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勇者から話を聞いてみた

騎士団を出て直ぐにユウガに捕まった俺は、お詫びがしたいというユウガの頼みの下、一緒に食事に行くことになってしまった。

お詫びがしたい気持ちがあるなら俺を解放して欲しいな。

それが一番のお詫びになる。



まあレイヴンが気を利かせてくれたのか、俺がレイヴンに貸した変装グッズをユウガに渡してくれたようで町を歩いていて騒ぎにならなかったのが救いだ。



ダブルデートをした時は変装していたのに何故今日は素で出かけていたのか理解が出来ない。

よく俺と乱闘になる前に騒ぎが起きなかったものだと思う。



ユウガの案内で店に向かって歩いている間はお互いに終始無言だった。

十数分間、そんな最低な空気を過ごしてやっと目的の店にたどり着いた……が、そこはまさかの先日ミカナが案内してくれた店であった。



「着いたよ。ここはオシャレな雰囲気で店員さんがとても親切で……えっと……あと、料理もすごく美味しいんだ!」



なんだか最近聞いたような店の紹介をしてきたんだが……というかほぼミカナの紹介文パクってんじゃねぇか!

どうやらユウガもミカナとここに来たことがあるようだ。

その時のミカナの言葉を覚えていたんだろう。



「へー、そうなのか。楽しみだな」



一度来たことがあるくせに我ながら白々しいと思う。でも一度来たことがあると言うのもなんとなく嫌なので黙っておこう。


野郎二人でこんなオシャレな店に来て何が楽しいんだこいつはと正直思うが……来てしまったので仕方なく店に入る。



「いらっしゃいませ、二名様ですね。こちらの席にどうぞー」



ミカナとレイヴンと一緒に来た時にいた店員に案内され席に座る。

ユウガはメニューを見て何を注文しようか悩んでいるようだが、俺は長話する気などさらさらないので食事などしない。

店員が去る前に適当に飲み物だけを注文する。



「俺はこの店長オススメドリンクを頼む」



「……ご注文は以上でよろしいですか?」



「いや、あと連れがまだ選んでいるから少し待ってて欲しいんだけど……」


ユウガはメニューを見てまだ選んでいる。

早く決めろよな。



「いえ……お客様がです」



「俺? いや、いいけど」



「そうですか……」



店員は不思議そうな顔をして首を傾げる。

その後ユウガも結局俺と同じ物を頼み店員は去って行った。

後で聞いた話だが、どうやら先日の俺とレイヴンのフードファイトはこの店では場違い過ぎた行動だったみたいでかなり印象に残ってしまったらしい。



結果俺がやたら食う客だと思われ飲み物しか頼まなかったので不審に思われたようだ。

……非常にどうでもいい話だが。



「あの……さっきは本当にごめん。僕のはやとちりのせいで……」

「いや、全然気にしていないから大丈夫だ」



飲み物が運ばれてくるまで気まずい空気が流れると思っていたが、まさかのユウガからの謝罪に何故か棒読みで返してしまう。



「勇者の僕が無実の一般人に怪我を負わせそうになるなんて……本当にごめん」


本当に悪いと思っているのか頭を下げて謝罪してくる。

レイヴンから聞いたが男に言い寄られて強引に裏道に連れていかれた女性を助けて俺と鉢合わせ、その男の仲間だと思ったらしい。



それで俺に襲い掛かってきたらしいが……こっちは完全に私事なのにユウガは女性を助けるためとか。

これがチート持ちでも残念な俺とイケメン勇者との差か……むなしいな。ま、強さなら俺が上だし、怪我もせずにすんだからいいか。



「いや、怪我もしてないし本当に大丈夫だから」



「そっか、安心したよ。……ところで君、僕と何処かで会ったことないかな?」



どうやらユウガは俺のことを覚えていないらしい。

セシリアとのデート騒動の時軽い変装はしていたが……ミカナは先日すぐに気づいたぞ。

俺が常時携帯している変装用の眼鏡をかける。



「あっ、君は確かセシリアと一緒にいた……」



「……思い出したか」



眼鏡を外してポケットにしまう。

今は変装する必要ないからな。

ユウガが分かるようにかけただけだし。



「ねぇ、君セシリアとどういう関係なの!?」


テーブルから身を乗り出して俺に質問をぶつけてくる。

さっきまで謝ったばかりの人間にすることか?



