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少女の願いを聞いてみた

ガタゴトと揺れる馬車の中。

アクアレイン家に向かう道のりで俺はセシリアから何があったのか、説明を受けた。



仕事をしている最中にティールちゃんの姿が見えなくなり、不思議に思ったハピネスが屋敷内を探していると箒を持ったまま倒れているティールちゃんを発見したらしい。



身体を揺すったり、声をかけても起きなかったので、ハピネスはティールちゃんの身に何かあったと知り、急いでセシリアとソフィアさんに知らせてティールちゃんを協力して部屋に運び込んだものの……。



「私ではティールちゃんを治療することができませんでした……」


がっくりとうなだれるセシリア。

勇者パーティーに選ばれたセシリア程の僧侶でも治療不可となると……。



「ティールちゃんは持病で倒れたのか?」



「ミラーに受けた傷は確かに私とシークくん、ヨウキさんで治療しましたから……おそらくそうだと思います」



「だよなぁ。……アクアレイン家でメイドをしていて怪我をしたなんて考えられないし、したとしても倒れるほどじゃないだろうしな」



「ええ……ですからティールちゃんの持病が悪化したとしか思えなくて……屋敷の庭で遊んでいたシークくんをソフィアさんにすぐに連れてきて貰って診て貰ったんです」



「じゃあ、シークだけで大丈夫じゃないのか?」



病気とかそういった類のものはどんな高度な治療魔法でも治せない……たとえ俺の魔法でもだ。

シークの薬しか手はないと思うんだが……なぜかシークは俺を呼んでいると。



「シークくんがとにかく呼んできて欲しいとのことでしたので……ところでヨウキさんの方は何があったんですか?」



「俺の用事も似たようなもんだよ。ガイ……ガーゴイルがさ、かなりやばい状況になっているんだよ」



「やばいということは……ティールちゃんと同じような状況になっているということですか?」



俺の口ぶりから察したみたいだ。

まあ、わかりやすい言い方だったので当然か。



「ああ、あと余命五日な状態なんだ」



「余命五日!? もうまったく残された時間がないじゃないですか!」



時間のなさに相当驚いたらしくセシリアらしからぬ動揺した表情を見せている。……俺もガイ本人から知らされた時にかなり驚いたから、驚くのも無理はないが。



「いや、さっきデュークにガイの治療方法について聞いてきたんだ。なんでも魔鉱石とやらがあればなんとかなるらしいんだよ」



「よかった……治療方法は分かっているんですね」



セシリアはほっとした様子で胸を撫で下ろしている。……セシリアも最初はガイのことを悪い魔物だと疑っていた時期もあったんだけどな。

ティールちゃんとのやり取りを見ているとガイには魔物としての危険性がないと気づいたんだろう。

……別の意味で危険があるかもしれないが。



「ああ。だから魔鉱石とやらを手に入れればガイの方は大丈夫だ。問題はティールちゃんだよ」



「そうですね……無事に容態が回復すると良いのですが……」



そこからは重苦しい空気になってしまい、会話するタイミングが掴めなくなってしまった。

屋敷に着くまで窓から見える景色を眺めていると、程なくしてから屋敷が見えて来る。



「セシリアお嬢様、お連れ様、屋敷に到着致しました」



馬車が止まり御者からの声が聞こえ俺とセシリアは馬車から降りて屋敷に入る。……どうでもいいけど御者の人いい加減俺の名前覚えてくれないかな。

毎回会ってもお連れ様なんだよな。



「ヨウキさん、どうかしましたか? 何かを納得していないような表情をしていますが」



「あ、いや。なんでもないよ」



セシリアに突っ込まれてしまったので笑ってごまかす。

御者の人に悪気はないだろうし、初めて来た時にいた門番の二人ほどではないしな。



「そうですか……ではティールちゃんが寝ている部屋まで案内しますね」



「ああ、頼むよ」


相変わらず広い屋敷の長い廊下をセシリアと歩いているとメイドさんと何度かすれ違う。

全員セシリアと俺に頭を下げていったが、動きが若干ぎこちなく、そわそわしていそして……どこと無く元気がないような気がしたな。



「なあ、セシリア。使用人の人達表情が暗くないか? あと、失礼かもしれないけど動きが堅いっていうか……そんな感じがしたんだけど」



「……おそらくティールちゃんが倒れたということが屋敷内に広まっているんでしょうね。ティールちゃんの身体が弱いことは使用人の方々も知っているので」


「え、そうなの?」



「はい。身体が弱いはずなのに働き者だって皆さん褒めていましたから……もちろんソフィアさんも」



あのソフィアさんが褒めていたと言うんだから、ティールちゃんは相当頑張っていたんだろう。

ハピネスが説教されているところを見てしまい恐怖から無理をしていたとかな。



……おっと、危ない考えをするのはやめよう。

ソフィアさんは読心術が使えるからな。

俺が説教をくらってしまう。



「使用人の人達に安心して貰うためにもティールちゃんには元気になって貰わないとな。」



「ふふ、そうですね」



そんなやり取りをしつつ、セシリアの案内でティールちゃんの寝ている部屋にたどり着いた。

扉をノックしてから部屋に入る。部屋にはベッドに寝ているティールちゃんと椅子に座り珍しく難しい顔をしたシークの姿があった。



「あ、隊長〜やっと来たの〜?」



