守り神を直す方法を聞いてみた
ガイの身体を直す方法がわからないので、とりあえず頼りになりそうなデュークに聞こうと思い宿を飛び出したが……。
「どこにいるのかわかんねぇ……」
この世界には特定の人物を探す便利な魔法がない。
先日セシリアの屋敷で行った五感の強化をして探すというのも、街中なんかでは無理だ。
犬じゃあるまいし、人が多すぎてかぎ分けられん。
「翼生やして飛んで探すのが一番手っ取り早いんだけどなぁ……」
街中が大騒ぎになるから却下だ。
むしろ騎士団総出で俺を討伐にするためにデュークも来るかも……ってアホか。
「こういう時にレイヴンがいてくれればなぁ」
そう思い後ろを振り向く。そこには……人や亜人の入り混じったごみごみした通行人達が見える。
「そんな都合よくいるわけないよなぁ。仕方ない地道に自分の足で探すか」
どこにいるのか皆目見当もつかないが、ガイの命がかかかっているのだ。
多少の苦労など屁でもない。
俺は前を向きデュークを探すため走り出した。
王都を駆け回ること三時間。
多くのすれ違いが生じているのか見回りをしているはずのデュークに全く会えない。
見回りに出ているのはデュークだけではないようで別の騎士には出会う。
出会う度にデュークが見回る予定の場所を聞きそこに向かいはするのだが……何故か会えない。
「ぜーっ、ぜーっ……マジでどこにいるんだあいつは!?」
ずっと走り回っていたので、一旦立ち止まり呼吸を整える。
周りをキョロキョロと見渡すが目的のデュークはいない。
一向に見つからないのでイライラしてきているが、ぐっとこらえて冷静に考える。
これだけ探しても見つからないのだから、どこかの建物の中にいるかもしれないな。
「どこかの店で昼飯でも食ってるのか……いや、もう昼過ぎだしな。だったら騎士団本部か?」
考える時間がもったいないのでとりあえず騎士団本部に行くことを決めて走り出す。
「最悪レイヴンに頼んでデュークが帰って来るまで待たせて貰うしかないなぁ……」
ぼやいている内に目的地である騎士団本部に着いたので、中に入る。
「あっ!」
受付の方を見るとデュークが受付の人と何か話しをしている。
横には前回見たエルフ騎士の姿もある。
俺はつかつかとデュークに近づき肩を叩く。
「ん……なんだ隊長じゃないっすか。どうかしたんすか?」
「どうもこうもねぇよ。散々探させやがって……」
「探してた? 俺に何か用っすか? なら少し待っていてほしいっす。まだいろいろ報告が残っているんで」
そう言い残し、デュークは受付の人との話しに戻る。すぐに終わりそうな話ではなさそうなので、近くにあったソファーに座り待つことにする。三時間も王都を走り回っていたので、疲れたためソファーにもたれ掛かる。
「あー……疲れた」
「あの……」
だらし無い感じでソファーに身体を預けていると声をかけられた。
デュークと一緒に行動していたエルフ騎士だ。
「えっと……確かデュークと一緒にいた……」
「あ、わ、私はイレーネといいます。デュークさんの知り合いの方ですよね? デュークさんにはいつも今日もお世話になっていまして……」
自己紹介だけで何故かテンパりまくる彼女。
俺が怖いとかでテンパっているのか?
彼女の素なのかもしれないが……どちらにしろからかいがいがありそうな感じの娘だなあ。
……ちょっとからかってみよう。
「ああ、俺はヨウキというんだ。よろしくな。デュークとは元部下と上司の関係で俺は副隊長をしていたんだ」
「ふ、副隊長ですか!? ヨウキさんってすごい方なんですね。……と、ところで何の副隊長を……?」
「それは言えない……それを言ってしまえば君も命を狙われることになってしまう」
「えっ……」
「デュークも君の前から姿を消さなくてはならないことになってしまうだろう……」
「えぇーっ!?」
先程よりテンパり出す彼女を見て、必死に笑いをこらえる。
デュークもこんな逸材と一緒に行動していたなんて隅に置けない奴だな。
「隊長待たせたっす……ってどうしたんすか?」
「あっ、デュ、デュークさん……私っ、デュークさんのこと何も聞いてないですから。だから、私の前から消えないでくださいね!」
デュークの腕を取りぶんぶんと振っているのを見て、笑いをこらえることができなくなりそうになり、口を抑える。
「隊長……イレーネのことからかったっすね。何を一体吹き込んだんすか?」
「あ……ばれたか」
「そんなにわざとらしく手で笑いをこらえているのを見たら嫌でも気づくっすよ。何年一緒にいると思っているんすか」
兜でデュークの顔は見えないが間違いなく呆れた顔をしているんだろうな。
デュークのいう通り何年も一緒にいるから俺にも分かる。
「ははは……まあ、そうだよな。悪い悪い。ちょっと悪ふざけがすぎたよ」
「全く……聞いたっすかイレーネ。隊長が何を言ったか知らないっすけど、全部嘘っすよ」
「え……そうなんですか。デュークさん私の前から消えないんですか。よかったです。……あれ、じゃあ隊長っていうのは?」
「あだ名みたいなもんなんで、気にしないでほしいっす」
デュークがテンパっていたイレーネさんを宥めて、俺の悪ふざけを説明し出した。
二人は話し終えるとイレーネさんは俺に頭を下げてどこかに行ってしまった。
「一応、報告書を書くのがまだ残っていたんで席を外して貰ったっすけど……この方がよかったっすよね?」
