友人を作ってみた
空はとても青々としていて、風はちょうど良い具合に吹いている。
気温も暑すぎず、寒すぎないぐらいだ。
そんな、絶好のお出かけ日和な今日、俺はセシリアと会う約束をしていたので彼女の屋敷に向かっている。
「いや〜、今日は良い天気で気分がいいな〜。セシリアとも会えるし、今日は良い休みになりそうだ」
俺はルンルン気分でスキップをしながら向かっていた。
この時まではよかったのだ。
問題は彼女の屋敷に着いてからである。
「……は?入れない!?何でだよ。ちゃんと約束はしてあるはずだぞ」
屋敷に着くなり、前回来た時にいた兵士二人に止められたのだ。しかも、鋭い目つきで俺を睨んでいる。
「今、お嬢様は勇者様が来ていてその対応をしている。それに、私達はお前のことを信用していない。大人しくここから去れ!」
何言ってんのこいつら?
勇者が来ている云々はともかくこっちはしっかりアポとってるんだぞ
「だったら、勇者の用事が終わるまで待たせてくれよ。」
こちとら、馬車で数十分かかる距離を歩いてきたのだ。
セシリアに会うまで帰れない。
「くどい!去らないと……」
そう言って、俺に槍を向けてくる兵士ども。
おいおい、こいつら頭おかしいんじゃないか?
ぶっちゃけこんな奴ら、三秒もあれば気絶させられるのだが、確実に面倒なことになるだろう。
セシリアにも迷惑がかかるかもしれない
「っち、わかったよ。帰りゃいいんだろ!」
奴らに向かって舌打ちし、俺は元来た道に戻る。
後ろからは二度とお嬢様に近づくなとか聞こえてくる。 腹立たしいが、ぐっとこらえ俺は屋敷をあとにした。
「あー、くっそ、腹立つなあ」
俺は今最高に機嫌が悪い。
さっきまでのルンルン気分はどこにいったのだろうか。
「あいつら、今度会ったら覚えてろよ!」
そう言って、地面を蹴る俺。
今日は完全に休む気満々だったのでギルドに行く気分にもならない。
仕方ないので男一匹で町をぶらぶらすることに。
あてもなく、ぶらぶらしていると人だかりが見える。
前世のやじ馬魂が災いし、騒ぎの中心を見てみた。
すると……
(あれ?どっかで見たことあるな。あの顔)
中心にいたのはイケメンだった。剣を腰にさし、鋭い目つきで、クールな印象が見受けられる。
(ああ、思い出した。彼、勇者パーティーにいた剣士くんか)
勇者くんは爽やか系のイケメンだが、彼は凛々しい顔をしたイケメンである。だが、その顔は引き攣り、困惑しているようだった。
(なんか、可哀相になってきたな)
今日自分が不幸な目にあったせいか助けたくなる。
(仕方ない、助けてやるか)
俺は彼がいる場所とは逆方向に指を指し、大声で
「あっちに勇者様がいるぞー」
と言ってやった。
すると、キャー、勇者様ーと言って俺が指を指した方向に向かう人たち。
やはり、人気は勇者くんの方が上であったようだ。
「はっ、ちょろいな」
あまりに計画通りにいったので笑ってしまう。
振り返ると彼の周りにいた人だかりは嘘のようにいなくなっていた。 状況が分かっておらず、ポカンとした表情をした勇者パーティーの剣士だけがそこにいた。
「おら、今のうちに逃げるぞ」
俺は彼の腕を引っ張り、人気の少ないところに向かった。
「ふう……ここまで来れば大丈夫だろ」
先程の場所から少し離れた路地裏に来ている。
薄暗く不気味なところだが、ここなら誰も来ないだろう。
「……」
おいおい、こんな時も、まだ、クールで寡黙なキャラかよ。
まあ、礼を言われたくて助けたわけじゃないし、いいけどさ。
「じゃあな。今度からはしっかり変装して町歩けよ」
そのまま立ち去ろうとする。
というか、俺かなり偉そうじゃね?
まあ、助けてやったし、アドバイスもしたから、チャラということで。
そんなことを考えてまた、男一匹町ぶらつきに戻ろうとしたのだが……
「ま……待ってくれ!」
「……へ!?」
俺はつい、変な声を出してしまった。
ただ、声をかけられただけだ。
問題なのは、前世でいうアニメの声優さんのような声で話かけられたからである。
ここは、人気のない路地裏で、今いるのは俺と剣士くんだけだ。
……ということは
「今、話かけたのって……」
恐る恐る指を指すと彼はこくこくと頷いた。
……いやいや、おかしいだろ!?
クールな感じのイケメンなのに声はまさかのアニメ声って。
「……まさか、その声が原因で余り話さなかったりするのか?」
「……ああ」
肯定した。
なるほど、おそらくコンプレックスにでもなっているのだろう。
触れない方が吉と見るな。
「まあ、人間触れられたくない場所あるよな。俺だってあるよ、そういう部分。」
「……お前は俺の声について馬鹿にしないのか?」
「自分のせいでそうなったわけじゃないんだしさ。それに、俺も生まれ持った部分で嫌なところがあるんだ。自分が嫌なことは人にするなってな」
ちなみに俺の場合は種族が魔族っていうこと。
死なないと治らないコンプレックスだ。
「……お前は変わってる奴だな。俺の声を初めて聞くと、大抵、馬鹿にするか、笑ったりするかがほとんどなんだけどな。」
どうやらそうとう声のせいで苦労をしているらしい。
だから、クールな寡黙キャラになったのだろうか。
「俺は笑わないよ。男でそういう声の奴見たことあるし。」
テレビでだけだが。
「……そうか」
なんだか、少し嬉しそうな顔をしているな。
まあ、馬鹿にされなくて嬉しかったといとこか。
よくよく考えたら俺、友達感覚で話してたな。
……不敬すぎね?
やばい、どう考えても駄目だろ!
「それじゃあ、俺はこの辺で……」
何か言われる前に逃げようとしたのだが
「待ってくれ!」
止められた。
やばい、警備兵とかに俺を突き出す気だろうか。
「な、何かな?」
冷や汗が出てくる。
しかし、彼は俺が予想していなかった言葉を言った。
「俺とその……友達になってくれないか?」
「え?」
まさかの友達になろうよ発言である。
正直、そんなことかと安心してしまった。
「いや……迷惑ならいいんだ。ただ、この声のことで笑わなかったのは、母さんと従兄弟だけだったからつい……」
勇者パーティーにいた時、どうしてたんだ?。
まあ、友達になるくらいならかまわない。
……ていうかむしろ俺から頼みたいぐらいだ。
「俺も友達が欲しかったところなんだ。ヨウキだ。よろしく頼む」
「……本当か!?ありがとう。知っているかもしれないが俺はレイヴンだ。こちらこそよろしく」
俺達は固く握手をした。
転生してもう二十年ちかくたった俺に初めての友人が出来た瞬間だった。
セシリアとは会えなかったが、友人が出来たので、今日の休みは有意義だったといえるだろう。
「そういえば、ヨウキって最近会った奴に似ている気が……」
「……き、気のせいじゃないか?」
冷や汗は流れっぱなしだった。