シークは俺の姿を見るや否やいつもの顔に戻ってしまった。

さっきまでの顔は何処へやらだな、少しは緊張感を持って欲しいもんだ。



「遅くなって悪かった。ちょっと俺の方でもいろいろとあってさ。……セシリアから聞いたよ、ティールちゃんの容態はどうだ?」



「う〜んとね〜。一応応急処置はしたんだけど……今持っている薬草だけじゃ足りないんだよね〜」



シークは困り顔で俺にそう言う。

……この時点でこいつが何故俺を呼んだかわかったな。



「なるほど……俺にその足りない薬草を集めてこいって言いたいんだな」



「あったり〜」



シークはいつもの無邪気な笑顔を浮かべている。

……本当に少しは緊張感を持てや。



「まあ、いいけどな。シークはティールちゃんから動けないんだろ?」



「……うん。今ある薬での応急処置は一時的なものだからね。僕が離れるわけにはいかないんだ」



いきなりいつもの笑顔が消え、真面目な表情になる。

おいおい、表情がころころ変わり過ぎだろ。



「シークくん、ティールちゃんと仲が良かったですから……心配なんですね」



「……うん、まあ、ね」


セシリアの言葉に頷くシーク。

そういえば歳も近いしティールちゃんとよく話をしていたからなぁ。

……主にガイについてのだったが。



何はともあれティールちゃんが倒れて一番心配しているのはシークなのかもしれない。

薬に必要な薬草も自分で採取しに行きたいのかもな。


「シーク、任せろ。お前の代わりに俺が必要な薬草全部集めてきてやるからな!」



ティールちゃんだけでなくシークのためにもカッコイイところを見せてやるために親指を立ててアピールする。



「いいえ、ヨウキさん。薬草は私が集めます」



「え?」



「セシリア姉が?」



しかし、まさかのセシリアから横槍を入れられてしまう。

シークも驚いているみたいだし、俺だと問題でもあるというのか。



「ヨウキさん、お忘れですか? ガーゴイルさんのことを」



「いや忘れてないさ。でも魔鉱石があればガイは……」



直る……そう直るんだ。

だけど魔鉱石が簡単に手に入るかはまだ解らない。

何処にあるのか、売っているのか、高価な物なのか一切の情報がない。



「なあ、シーク。足りない薬草ってどれくらいあるんだ?」



「えっとね、隊長が来るまでの間にリストを作っておいたから……はい」



そう言われリストを手渡される。

リストには俺が聞いたことがない名前の薬草がちらほらと書いてある。

……十種類もないが二日、三日で集められるか解らない。



「くそっ……俺一人じゃきついか?」



「ねぇ、ガーゴイルがどうって……何の話?」



「ああ、まだシークに話していなかったな。実はガーゴイルがやばい状況になっているんだ。五日以内に魔鉱石とやらを手に入れないといけなくてな」



「……その、話は本当、ですか?」



いきなりか細い声がベッドから聞こえ部屋にいる全員の視線が集まる。

どうやら俺達の会話が原因でティールちゃんが眠りから覚めてしまったみたいだ。しかも、一番聞かれたくなかったことを聞かれてしまった。



「だ、駄目だよ〜ティールちゃん〜寝てないと……」



「シーク、くん。心配かけてすみません。ヨウキさん、先程の話は本当なんですか?」



正直に話すか悩み所だが、この状態のティールちゃんに嘘をつくのは酷だろう。下手に嘘をつくよりも真実を教えた方が良い。



「ああ、だけど……」



「だったら私のことは大丈夫ですから早く……早く守り神様を助けてあげてください!」



俺は涙を流しながら懇願するティールちゃんに言葉が詰まってしまう。

ティールちゃんにとっては自分の身体は二の次でガイが一番みたいだ。

だけど、そんなことはできない。ティールちゃんのことも何とかすると口にしようとしたが。



「大丈夫ですよ、ティールちゃん。ガーゴイルさんはヨウキさんが絶対になんとかしてくれますから」



セシリアに口を封じられてしまう。



「本当、ですか。良かった、です」



「はい。でも駄目ですよ、自分は大丈夫なんて嘘を言っては。ティールちゃんのことは私とシークくんがついていますから。だから、安心して今は休んでいてください」



そう言ってセシリアはティールちゃんの頭を撫でる。すると安心したのか、シークの薬の効果か、再びティールちゃんは眼を閉じて眠ってしまった。

そんな光景をただ呆然と見ているとセシリアが不意に振り返る。



「ヨウキさん。先程言ったことはティールちゃんを安心させるために言ったのではありませんから」



「えっと、まじだったの?」



「はい。それに治癒や治療は私の仕事でもありますから。任せてください」



ここまで言われたら俺がやるなんて言えないな。

情けない話だけどどちらにしろ俺一人じゃ無理っぽいし。



「じゃあ、セシリア薬草探し頼むな。シークもティールちゃんのことしっかりな。力になれなくてごめんな」



「ティールちゃんのことは私達に任せて。ガーゴイルさんをお願いします」



「ティールちゃんは僕がしっかり診ているから、まっかせて〜」



「じゃあ、俺は魔鉱石とやらを探しに行ってくるわ」

そう宣言してアクアレイン家の屋敷から出ていく。

あと、五日で魔鉱石とやらを何とか見つけねば。

とりあえず商業ギルドか鍛冶ギルドに足を運んでみよう。

目的地を決めた俺は一人で走り出した。

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