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好きな子と久々に会ってみた

串焼き、ケーキを片手に俺はアクアレイン家の屋敷に着いた。

門番にも話が通っているようで、俺の名前を言うとすんなり通してくれた。

……そういえば以前に俺を門前払いした門番がいたな。

今は違う人が門番をやっているみたいだけどあの二人はどうなったんだ?



あの時のソフィアさんとセリアさんの会話を聞く限りでは……うん、やっぱ余計な詮索はやめよう。

知らない方が幸せなこともある。

……俺がこの屋敷で何かやばいことをやらかしたらどうなるんだろう。

ソフィアさんに何かやられるのか……?

やめよう、考えるだけで恐ろしい。



それよりなんで使用人の姿がないんだ?

こんな大きな屋敷を一人で歩いているとなんだか不安になるんだけどな。



「……隊長」



そんなことを考えているといきなり後ろから声をかけられ振り向く。



「ん……? ああハピネス。よかった……誰も使用人がいないからさ。少し不安になったぞ」



「……何で?」



ハピネスは相変わらずの無表情で疑問をぶつけてくる。

これだけでかい屋敷だし、誰か来たら迎えがあるのかなと思ったからなんだが。ソフィアさんとか直ぐに玄関で会うと思っていたんだけどな。



「いや、何でって言われても、なんかこう……出迎えとかあると思うだろ、普通」



「……何様?」



「いや何様って……ハピネスは俺を案内するために来たんじゃないのか?」



「……正解」



「……」



無表情でボケてくるとかすごく反応しづらい。

そういうことをするなら少しぐらいでもいいから、表情を変えてほしいものだ。


……レイヴンの奴絶対苦労するだろうなぁ。

ハピネスはプレゼント渡されても無表情でお礼を言いそうだし。

ハピネスの表情から感情を読むなんて芸当はできないだろうし……勝手に落ち込んだりしそうだな。



「……案内」



「ああ、頼むわ。……まあ俺一人でもセシリアの部屋に行けるけど」



「……仕事」



「ああ、取るなってことだろ? わかってるよ。言ってみただけだ」



「……ならいい」



そんなやり取りをして俺は大人しくハピネスに案内して貰うことにした。

ちなみに俺はハピネスが無表情でもある程度の感情を読める。

長い付き合いだからな。



……まあ、基本ハピネスは何を考えているかわからないところがあるから、俺も全部はわからないな。

シークの考えていることはもっとわからないけど。



そんなことを考えながら、ハピネスの後ろについて歩く。

会話もなく、屋敷の中を進んでいると何故か手汗が出てきた。

もうすぐセシリアに会える、そう考えるだけで緊張してくる。

やばいな、たった半月会わないだけでここまで緊張するなんて……。



「……ヘタレ」



黙って前を歩いていたハピネスがこちらを少しだけ見て、ぎりぎり聞こえるような声で呟いた。



「おい、こら待て。誰がヘタレだ」



ハピネスの肩を掴み振り向かせる。

いきなりヘタレと言われて黙ってはいられない。



「……何のこと?」



俺から不自然に目を逸らすハピネス。

こいつ白を切るつもりか。


「さっき俺のことヘタレって言ったろ!? 耳は良い方なんだ。ばっちり聞こえたぞ」



人は自分の悪口に敏感なんだよ。ま、俺は魔族だけど。



「……自意識過剰」



「いやいや、自意識過剰じゃねーよ。絶対言ってたわ!」



全く、ここまで頑なに否定する意味がわからん。

いきなりヘタレと言われたこともそうだが。

俺がむきになっている様子を見て、ハピネスは少し

安心したように、ふぅ……と息を吐いた。



「……解れた?」



「何がだよ。つーか話を逸らすな……」



「……緊張」



そう言われ俺ははっと気づく。

どうやらハピネスは俺の緊張を解すためにわざと俺を挑発してきたみたいだ。

元部下に気を使わせるとか……隊長失格だな。



「悪いなハピネス。おかげでいつもの調子でいけそうだ」



「……ならいい」



感謝の言葉を伝えるとハピネスはぶっきら棒にそう言って再び前を向いて歩き出した。なんだかんだで俺の元部下達って全員頼れる存在だとハピネスの背中を見て思う。



そんなハピネスのおかげで非常にリラックスした状態で俺はセシリアの部屋にたどり着くことが出来た。



こんこんとハピネスが扉をノックする。



「……お嬢様、隊長が来ました」



ハピネスがそう言うと「どうぞ」と扉の向こうから返事が聞こえた。

半月ぶりにセシリアの声を聞き緊張が高まり深呼吸をしているとハピネスから肘鉄を脇腹にくらう。



「う゛っ!?」



いきなりの痛みでおもわず変な声が出る。

ハピネスを見ると目がしっかりしろと語っているのが分かった。

……乱暴な処置だが感謝しておこう。

ハピネスが扉を開けて入り俺も続いて入る。



「お久しぶりですヨウキさん……とは言っても半月なのでそれほどでもないですね」



部屋に入ると椅子に座りこちらを向いて微笑んでいるセシリアがいた。

今まで読書をしていたのだろうか。

セシリアの近くに本が数冊積んである。



「いや、俺は半年ぶりに会うような感覚なんだけど……」



「ちゃんと半月ですよ。ヨウキさんは相変わらず面白いことを言いますね。……立ち話もなんですからどうぞ座ってください」



「ああ……ありがとう」



セシリアは今まで読んでいたのであろう本を閉じて本棚にしまう。

……俺読書の邪魔してないよねと思う俺は小心者。