「普通の友達だけど」



「そんな、セシリアに男友達が……」



「お待たせ致しました。店長オススメドリンクになります。ごゆっくりどうぞー」



ユウガの話を遮るように店員さんがドリンクを運んでくる。

店員さんナイスタイミングだ。

俺は運ばれてきたドリンクをぐびぐび飲む。

なんだか柑橘系の味がするさっぱりしたドリンクだ。


ユウガがそんな俺に疑いの眼差しを送ってくる。



「……なんだよ」



「本当にセシリアとはただの友達なの?」


「そんなに疑うならレイヴンに聞いてみてくれ。友達だからさ」



「レイヴンとも友達なの!? ……そういえばさっきレイヴンに叱られた時にヨウキって名前が何回か出てきていたけど……君の名前?」


「そうだ」



「そっか、ならレイヴンに今度聞いてみるよ」



「そうしてくれ、その方が信用してもらえるだろ」



結果、レイヴンに丸投げという形になってしまった。

……本当にレイヴンには頭が上がらなくなるな。

今度お礼をしないと。


「うん……そうするよ」



「じゃあ、もう用はないよな。俺はこれで……」



ドリンクを飲みほして席を立ち、お金を払い店を出ようとする。



「ま、待って!」


しかし、何故かユウガに止められてしまう。

嫌な予感がするが、一応用件聞こう。



「まだ、何かあるのか?」



「じ、実は相談に乗って欲しいんだけど……」



ユウガからしたらほぼ初対面で恋敵かもしれない俺に相談だと……?

いやいやおかしいだろ。



「……何で俺に?」



「うっ……じ、実は……」



「実は?」



「……相談出来そうな友人がいなくて」



「……」


イケメン勇者の悲しい事情を知ってしまい、少し泣きそうになってしまった俺である。



「一応聞くけど、どんな相談なんだ?」



「セシリアとどうすれば仲良くなれるのかなって……」



友人がいないからかわいそうだと、一応聞くだけならと。そんな思いで質問した俺が愚かだった。

こいつは何を言っているんだ。

何処まで鈍感……というか阿呆なんだよ。

普通恋敵かもしれない男に恋愛相談なんてしないだろ。



俺がセシリアとただの友達と言ったことを本気で信じて聞いてきたなら驚きだ。今は友達という意味なだけで別に好意がないと言った覚えはないぞ。

それぐらい察しろよ。



というかセシリアと仲良くなる方法を教えて欲しいってこと自体がおかしい。

知り合って一緒にいた期間は俺より長いはずだろ。



「えっと……パーティーを組んでいたんだよな。悪いけど俺がセシリアと知り合ったの最近だからさ。付き合いは勇者様の方が長いんだし、その辺は俺より知っているんじゃないか?」



「いや、この前会った時になんだか僕より君の方がセシリアと仲が良さそうに見えたからさ……」



だからって俺に相談するなよ。

正直恋敵の恋愛相談なんて受けたくないんだが……このこともレイヴンに丸投げしちゃ駄目だろうか?

葛藤すること数秒。

出した結果は……レイヴン、すまない。



「なあ、それなら他の勇者パーティーの仲間に相談したらいいんじゃないか?」



「……レイヴンにはさっき迷惑をかけたばかりだからね。……初めてだよ、レイヴンにあんな長文で叱られたのは。いつもなら十文字くらいなんだけどね」


長文で怒られるって……イマイチ迫力にかける気がするが……レイヴン的にはかなり叱ったんだろうな。

騎士団の部下にも筆談で指示とかしているんだろうか?

今度聞いてみよう。

しかし、レイヴンが駄目となると……ミカナか。



……先日俺のせいでこの二人の間には亀裂が入っていることが判明したからな。多分、ミカナには相談しないと言うだろう。



「ミカナは……駄目かな。ミカナはセシリアのことが嫌いだろうし」



……今こいつなんて言った?

ミカナがセシリアのことが嫌い……そんな話ミカナから聞いてないぞ。



「なあ、それ本人が言っていたのか?」



「……君はミカナとも友達なの?」



「いや、知り合いだ」



「そっか。ミカナはね、僕の幼なじみなんだ。昔からいつも一緒にいてくれて僕のことを支えてくれた。だけど……僕はミカナを許せないんだ。だってミカナはセシリアを……見捨てようとしたから。だからミカナはセシリアのことが嫌い……」



「少し黙れよ……」



その台詞を聞いた瞬間、俺のいらつきが最高潮にまで達した。

全くミラーといいユウガといい……どうして勇者という肩書きをもっているやつは俺をここまで怒らせるんだろうか。



無知は罪とはよく言ったものだ。

お節介かもしれないがユウガは知る必要がある。

そうしないとユウガを想っての行動をした結果、罪悪感で苦しんでいるミカナが報われない。



元はといえば俺が蒔いた種だしな。

幸せな明日を迎えるためにけじめをつけておくべきだろう。


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