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勇者に遭遇してみた

「フッフッフ……ついに明日で半月が経つぞ!」



俺は朝起きてテンションがマックスだった。

近くに誰かがいたらうっとうしいと思われるほど今の俺はテンションが高いだろう。



ミカナの相談を聞き、レイヴンとフードファイトをしてから時は過ぎ。

明日、セリアさんが決めた半月後となる。



「この日をどれだけ待ったことか……」



会わないのと会えないのではどれだけ違うのかが今回で分かった。

もうこんな想いはしたくないと切実に思う。

だけど、それも今日で終わりだ。



「クックック……俺は明日神になるっ!!」



テンションが上がり過ぎて鏡の前で着替え中に厨二な台詞を言ってしまう俺。



自重しなければいけないんだとわかってはいるんだが……ここは俺が借りている宿部屋でプライベートな場所だ。

公共の場ではないのだから別にいいだろう。



存分に上がりきったテンションを解放することが出来る。

着替えを終え、脳内で浮かんだ俺的にグッとくる台詞を決めポーズをつけて言い放つという常人では理解不能なことをし始める。



「俺は貴様という存在を否定する!」

「我が魔法で朽ちろ!」

「俺が世界を救ってみせるっ!」

「残念だが……お前では俺には勝てない」



発散するどころかどんどんどんどんテンションが上がっていき歯止めがきかなってくる。

やばい、止まらないな。



「お前にとって今日は最悪な一日になるだろう……」



「…………さっきから何を言っているのだ小僧?」



「…………」



何故なら俺という存在に出会ってしまったからなと言おうとしたら、急に声をかけられる。



振り向くと可哀相なものを見るような目で俺を見ているガイがいた。



……そう。俺はテンションが上がり過ぎてこの眠ってばかりな石像のことをすっかり忘れていたのだ。



「ああぁああああぁっ!?」



恥ずかしい、超恥ずかしい。

テンションが急降下して現実に戻り、ついさっきまでの自分を殴ってやりたい衝動が起きる。

俺本当に何言ってんの。



いくら明日セシリアと会えるとはいえ、調子に乗りすぎだろう。



俺のせいで部屋の中が変な空気になってしまった。

このまま部屋にいると悶絶死しかねない。

呆れているガイをよそに急いで部屋から出る。



「……っうお!?」



しかし、扉を開けると少女が立っていたので驚き身を引く。



「こんにちは、お久しぶりです」



立っていた少女はティールちゃんだった。

いきなり部屋から出てきた俺にまったく動じずに挨拶をしてくる。

メイド服ではなく普段着を着ているので、今日は仕事が休みなのだろう。



「ああ、久しぶりだな。今ちょうど出かけるところだったんだけど……何か用かな?」



「奥様からの伝言で明日の昼、屋敷に来るようにと……」



半月後と言われたがジャスト半月経ったら会っていいのか分からなかったので少し心配もしていたんだが。

これで明日堂々とセシリアに会いに行けるな。



「休みなのにわざわざ伝えに来てくれてありがとう……ところで、背中の荷物は何?」



先ほどから気になっていた大きな風呂敷のような物に包まれている荷物。

病弱なティールちゃんの体で何故これだけ大きい物を背負えるんだろうか。



というか今必要な物か、これ?



