後押しされてみた
セシリアに劣等感を抱き元部下たちに相談した結果。
おちょくられた上に説教を喰らう羽目になった。
「さっさと家に帰ってセシリアさんと相談するっすよ。そうしないと誓いの言葉が嘘になるっす」
「……詐欺」
「詐欺師ー」
「そこの二人は口を閉じろ」
俺はセシリアを騙していない。
ただちょっと……情けない感じになっているだけ。
しかし、それももう終わりだ。
「やるべきことはわかった……ありがとうな三人とも」
「隊長だしこんなことが起こることは予想済みっすよ」
「……想定内」
「また何かあっても奢りで相談可ねー」
「また何かあったら頼むわ。もちろん、俺に頼んでも良いからな」
こういうのは持ちつ持たれつってやつだし。
「こっちはこっちで大丈夫なんで隊長にお願いすることはないっすよ」
「……安心」
「心配なのは隊長だけだよーん」
気遣いは無用と断る元部下たち。
おいおい、そんなことを言って良いのか?
「……本当にそう思うか。三人とも俺に集中し過ぎたとかないよな」
俺の一言に三人が誰も返答できず黙ってしまう。
そんな静寂を破ったのは酒場の扉が勢いよく開かれた音と。
「いたのー!」
自らの式神に跨るフィオーラちゃんの声だった。
ほら、一人目の迎えが来たじゃないか。
「ほらシーク、迎えが来たぞ。今日の会はお開きだ」
シークに席を立つように促す。
落ち着かない様子でゆっくりと立ち上がるシーク。
何にそんな怯えているのか。
「えっとー……もう暗くなってくる時間だよねー」
あのシークが空元気。
きっと前にもあった似たような流れがあったんだろう。
そして、その流れの先は……。
「夜はまだまだこれからなの。ティールもウェルディも集合しててあとはシークくんだけなの!」
シークにとっては良くないものと。
シークの顔が死んでいるが、全員保護者がいる身だし、そこまで遅くはならんだろう。
「シーク、行くっす!」
「……出発」
デュークとハピネスはもうシークを送り出す側に回っている。
友人と交流を深めるのも大事だからな。
薬草と会話はできないし、同年代の友人は大切にすべきだ。
「た、隊長ー」
シークが助けを求めるような目で俺を見てきた。
そんなシークへの俺の返答は……。
「とりあえず、今日これらは預かっておくわ」
先ほど没収した薬を全て抱え込む。
理由は持たせたらいけない気がするから。
「えー、全部はこま……」
言い切る前にフィオーラちゃんの式神がシークを咥えた。
「行くのー!」
「た、隊長ー!」
勢いよく酒場から出ていく二人を見送る。
シークの俺を呼ぶ声がだんだん遠くなっていった。
「なあ、シークが一番心配じゃないか?」
事情を知らない人から見たらハーレムだけど。
ティールちゃんはガイ信者、フィオーラちゃんは知識欲、ウェルディちゃんは生徒……。
どこに着地する気なんだあいつは。
「シークは隊長に似て面倒見が良いから大丈夫っすよ。変なこじれ方はしないっす」
「……同意」
「ほう」
俺の良い部分を吸収していると。
そう言われると気分が良くなる。
「でも、ちょっとシークは相手に押され過ぎっすよね」
「……弱腰」
「隊長は自分の作戦を通すっすから、そこは似ていないっすね」
「……強気!」
「何その差」
俺はそこまで強気にいかないぞ。
てか、ハピネス、シャドーボクシングを止めろ。
強気ってそういうことじゃないから。
「変なスイッチ入ってる時は強気にいってるっすよ」
「……おせおせ」
二人の言葉に言い返すことができず、黙ってしまう。
厨二スイッチが入ってる時だと……やってるな。
ポーズ付きで色々やらかしてるわ。
「安心するっす。隊長のそれは気にしても治らないんで」
「……治療、不可」
「長所でもあるんで変に制御しようとか考えない方が良いっすよ。ハピネスもそう思うっすよね」
「……賛成」
「そ、そうか……?」
一人反省を始めようとしたところで二人からフォローが入る。
二人がそう言ってくれるなら、気にしなくても大丈夫か。
「隊長にはセシリアさんがいるっす。変なことをしてもきっとなんとかしてくれっすよ」
「セシリア頼みにしてる時点で駄目だろ」
「……正座?」
「そうなるともう手遅れだからさ」
もうセシリアに聖母の微笑みを浮かべさせないぞ。
……そこまでの迷惑はかけたくないんで。
「しっかりセシリアと話すことにするよ」
「それが良いっす」
「……英断」
「そんじゃ今日は解散だな」
方向性も決まったところで店を出た。
あとは各自で帰るだけだが……。
「何を持っていこうとしてんだ?」
ハピネスがいつの間にかシークの怪しげな薬品を一つ盗っていた。
袋に入っている粉薬系のやつだ。
「ハピネスは睡眠を取ろうとしないレイヴンへの最終兵器が欲しいみたいっす」
「……多忙」
「強制的に休ませようとするなよ」
今、忙しいのはミラーのやつが原因で騎士団がゴタゴタしているからだ。
騎士団の体制が整えばレイヴンにもいくらか余裕が出てくるはず。
「前も似たようなことがあったよな。その時に話し合って解決したんじゃないのか?」
「……とっておき」
「切り札的なものでもだめだろ」
「……むー」
「俺相手に膨れっ面が通用するとでも?」
そういうのは彼氏相手にやるんだな。
だめなものはだめだから早く返しなさい。
怪しい粉薬の入った袋に向けて腕を出す。