しかし、そんなネガティブなことを考えると、表情に出すとハピネスからまた肘鉄がくるのでセシリアに会えたという喜びでネガティブ思考を上書きする。

……よし、俺は大丈夫だ。


「……失礼します」



しかし、ハピネスはセシリアに挨拶し部屋から出ていってしまい、セシリアと二人きりになってしまった。何か会話の種になるものがあればいいのだが思いつかない。

……とりあえず、お土産を渡そう。



「あ、これお礼……じゃなかった、お土産」



俺はセシリアにケーキが入った箱と串焼き二十本が入った袋を渡す。



「え……お土産ですか、 ありがとうございますヨウキさん。……ケーキと……串焼きが二十本? 」



俺にお礼を言ってきたセシリアが中身を確認し、頭にはてなを浮かべている。

俺だって変な組み合わせだし、串焼きの本数もおかしいと思う。



「えっと……二人で串焼きはこんなに食べ切れないですよね。使用人の方々の分ということですか?」



串焼きが二十本もあったせいか使用人の分も買ってきたと思っているみたいだ。


「ははは……串焼きもケーキもただで貰ったもんだからさ」



「……詳しい説明をお願い出来ますか?」



セシリアに説明を求められたので、昨日と今日起こった出来事を話した。

まあ、面倒な話になる可能性が高いユウガのことは話してはいない。



「……そんなことがあったんですか。でも結果的に良かったですね。交友関係が広がったじゃないですか」



「う……まあ、そうだな」


これは俺が友達が少ないと思われていたということだろうか。

だとすると結構ショックなんだが。

友達がいないぼっちだなんて……好かれないよな。

そんな卑屈な気持ちになっているとセシリアは俺がいじけ始めたことを察したようで、弁明してくる。



「ヨウキさん、勘違いしないでください。私はヨウキさんがミネルバに溶け込んできたという意味で言ったんですよ」



「……え?」



「私やデュークさん達だけではなくミネルバの人達とも仲良くしているってことは……慣れてきたんですよね、この世界に」



セシリアの言葉を聞き、考える。

魔王城での引きこもり生活から脱出をしてもう三ヶ月ほど経っただろうか。

最初の頃、異世界最高とか思っていたが、不安とかもあった。



しかし、セシリアとデートしたり、レイヴンの恋愛相談に乗ったり、帝国の勇者をボコボコにしたりといろいろなことがあった。

そんな経験が俺を少しだけ成長させてくれたのかもしれない。



「魔王城にいたころのヨウキさん、死にたいって言っていましたよね。……今はどうですか?」



「そりゃあ……生きたいさ。今はいろいろ楽しいし……何より目標があるからな」



セシリアへの片想いの成就である。

あの日からセシリアは俺の生き甲斐になったのだ。

……大丈夫だ、ストーカーにはなっていないはず。



親であるセリアさんの許可はとっているからな……まあ、まだ友達以上にすらなっていない気がするけれど。



「目標……良いですね。目標があれば生きる活力にもなりますし。私もヨウキさんを見習って何か目標を作りますね」



「いや、俺なんか見習わなくても……」



「そんなに謙遜しなくてもいいんですよ?」



セシリアはニッコリと嘘偽りのない笑顔を向けてくる。

その笑顔で俺は完全にノックアウトされ、セシリアの顔を直視できなくなってしまった。



「えっと、その……ありがとう」



とりあえずお礼を言っておこう。

……恥ずかしがるとか情けない姿は見せたくないし切り替えよう。



「そんな……お礼を言われるようなこと言っていませんよ。……せっかくですし、ケーキ食べませんか? 私紅茶を淹れますよ」



「ああ、食べよう……ってセシリアって紅茶淹れれるの? そういうのって使用人の仕事じゃあ……?」



「ソフィアさんに教えて貰ったんです。女性ならこういうことを覚えていても損はないなと思いまして」



笑顔で語りながら紅茶を淹れるセシリアの後ろ姿を見て、セシリアが嫁になったら幸せだろうなぁと思っているとさらなる疑問が湧いてきた。



「セシリアって料理とかは作れたりは……」



「出来ますよ……とは言っても一般レベル程度にですが。あと、旅をしていて野宿の時は私がたいてい作っていましたよ」



まじでセシリアを嫁にしたい願望が強くなった。

この話の流れだと家事とかほとんど出来そうな気配がする。

……逆にセシリアが出来ないことってあるんだろうか?

試しに聞いてみよう。



「なあ、セシリアって出来ないとか……苦手なことってある?」



「出来ないことですか? そうですね……剣術とか、体術があまり得意ではないですね」



「…………そうなんだ。まあ、セシリアは僧侶なんだしさ。それは別に気にすることないんじゃないか?」



戦闘面での質問をしたわけではなかったのだが……予想外の回答に少し沈黙してしまった。



とにかくセシリアが高い女子力を持っているということを知れたので良しとしようかな。



「……ですが、魔王を倒したとはいえ、まだまだ凶悪な魔物はたくさんいます。ヨウキさん、時間があればでいいので今度教えていただけますか?」



「え、体術をってこと?」



「はい!」



「別に構わないけど……ほどほどにね」



ふとケーキ屋のマッチョ店員が頭に浮かんできた。

俺に任せろといいたげな感じで親指をぐっと立てている姿だ。

……絶対にないな、ありえない。

セシリアにはムキムキになんてなって欲しくないので、強化魔法メインで教えよう。

そう固く心に誓う俺であった。

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