応援してみた
「うーむ、気になる……」
あれから数日が経ち、俺はギルドへと向かっていた。
依頼を受けに行くのは数日ぶりだ。
何故かというと仕事を休みにしてセシリアと一緒にのんびり過ごしていたから。
セシリアと結婚してソレイユをシエラさんに預けてようやく二人きりの時間が作れたってことで休日にしたんだ。
今日は久しぶりの依頼なんだけど。
「あの二人はあれからどうなったのだろうか」
詮索しすぎるのは良くないが、手を貸した者として上手くいっているかどうかくらいは知りたい。
「これは決して新婚で幸せな毎日を送っていますよと自慢をしに行くわけじゃないんだ。言葉に気をつけないとダメだぞ、俺」
絶対に自慢はしたらダメだ。
「朝からセシリアと一緒にいられるのだけで幸せなんだけど!」
「おー、そうか」
ギルドに着いたらシエラさんがちょうど裏方の仕事をしており、クレイマンが空いていたので待たせてもらうことにした。
クレイマンになら聞いてもらっても良いよな……惚気話。
「俺が起きたらほぼ朝食の準備ができてるんだ。でも、完成はしてないんだよ。ほぼ、完成なんだよ」
「ほー」
「セシリアは俺の作業も少しだけ残しておいてくれててさ。二人で協力して生活していくってことを考えてくれているんだろうなって」
「ふんふん」
「セシリアに甘えすぎず、俺からセシリアを支える場面も作らないといけないよな」
「そうだな」
「……俺の話聞いてる?」
頬杖をつきながら二つ返事を繰り返しているだけ。
こんな態度では疑いたくもなる。
まあ、惚気話を仕掛けているのはこちらなので怒るとかはないのだが。
「もちろん聞いてるさ。お前は嫁自慢ができて俺は副ギルドマスターとして体裁を保てる。双方に益があるからな」
「おい、俺をサボりの理由に使うな」
俺までソフィアさんに怒られるだろ。
「……まだソフィアが新人教育に手間取ってるらしくてよー。構ってもらえねーんだよ、こっちは」
「いや、それは仕事だし仕方なくね?」
新人教育ってミラーのことだよな。
敵国の勇者の人格矯正って新人教育に入るんだか……。
「城勤めは大変だろうよ」
「こればっかりは仕方ない……とはいえ寂しいもんは寂しいんだわ」
「それと仕事をサボることは関係なくね」
そういう時こそシャキッとしろよ。
「もちろんやることはやってるからな。でもよ、こんな姿で仕事をしていたら、ソフィアがやってきて俺を諭してくれるんじゃないかって思っちまうんだよ……」
ふっ、と小さく笑みを浮かべ儚げな表情でギルドの入り口に視線を移すクレイマン。
いや、そんな顔をされてもさ。
「絵になってないからな。サボりを美化するのやめろや」
「お前には俺の気持ちはわからんさ……」
「だから、その顔と雰囲気出すのやめろって」
なんか腹立つんだけど。
……しかし、クレイマンもこんなことを言って良いのだろうか。
俺の場合だと調子に乗った発言をすると大抵良い目に合わない。
自分に与えられた仕事はしているわけだし……どうなるんだ。
「うっ!?」
「うん?」
クレイマンの顔が強張ったので振り向いて入り口を見る。
そこにはメイド服に身を包んだソフィアさんの姿が。
やっぱりこうなるわけね。
空気を読んで隅に避けると俺がいた位置にソフィアさんが来た。
「ソ、ソフィア……今日はどうしたんだ。弁当は忘れてねーぞ」
「知っています。それよりも大事なものを忘れてしまったみたいなので様子を見に来ました」
それだけ伝えるとソフィアさんは俺の隣に来て直立不動に。
「お、おいソフィア……」
「あらかじめギルドマスターに許可を取ってありますのでお気になさらず。業務を再開してください」
いや、気にしないのは無理だろうに。
思っていても文句を言えないのは二人の関係性が絡んでいるのか。