しかし、腕を左右に動かして薬を掴ませないよう抵抗するハピネス。
酒場の前でこんなやり取りを長々としたくないんだが。
「くっ……こんなところで強化を使うことになるのか」
そこまで苦ではないけど何か悔しい。
でも、時間はかけたくない。
「悔しいなら素の力で勝負するっす」
「……卑怯」
「この状況で俺が悪いみたい流れになるのおかしいだろ! てか、早く返せ」
「……拒否!」
ハピネスと薬をめぐる攻防を続けていると。
「……何をしているんだ」
ハピネスを迎えに来たレイヴンが現れた。
よし、協力してもらおう。
「レイヴン、良いところに来たな。ハピネスを止めてくれ」
レイヴンの言うことならハピネスも従うはずだ。
しかし、ハピネスも黙っているままなわけがなく。
「……助けて」
レイヴンに向かって首をこてんと傾け、いつもの表情で言い放った一言。
これが強烈に効いたのか、レイヴンが停止した。
「効果抜群っすね。今、隊長の味方をするかハピネスの味方をするか脳内会議が行われているっすよ」
「おい、卑怯なのどっちだよ!?」
「……特権」
彼女の特権をこんな場面で使うのか。
だったら、ここは騎士団長という肩書に訴えかける感じで揺さぶろう。
「レイヴン、普段の俺とハピネスのやりとりを知っているだろ。今回もそういうやつなんだが、この袋はだめだ。ハピネスに持たすのは良くない。そもそも、ハピネスの物でもないんだぞ。正義はどちらにあるのか、付き合っている云々は一旦、捨てて考えてほしい」
「………………………そうか」
俺の嘘偽りのない言葉に影響されたのか、レイヴンが長い葛藤の末、口を開いた。
ゆっくりとハピネスの持つ袋へと手を伸ばしていく。
やはり、正義は我にあ……。
「……だめ?」
「……ぐぅっ!」
「手を引っ込めてんじゃねぇよ!」
ぐうっ、じゃないんだわ。
そこは袋を奪ってくれ。
「……ヨウキ、ハピネスが良からぬことをしているのはわかっているんだ」
「なら、止めてくれ」
袋を奪えば終わりなんだ。
こんな茶番を長々としててもさ。
そろそろ、常識人のデュークにも参戦してもらってお開きに……。
「いや、いつから?」
デュークに視線を向けるとイレーネさんと一定の距離を保って向かい合っていた。
「イレーネ、落ち着くっす。落ち着いてその手をゆっくり下すっすよ」
両手を広げてじりじりと詰め寄るイレーネさんへ、後退しながら説得を試みるデューク。
この絵面は何なんだ。
「だって今日はデュークさん、仕事を休んでいたじゃないですか。だから、もう……」
「いやいやいや。それでも今じゃないっす!」
うん、今じゃないと思う。
こうなってしまったら、デュークはもう頼れないな。
こっちはこっちで何とかするしか……うーん。
「あとは各々、好きにやってくれって感じにしてしまうのもありか?」
この場に俺って不要じゃね?
カップルとカップルと新婚の夫って。
俺だけが浮いてるよな。
「ちょっと隊長、面倒臭くなったからって投げ出そうとするのなしっすよ!」
デュークが俺に向かって文句を言ってきた。
別に面倒臭くなったわけじゃなくてさ。
「ハピネスの件はレイヴンにお願いすれば良いし」
あの粉薬による被害はレイヴン一人になる。
それ以外の使用をハピネスは絶対にしない。
シークも薬を勝手に使われたとしても、ハピネス相手なら文句を言わんだろ。
デュークはまあ……頑張って家まで逃げてくれ。
「そういうことで俺はセシリアと話があるんで帰宅する」
「どういうわけっすか隊長……って、イレーネ!?」
四人から離れて歩き始めたところでイレーネさんが本領を発揮した。
じりじりとゆっくり詰め寄っていたのに……こけた。
急いでいたわけでもないのに何故なのか。
いや、それよりもだ。
デュークだけでなく、ハピネスとレイヴンまで巻き込まれたぞ。
「おい、大丈夫か!」
心配して駆け寄るとデュークだけ起き上がった。
「俺は大丈夫っすけど」
「あー……」
転んだ拍子にハピネスが持っていた袋の中身をぶちまけたらしい。
三人とも夢の中へ……なんてことはない。
そこまで即効性のある危険な薬をシークは調合しない。
でも、袋の中身が全部出てるからなぁ。
寝るまでは行かなくても身体がまともに動くとは思えん。
「うーむ……デュークがイレーネさんを運んで俺がレイヴンとハピネスを運ぶしかないか」
「そうっすね。こんな時こそ力を発揮するっす」
早速、強化を……しようとしたら、レイヴンがのそっと起き上がった。
おいおい、動けるのか。
「レイヴン、無理しなくても……」
「……安心、しろ。多少、慣らして、あるんだ」
緩慢な動きでハピネスを横抱きする。
そんな身体で帰るつもりなのか。
「……そう、心配、するな、ヨウキ。近くの宿に、今日は、泊まる、から」
「なら、俺もそこまで一緒に」
「……これは、俺の役目、だ」
そう言って歩き始めたレイヴンだが、その姿は今にも倒れそう。
心配だし、こっそり後ろからついて行くべきか。
「隊長は帰るっすよ。俺が見届けるんで」
「……良いのか」
「隊長はさっさと自分の用事を済ませるっすよ。それじゃ、また今度」
イレーネさんを横抱きにしたデュークがレイヴンの後を追う。
……お言葉に甘えることにするか。
「帰ってセシリアと話そう」
俺は決心して帰路に着いた。