「本です」



「本か」



「はい」



「その荷物全部?」



「そうです」



「……」



「……」



なんだろう、ティールちゃんの目が察しろよと俺に訴えている気がする。

彼女は多分セリアさんの伝言はついでで元々宿に来る予定だったんだろう。

あの眠ってばかりのロリコンガーゴイルに会うために。



「えっと、俺は今から出かけるけど……入ってく?」



「はい、ありがとうございます!!」



ティールちゃんはソフィアさん仕込み? であろうキレのあるお辞儀で感謝の意を表す。

さっきとキャラ変わってねぇ!? と言いたいが俺はさっさとガイから離れたい。


入れ代わるようにティールちゃんが部屋に入り、俺は当てもなく外に飛び出した。



「はぁ……しばらく宿に帰れないな……いや帰りたくない」



あれは恥ずかしい、超恥ずかし過ぎる。

ああ、穴があったら入りたい。

朝起きた時はテンションマックスだったのに今はどん底である。

勢いで飛び出して来たが今日は誰とも何の約束もしていない。



ギルドカードを部屋に忘れてきたので依頼を受けられない。

だからといって取りにも帰れない。

クレイマンと駄弁るという手があるが……あいつのサボりの口実になるのは嫌だしな。



「仕方ない。幸い金は持ってきたし適当にブラブラしようかな」



男一匹で暇つぶしだ。

たまにはこんな休日もありだろう。

この時まで俺はそう思っていた。



一人でブラブラして早数時間……結果は散々である。

歩いていれば肩がぶつかり、相手はなんと強面の獣人だった。

睨まれてしまいすごく怖い思いをした。



適当に店に入ればうっとうしいくらいイチャイチャしているカップルが独り身の俺を指差してクスクスと笑ってきた。

好きで独り身じゃねぇんだよ。



イライラしたので甘い物を食べて落ち着こうと、行きつけのケーキ屋に行ったら店員がまさかの筋肉ムキムキなナイスガイ……。

フリフリな白いエプロンが破壊力抜群だった。



いつもいる店員の女の子が風邪で倒れてしまい、彼は彼女の兄で代わりに店番をしていたとか……。



頼むからケーキ入れた袋を持ったままポーズを決めないで欲しかったな。

中身が少しぐちゃぐちゃになっていた。

文句を言いに行きたかったが、またあの筋肉を見せつけられるのは面倒だったので我慢して食べた。



歩きながら串焼きを食べていた子供にぶつかって服が汚れてしまうし……。



さらに俺とぶつかり串焼きを落としてしまったその子供に泣きつかれたので、今は弁償するために露店で買い物中である。



「何故俺は今日こんなについていないんだろう……」



「はいよっ、兄ちゃん串焼き二本」



「あ、ありがとうございます。……ほら」



俺はいまだに泣きついている子供にサービスで二本の串焼きを渡す。



「うぅ、ひっく……ありがとうお兄ちゃん」



「これからはちゃんと前を向いて気をつけながら歩け。出来ないなら歩きながら食べないで家帰ってから食べろよ」



「う、うん」



「じゃあな」



そのまま子供は串焼きを食べずに袋に入れたまま走り去っていった。

家で食べることにしたんだろうが今度はこけて串焼きを落とすんじゃないだろうか心配である。

こけて落としてもそこまでは面倒みきれんぞ。



「にしても今日はついてないな。なんでだろ……っていてっ!」



そんな考えごとをしていて油断していた俺はまた人にぶつかってしまう。

ぶつかってきた相手は何も言わずにそそくさと俺から離れていった。



「なんだあいつ何も言わないなんて……怪しいな」



俺は嫌な予感がしポケットを探る。

すると財布が無くなっている。

さっき串焼きの代金を払う時まではあったのだ。

ということは……。



「あの野郎っ!」



今度はスリかよ。

今日は本当についていないな。

まだ遠くには行っていないはずだ。

俺は奴が去って行った方向に走り出して辺りを見渡す……すると奴はいた。

こんなに早く気づかれるとは思わなかったのか、追いかけて来ている俺に気づき逃げ出した。



スリは薄暗い裏道に入る。

俺から逃れるためにこんな入り組んでいる場所に逃げたんだろうが甘いな。



「《瞬雷》」



俺は脚力強化魔法を使って一気に奴に詰めより跳び蹴りをくらわす。



「ぐへえっ!?」



間抜けな声を出しながら吹っ飛ぶスリ。

しかし、何故か前からも人が飛んで来て俺が蹴り飛ばしたスリと空中でぶつかりばたりと倒れる。



「なんだ? いきなり人が飛んで来るなんて……まあいいか。それよりも財布だ財布……」



俺はスリのポケットから盗られた財布を回収し中身がちゃんとあるか確認して大丈夫だったのでポケットにしまう。

財布を取り返したらこんな所に長居は無用なので、とっとと表の通りに戻ろうと背を向ける。


すると急に殺気を感じたので飛びのく。

臨戦態勢に入り振り向くとそこには……。



「おい、そこの君。今彼から盗んだ財布を返すんだ」



まさかの勇者ユウガが俺に剣を向けていた。

傍らに見知らぬ少女を連れてである。

一番会いたくない奴に会ってしまった。

しかも変な誤解をしているし……。




「これ俺の財布なんだけど……」



「そう……返さない気なんだね。……なら力ずくでっ!」



「いや、人の話聞けよ……」



そのままユウガとバトルに突入してしまう。

黙ってやられるわけにはいかないので抵抗している内にどんどん派手なことになってしまった。

結果、町民によって騎士団に通報され俺とユウガは仲良く騎士団のお世話になることになった。

……俺何も悪いことしてないんだけどな。



ふと朝、俺が中途半端に言った台詞が頭に流れてきた。



『お前にとって今日は最悪な一日になるだろう……』



鏡の自分に向かって言ったあの台詞は見事に現実になったのである。

まじでしばらく厨二は自重しようと固く心に決めた俺であった。

セシリア登場はもう少し先になりそうです。

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[良い点] 面白い [気になる点] レイヴンとフードファイトをしてからあっという間に時は過ぎて気がつけば明日、セリアさんが決めた半月後になるのだ。 「この日をどれだけ待ったことか……」 このくだ…
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