ソフィアさんを横目で気にしながら仕事を始めた。
かなり気にしているけど、これは夫婦の問題だからな。
助け舟はなしの方向で行こう。
「今日はヨウキさんですね。依頼を受けにきたんですか?」
「シエラさん」
お目当てのシエラさんに会うことができた。
裏方の仕事が終わったらしい。
「まあ、そんな感じです」
「ありがとうございます。受付は……副ギルドマスターが使用中ですね。別の受付で対応します」
俺を案内していくつかの依頼を勧めてくるシエラさんの表情は心なしか晴れやかだ。
ソレイユと進展があったのか。
「副ギルドマスターが元気なさそうだったので奥様に相談してみたのですが、正解でしたね」
「シエラさんの仕業か」
一瞬、クレイマンの視線がシエラさんに向いたが、ソフィアさんが目を細めるとすぐに業務に戻った。
嫁の気配に敏感すぎる。
「はい。奥様もお忙しいことは知っていたのですが副ギルドマスターのためにと思い、連絡を取ってみたんです。そしたら調整してくれると」
「クレイマンの反応を見るに知らされていなかったんだろうな」
気持ちの整理がまだできていないように見える。
しかし、作業の手は止まっていない。
さすがだな、副ギルドマスター。
「今回のみの特別な処置であとは奥様が話し合ってどうにかするとのことです」
「どうにかするって……長期入院的な?」
どうにかって拳を使うわけではないよね。
「そうなってしまうとギルドが大変なので……」
「手は出さないようにってお願いしたと」
「はい」
離脱されたら困るもんな。
適度な鞭と飴を与える感じになりそう。
クレイマンはもう大丈夫そうだし、本題に入ろうか。
「ところで蒼炎の鋼腕について聞きたいんだけど」
周りに聞こえないように小声で話す。
変な噂を立てられたらまずい。
シエラさんも手を添えて小声で対応してきた。
これが相手の空気を瞬時に読む受付嬢の技術か。
「特に問題ありませんよ。ただ、蒼炎の鋼腕さん宛に手紙が届きまして」
「手紙?」
「差出人も内容も私は知らないんですけど。読んだ後、蒼炎の鋼腕さんは頭を抱えていました」
それって実家からの手紙だったんじゃ……。
でも、蒼炎の鋼腕への手紙だよな。
ソレイユって家族に正体をばらしていなかったはず。
「シエラさん。今から蒼炎の鋼腕に会いたいんだけど。家を訪ねても大丈夫かな」
「構いませんよ。声をかければ蒼炎の鋼腕さんも出てくるかと」
「ありがとうございます。依頼はまた後で受けにくるんで」
急いでギルドを出ようとしたところで足を止める。
目的を半分忘れるところだった。
シエラさんのことも聞かないと。
「シエラさんはどうかな」
「どうとは?」
「蒼炎の鋼腕がほら……あれあれ」
直接言葉で聞くのは……と思い小指を立てる。
これで俺が何を聞きたいか伝わるはず。
さて、シエラさんの反応は。
「正直、頑張ってみようかなって思ってるんですよ」
「そ、そうなの?」
シエラさんは婚活本気勢だ。
仮カップルの関係で満足するとは思えない。
「はい。過ごして行く内に彼の誠実さや丁寧な物腰に惹かれてしまったんです。こうなってしまうともう……頑張るしかないなって」
シエラさんの目が獲物を狙う狩人の目になってる。
受付で見せる笑顔はどこへ行ってしまったのか。
「責任感も強そうですし……ね?」
「責任感……あっ!?」
そういえばそんな話でソレイユと盛り上がったような。
大きな声で大事だよとか言ったわ。
「私も副ギルドマスターのような幸せを掴んでみせるんです……」
張り合う対象はクレイマンらしい。
あそこの夫婦は確かにラブラブだけど特殊な部類に入ると思うんだが。
俺も人のこと言えないけど。
「それじゃあ、頑張ってください……」
適度な応援の言葉を送り、俺はギルドを出た。
