元部下たちに相談してみた
セシリアの本気を前に圧倒的な敗北をしてから数日後。
俺は朝早くから頼りになる元部下たちを酒場に招集していた。
「これより第一回、新婚対策会議を開催する」
「うぇーいっす」
「……おー」
「わーい」
それぞれが注文したドリンクの入ったジョッキを片手に持ち乾杯する。
なお、俺の都合で急に集まってもらったため、食事代は全て俺持ちだ。
もちろん、自分で決めた小遣いから出している。
「さて、俺は先日セシリアの本気を目にして自信を喪失したわけだが……どうすれば良いだろうか?」
乾杯したところで早速本題に入った。
「いや、それは自分で考えるべきじゃないすか。まだ新婚生活が始まってから、そんなに経ってないっすよね」
「だからこそ焦っている」
デューク の言い分は尤もだが、俺はこのままセシリアに甘え続ける新婚生活は送りたくない。
支え合う関係になると誓ったんだ。
足を引っ張るわけにはいかない。
「焦って何も考えられなくなってるんすかねー?」
「思考がー」
「……停止」
「仲良く連携してんじゃねーよ」
長い付き合いだからこそ、打ち合わせもなくこういうことをやってくる。
普段なら相変わらず仲良いな……と和むところ。
しかし、今日は事情が違う。
「うわぁ……顔がマジっすよ。目が血走ってるっす」
「余裕がー」
「……皆無」
「ぐっ……」
確かに焦りすぎて冗談を流せないのは問題だ。
ここは深呼吸して落ち着こう。
「ふー……」
「そうっす。落ち着かないとダメっすよ。こんなことで熱くなっていたら、セシリアさんから説教っす」
「……正座」
「いつもの光景だねー」
「まあ、暴走し過ぎたらその展開もありそうだな。……つまり、焦らず暴走もするなってことだろ?」
きっと元部下たちは俺で遊ぶふりをしながら、忠告をしているんだろう。
俺も良い家族を持ったよな……と少し涙ぐみそうになったところで。
「なったらなったで慰め会を開くんで安心するっすよ」
「……同意」
「その時も隊長の奢りねー」
「やっぱりお前ら通常運転だな……」
ちょっとだけ感動しかけた俺を殴りたい。
「飯と飲み物代になるくらいの案や助言はないのか?」
このままだと食べて飲んで俺をいじるだけの会に終わりそう。
不安な空気を感じた俺の声かけに真っ先に反応したのはデュークだった。
「んー……そうっすねぇ。隊長がセシリアさんよりも優れているところで勝負すれば良いんじゃないすか。家事っていうセシリアさんの得意分野で勝つのは難しいっすよ」
やはり、こういう時に1番頼りになるのはデュークだな。
セシリアと付き合う前から色々と相談に乗ってくれたり、裏でフォローしてくれたりと世話になっている。
「家事以外の面で役に立てってことだな」
「そうっす。隊長はセシリアさんより圧倒的に強いんすから、そこで頑張るんすよ」
「ん?」
そりゃあ、戦ったら俺が勝つだろう。
それをどう新婚生活で活かせというのか。
「うわー、隊長が暴力夫になろうとしてるー」
「おい、こら」
誰が暴力夫だ。
そんなことには絶対にならないと弁明しようとしたところでハピネスの冷えた視線が突き刺さる。
これはいつぞやの……。
「……最低」
「いや、待て」
「……鬼畜」
「シークが勝手に」
「……外道」
「弁明させ……」
「……下衆!」
「昔より増えてんじゃねぇか!」
勝手な想像でここまで言われる筋合いはない。
なお、デュークとシークはこの流れが初見のためか爆笑している。
ダメだ、流れを変えねば。
「もっと他に意見はないのか?」
俺の強みは腕っぷしだけなのか。
長い付き合いの元部下三人なら、もっと案を出せるだろう。
「……挙手」
ここでハピネスが手を挙げた。
にやにやしていないので悪ふざけではなさそう。
これは期待が持てる。
どんな意見が出るのかと発言を待っていたら……無言で厨二ポーズを決め始めた。
「……依頼、迅速、完璧!」
ハピネスはポーズを決めながら、黒雷の魔剣士の台詞を再現していく。
「おー、似てるっす似てるっす」
「ハピ姉すごーい」
「確かに良く再現してるなー……じゃねぇよ!」
二人につられて拍手したけどそういうことではない。
厨二を新婚生活にどう活かせというのか。
「……圧勝」
「おい、論点ずれてるぞ!」
セシリアに勝てれば良いって話じゃない。
俺は新婚生活でセシリアの役に立ちたいんだよ!
