体ずつ確実に魔物を仕留めている。



「いや、というか俺も行かないと」



「あー、お前は一応令嬢の守りについとけ。俺とソフィアが何とかすっから」



そう言ってクレイマンは俺とセシリアの前に出る。

確かにセシリアは今、完全に無防備なので守りについたほうがいいか。


それにしても、クレイマンはどんな戦い方をするんだ?

武器を持っているようには見えないし、俺と同じ魔法メインかな。

しかし、クレイマンは俺の想像を裏切る戦い方をしだした。



「なあ、セシリア。あれ何?」



「勇者パーティーとして各地を旅していた時に見たことがあります。あれは式神というものですね」



前世の漫画に出てきたなあ、そんなの。

使うのはお坊さんとかだっけ?

……なんか違う気がする。まあ、そんな細かいことはどうでもいい。

クレイマンはその式神っぽいものを使って戦っているのだが。



「式神ってあんなんなのか?」



「いえ、私も使い手の方を何人か見たことがありますが……」



セシリアは首を傾げている。

どうやら、セシリアが見たことあるやつとは違うみたいだ。

まあ、そりゃそうだろう。



「セシリアが見たことあるやつってさ、人とか獣とかだったんじゃないかな」



「ヨウキさん何故知っているんですか? 本当は見たことあるんじゃないですか」



「いや、それはまあ、察してくれ」



戦っているとはいえ、クレイマンやソフィアさんの前で前世がどうだのという話ができない。

俺はちらりと二人の方に視線を移す。



「……すみません。そういうことですか」



セシリアは俺の意図がなんとなくわかったのか、こくりと頷いてくれた。

流石セシリアだな。



話が逸れてしまった。

結局何が言いたいのかと言うと。



「あれ、ただの折り紙が戦っているようにしか見えないんだけど」



襲って来ている魔物の群れには人型の紙が折り紙で折って作ったような剣や槍、杖などの武器をもって戦っているのだ。

しかも、そいつらがまあ、強い。



ロックリザードの爪や牙の攻撃をなんなく受け止め、ロックゴリラの猛襲をなんなくかわしている。

折り紙の剣は岩肌をなんなく切り裂き、槍は貫き、杖からはファイアボールなど魔法が飛びだしている。



そんなシュールな光景を作りだしたクレイマンは……ただ立っているのみ。



式神を操るのに集中しているのかと思いきや、そうではないようで。



時々飛んでくる石をうっとうしそうに手で弾いている。



「ふぁ〜あ」



あまつさえ呑気に欠伸をしだしているし。

そんな、だらけていて本当に戦っているのかと疑いたくなるようなクレイマンを見ている内に戦闘は終了。



式神はすべて小さくなりクレイマンの元に帰ってきた。

ソフィアさんもメイド服を叩き土埃を落としている。



「よし、先に進むか」



「いやいや、待て待て。クレイマン、さっきのあれ何だよ」


「お前知らねぇのか。仕方ねぇな。いいか、あれは式神っていう……」



「それはさっきセシリアから聞いたよ」



俺が聞きたいのはそんなことじゃない。



「あの……何故クレイマンさんの式神はあのような姿をしているのでしょうか?」



俺の代わりにセシリアが質問する。

なまじちゃんとした式神を見たことがあるから気になるのだろう。



「セシリア様、それは夫が面倒臭いと言って式神の形を考えなかったからです」


「は!?」



セシリアは驚いているが、俺は納得してしまった。

そういうことかと。



どうやらクレイマンは武器も魔法も一通り使える天才だったらしい。

しかし、面倒臭がりなクレイマンはいかにして楽に戦闘ができないかと考えた。



調べていく内に見つけたのが式神だったようだ。



異国の技術だったらしく、覚えるのに難儀したみたいだ。

しかし、才能かそれとも面倒臭がりの執念か。

クレイマンは式神を使えるようになった。



「ですが、夫はそこでいつもの怠け癖が出てしまい式神はあのような姿のままで使っているという訳です」



「……ではその気になれば先程の式神は人や獣のような姿で戦えるのですか?」



「はい」



「……」



セシリアは納得していないのか首を傾げているが……俺はどうでもいい。

クレイマンらしいっちゃらしいし、別に戦えるならいいだろう。

正直もうクレイマンネタで突っ込むのは疲れたしな。


「時間が惜しいし、先に進もう」


ガイやティールちゃんのためにも早くしないと手遅れになってしまう。

俺は全員にそう促すとセシリアが前を照らして鉱山内を進み出す。



「そういえば、こいつらって普段も現れたりしているんだよな」



「そうだぜ。それがどうかしたのか?」



「いつもこうやって討伐依頼を出しているのかなって思ってさ」



「んなわけねぇだろ。鉱山で働いている奴らは意外とランクが高いからな。この辺の魔物はいつも自分達で戦っているはずだ」



鉱山内もしっかり整備もされているようだし、出来ることは自分達でやっていたという訳か。

しかし、ということは絶対に何か厄介な敵がいるということだな。

Cランクの魔物を倒すような人達が束になっても勝てない奴が。



まあ、クレイマンの態度から面倒な依頼だろうと覚悟していたので今更だが。

魔鉱石のこともあるし、ティールちゃんの薬の材料のこともあるしな。

撤退なんて文字はない。

セシリアの光を頼りに俺達は鉱山の奥に進むのだった。






次の話でかたをつけます

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