「シエラさん、本気になっちゃってるよ……」
ソレイユが良い男過ぎたんだろうね。
仮面を被っても隠し切れないものがあったようだ。
しかし、手紙の内容って何かね。
蒼炎の鋼腕宛っていうのが気になる。
「取り敢えず、目立たないように行動しますか」
まだまだ周囲の目が厳しいからな。
人目を気にしながら移動してシエラさんの家へと着いたが……問題発生。
「どうやって家に入ろう……」
シエラさんの家にソレイユがいるのは内緒の話。
ここで俺が呼びかけなんてできるわけがない。
ふむ……よし。
「ギルドに所属しているヨウキだ。家主のシエラさんの許可は貰っている。開けてくれ」
必殺、依頼の雰囲気を醸し出す作戦。
シエラさんの許可を貰っていることを言えば周りも気にしないはず。
少し待つと扉が開いたので失礼すると言い、素早く家へ入った。
「よう、元気か?」
「……まあ、回復はしてきましたね」
「本当か?」
杖をついて立つソレイユの表情は決して良いとは言えない。
体調というよりも精神面の問題だな。
立ち話も良くないので家の中へと入り、事情を聞くことに。
前置きはなく直球で行こうか。
「……手紙が届いたっていうのを聞いたよ。何があった」
「シエラさんから聞きましたか」
「ああ。その顔を見るにあまり良い内容ではなかったみたいだな。何があったか……聞いても良いか?」
ソレイユは俺たちにのため、文字通り身体を張ってくれたんだ。
手助けできるならしてやりたい。
「そうですね。まず、弟が次期領主になることが決まりました」
「さらっと言ってるけどそれは大丈夫なのか」
そういう継承者問題って簡単に話がつくものではないのでは?
「以前にも説明した通り、僕の実績や素行を考えたら弟が次期領主になることに何ら問題はありません。性格や能力が欠けているということもないですし、受け入れられるでしょう」
「そうか……」
やはり、次期領主という肩書きがなくなったことにショックを受けているか。
自分で想像していたとはいえ、こうして正式に伝えられるとな。
「そこは予想していたので受け入れられたんですよ」
「うん?」
「問題は追伸として書かれていた文ですよ……なお、領地に問題が起きた場合はお前が懇意にしている蒼炎の鋼腕に依頼する。家族も会うことを楽しみにしているので断らないように伝えてくれ……と」
「家族全員怒ってんじゃね?」
どうやって正体を知ったかは置いておいて、蒼炎の鋼腕として顔を出せって。
中々、厳しいことを言うよな。
「……その時はヨウキに見習って蒼炎の鋼腕全開で依頼を受けますよ」
「依頼はしっかりこなすんだぞ」
「もちろんですよ。まあ、手紙の内容からして急に呼び出しがかかるわけでもなさそうなので、今はシエラさんの厚意に甘えて療養させてもらいますよ」
言えない、そのシエラさんに本気で狙われてるぞなんて。
「そ、そうか。……手伝えることがあったら頼ってくれよ。必ず力になるからな!」
「そこまで気を遣わなくても。ああ、まさか怪我のことを気にして……?」
それもあるけど、それだけじゃねぇよ!
やはり、詰(詰め)が甘いソレイユはシエラさんのことは気付いてないらしい。
「ヨウキは一旦セシリアさんとの生活を大事にするべきです。僕のことは気にしなくて良いので」
「いや、気にするわ」
気にするなって言う方が無理だよ。
「本当に大丈夫ですから。シエラさんのおかげで身体も大分楽になってきていますし」
おそらく、治ってからが本番だろう。
婚活本気勢のシエラさんによる、ソレイユ攻略が始まるに違いない。
もう俺にかけられる言葉はこれしかない。
「……頑張れ」
「……はい、頑張って治しますよ」
「うん」
あとは二人の問題だな。
セシリアにはそう報告しておこう。