「暴走しても活躍したら、いじけてる隊長をセシリアさん、癒してくれそうっすけどね」
「……同意」
「ハピネス、この案はありかもしれないっすよ」
「……採用?」
「採用しないぞ。厨二で新婚生活は却下!」
「何でー?」
「隠された力は必要な時にのみ使う方が格好良いからだ」
ポーズを決めて宣言すると三人から可哀想なものを見るような目で見られた。
そっちからこの話題を振ってきたのではないのか。
……まあ、慣れているのでダメージはない。
「はいはーい。次は僕ー」
空気を壊すよう形でシークが元気よく挙手をした。
こういう時にシークの無邪気さがありがたく感じるんだよな。
さあ、今度こそ打開策を……。
「ここに僕が研究に研究を重ねて調合した麻痺眠り薬がー」
「没収ぅぅぅぅ!」
懐から取り出した小袋を容赦なくぶんどる。
何を調合しているんだこいつは。
「お前はこれを使って何をしろと!?」
「強い相手は弱らせるに限るんだよー?」
「発想からしておかしい!」
支え合う相手の足を引っ張ってどうする。
新婚生活早々に奥さんへ薬を盛るとかありえないだろう。
「そうでもしないと隊長じゃあセシリアさんには勝てないかもしれないっすね」
「……最強」
「お前らまでなんでそっち側なの!?」
弟分の危険な発想を止めろよ。
「いや、隙のないセシリアさんの隙を作るっていう発想は悪くないっすよ」
「……妙案」
「悪いわ!」
弱体化させた後に俺はできるアピールしてどうする。
大事なのは何事もない日常の中でどう役に立てるかなんだよ。
「なら、このー」
「お前は怪しげな瓶を取り出すのを止めろ!」
シークが懐から取り出した瓶を取り上げた。
説明をされなくてもわかる。
瓶の中に入った液体の色味からして嫌な予感しかしない。
その後、会議は夕暮れまで続いたが。
「隊長得意の強化で先回りするっす!」
「常に人外でいろと!?」
「……魔剣士、生活」
「毎日、羞恥で夜悶えることになるわ」
「これは僕のとっておきのー」
「お前は一回懐に入ってる物を全部出せ」
こんな感じで採用できる案は出なかった。
そして、俺が出した結論はというと。
「……お前ら、真面目に相談乗る気ないな?」
「やっと気付いたっすか」
「この二人を見ればな」
「ハピネスとシークは飽きて飲み食いに集中していたっすからね」
こいつら、途中から好き勝手に注文して飲み食いに集中していたからな。
まあ、他にも違和感はあったが。
「何よりもデュークから的確な助言が出てこなかった時点でおかしい。セシリアと付き合う前は色々と手を貸してくれていただろ」
ここにきて力押しで行けとか脳筋なことばかり言うわけがないんだよ。
「……まあ、頼りにしてくれるのは良いんすけど。今回は早すぎるんすよ」
「早すぎる?」
「言ったじゃないっすか。結婚してからまだそんなに経っていないって。それで俺たちに相談するのは違うと思うんすよね」
「……同意」
「どういー」
飲み会を中断した二人からも手が上がった。
デュークの言い分に賛成らしい。
そうか……早いか。
「セシリアさんの能力が高いことなんて結婚する前からわかっていたことじゃないっすか。何を今更焦ってるんすか」
「それはそうだが……」
「ここに俺ら集めて会議するよりもやることがあると思うんすよ」
デューク の鋭い指摘が突き刺さった。