「まあ、な。話の内容が内容だからさ。確かデュークって魔物の生態に詳しかったよな? ……ガイについて聞きたいことがあるんだ」
「俺に分かる範囲のことならいいんすけど……何があったんすか?」
心の中でデュークの知識でガイを助けることが出来るように祈りつつ、今朝起きた出来事を説明する。
「……というわけなんだがデューク、ガイの身体の直し方知らないか?」
「えっと……簡単なことっす。魔鉱石を食わせれば問題解決っすよ」
「そうか……え!?」
説明してすぐに解決策があると言われてしまい、思わず声が裏返る。
「何変な声出してるんすか……それにしてもひびが入るまで症状が進んでいるのは確かにやばいっすね。些細なショックで一気にひびが入ってもおかしくないっすから」
「じゃあ、さっさと魔鉱石とやらをガイにやらないとまずいってことだな」
「その通りっす。……それにしても不思議っすね。ガーゴイルなら魔鉱石のことぐらい知っているはずなんすけど」
「あいつはずっとダンジョンと村の社で寝て過ごしてきた奴だからな。知識をつけることを怠ったんじゃないか?」
何もせずに寝てばかりの生活をしてきたから知識の付けようがなかったのだろう。ダンジョンにいた時に他のガーゴイル仲間がいなかったのだろうか。
いたら、そいつらと少しでも知識を共有できたろうに。
「……魔物の生態って言ってもこれぐらいは知っておいて欲しいっす。隊長も勉強不足っすよ」
まさかの俺に対する愚痴が始まった。
魔王城にいた時に勉強する時間は腐る程あったものの、その辺の知識はデュークやハピネスが知っていればいいやと思って全くやらなかったからなあ。
「うっ……そ、それにしてもティールちゃんが必死になって探していたガイの身体を直す方法がこんなに簡単に見つかるなんてなぁ。ガイの身体も直る見込みが出来たし良かった、良かった」
「隊長……話を逸らそうとしているっすね。まあ、いいっすけど」
またデュークは呆れた顔をしているんだろうなぁと想像しつつ、苦笑する。
真面目に勉強しとけばデュークに会うために三時間も王都を走り回らなくて良かったのになあ。
「……そういや、お前ずっとここにいたのか? 今日は見回りするとか言っていたから王都を三時間も駆けずり回ったんだけど」
「ああ……そうだったんすか。今日は確かに見回りだったっすよ。多分、すれ違いになりまくったんだと思うっす」
「いくらなんでもなり過ぎだろ! 途中で会った他の騎士にお前の見回る場所を聞きながら走って探したんだぞ?」
そこまで不運なことが続くなんて……今日は鏡に向かって阿呆なことを言った覚えはないんだが。
「実はイレーネが行く先行く先でごろつき達に絡まれて……その度に連行していたんで見回り時間が大分ずれちゃったんすよ。それがすれ違いの原因っすね」
「いやいや、騎士が絡まれてどうするんだよ。絡まれている住民を助けるための騎士だろ」
そのための見回りなはずだろうに。
まあ、イレーネさんは何となく絡まれ率が高そうな気がしないでもないけどさ。……さっき俺もからかっちゃったし。
「確かに隊長のいう通りっすけど……イレーネ本人はちゃんと仕事をやっているんで。彼女は悪くないっすよ」
「まあ、仕事は真面目にこなしそうな感じの娘だったからな。悪いな、何だかデュークの相方を馬鹿にしたみたいで」
「さっき普通にからかってたじゃないっすか……俺も結構からかったりするっすけどね」
最後の台詞はぼそりと小さな声で呟くデューク。
お前も人のこと言えないじゃねぇかと思うが口には出さない。
ガイの身体を直す方法が見つかったのだから、これ以上の長話は無意味だ。
デュークもまだ騎士団での仕事が残っているみたいだしな。
「ま、そういうことでありがとなデューク。イレーネさんに謝っておいてくれ。騎士団の仕事がんばれよ」
「分かったっす。隊長もいろいろと頑張るっすよ」
別れの挨拶を済ませて俺は騎士団本部から出る。
ガイの身体を直すために魔鉱石とやらを手に入れないとな。
「……つーか、魔鉱石って何処で手に入るんだ? そもそも魔鉱石って何だ? 」
騎士団本部から出て気づいた。
俺、魔鉱石のこと何も知らないんだがどうしよう。
カッコつけて別れたからには戻ってデュークに聞きに行くなんて出来ない。
どうしようかと考えていると、見たことがある馬車がこちらに向かって来ているのが見える。
馬車は俺の前に来て止まり、扉が開くとそこには焦りの表情を浮かべたセシリアが俺に手を差し伸べていた。
「やっと見つけました。ヨウキさん、急いで乗ってください!」
「何かあったのか?」
「説明は移動中にします。とにかく今は馬車に!」
セシリアに急かされ馬車に乗ると、直ぐに馬車は発進した。
「それで何があったんだ? 俺も今忙しいんだけど……」
「ティールちゃんの容態が悪化しました。今はシークくんが側についていて……念のためにヨウキさんを呼んで欲しいとシークくんに言われたので探していたんです
「マジか……ティールちゃんもかよ」
ガイの次はティールちゃんとはな。
二人は運命共同体なのか?
まあ、そんなことはどうでもいいな。
今はティールちゃんの容態の確認、あとガイのことをセシリアにも相談しないとな。
「ティールちゃんも……とはどういうことですか、ヨウキさん」
「ああ、実は……」
俺とセシリアは屋敷に着くまでの間に情報交換をするのであった。
今年最後の投稿かもしれないです。
……良いお年を!




