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相談してみた

「セシリア……」



夕暮れで茜色に染まった空の下。

どこまでも広がるような草原に俺とセシリアは立っている。



「これ……受け取ってくれるかな……?」



俺は上着のポケットから正方形の小さな箱を取り出し、蓋を開ける。

中にはシンプルなダイヤの指輪が入っていた。



「ヨウキさん……これって……!?」



セシリアが驚愕と喜びが入り混じった表情をしている。

俺は震えた声で自分の想いを口にする。



「お、俺と結婚してほしい」


中々言葉に出来なかったが、なんとか口から出すことが出来たプロポーズ。

セシリアは嬉しそうな表情をして俺に抱き着いて来る。



「……いいですよ」



耳に囁かれたその言葉を俺は一生忘れないだろう。

ついにゴールインすることが出来た。

幸せで胸が張り裂けそうだ。

良い返事を貰えて、有頂天になっているとセシリアの顔がいつの間にか真正面にあることに気づいた。



「……キス、しませんか?」



セシリアが顔を赤らめ、恥ずかしそうに顔を背ける。一瞬俺の脳の機能が停止したような錯覚に陥る。

俺が固まっていると、セシリアが目をつぶり顔を上に向け出した。



前世から今日までキスなんてしたことがない俺は多少混乱したが、すぐに立ち直り了承する。

セシリアの背中に腕を回し軽く抱きしめ、唇を近づける。

まさか好きになった子とキス出来るなんてまるでーー夢みたいだ。





「……あれ?」



目を開けるとセシリアはおらず見慣れた天井が見える。

体は仰向けになっていてふかふかなベッドの感触が伝わり、周りを見渡すとこれまた見慣れた光景だ。



乱雑に机の上に置かれた荷物に椅子。

部屋の隅にはガーゴイルのガイ、バージョンミロのビーナスがいる。

……以上のことを分析するとさっきまで体験したことは全部――



「夢かよぉぉぉぉぉぉ!?」



俺は転生して今まで生きてきた中で最大級の絶望感を味わいベッドの上を転がる。

そうだ、俺は昨日セリアさんに半月間セシリアと会うこと禁止令を喰らったばかりだ。



あんなことが出来るわけない。

そもそも付き合ってもいないのに何で急にプロポーズなんだよ、話がぶっ飛び過ぎだろ!



「なんでこんな幸せだけどタイミング的には不幸せな夢を見てしまったんだ……?」



セシリアに半月も会えないのに初日からいきなりこんな夢を都合よく見るわけがない。

俺はまったく冷静になっていない頭で思考する。

そして、一つの答えにたどり着いた。



「ガーイィィィィ!」



俺は犯人であろうガイの体を掴み揺さぶる。

寝たふりをしたって俺は騙されんぞ。



「……む、何だ小僧五月蝿いぞ。少しは静かに……ってどうした!?」



「五月蝿いとはなんだこらぁぁ! お前俺に《ナイトメア・スリープ》かけただろお!?」



ガイは困惑した表情をしているが、惚けているだけだろう、絶対にそうだ。



「ええぃ、落ち着け! 一体何が……」



「しらばっくれんなよ。こんなタイミングであんな夢見るわけないだろ! お前が絶対嫌がらせであんな夢見せたんだろ」



「は!? 何を言っている。我輩は何もしていな……」



「ちくしょう。嫌がらせしやがって! お返しに変な姿にしてやらあぁぁぁ!」



「いい加減にしろぉぉぉぉ!」



俺はガイをいつもの土魔法で姿を変えてやった。

今回は適当に作ったので、十人が見たら十人全員が駄作だと言えるようなものだ。

それから十分後。冷静になった俺はガイの話を聞き、とりあえず反省している。



「……何か言うことはあるか?」



「昨日とても悲しいことがあったんだ。だから、つい疑ってしまった。とりあえず反省はしている」



「何故小僧の身勝手な理由で我輩が疑われてあまつさえ、姿形まで変えられなければならんのだ……」



やれやれと首を振るガイ。冷静になった今なら確かにガイに当たるのは良くなかったなと思う。



「悪かったって。……昨日セシリアを怒らせるようなことしてさ。許しては貰ったんだけど、ちょっとな……」



セリアさんにセシリアと半月会っちゃ駄目だと宣告されたし、しっかりした態度の意味がイマイチ分からん。



「……我輩は人間の色恋については興味がないからな。そういう相談には乗れんぞ」



「……ロリコンのくせに」



「おい、小僧今なんと言った? またろりこんと言ったな」



おっかない悪魔面なくせにティールちゃんみたいな少女に洗脳に近いことをしているんだ。

普段のティールちゃんは知的な文学少女なのに、ガイの話になるとキャラが崩壊するのだからそうに決まっている。

たぶん、いずれティールちゃんに手を出すんじゃないかとも俺は思っているしな。



「何度も言っているであろう小僧! 我輩はろりこんとやらではない、あの娘には恩があったから……」



「あー分かった、分かった。話が脱線しているから戻そうぜ」



俺が余計な一言を言ったせいで、話が変な方向に行きそうになったので修正する。

今は俺がどういう行動に出れば良いかなんだよな。



「……ふん、まあいい。だが先程言った通り我輩に聞いても何も知らんぞ」



今までずっと遺跡の中や村の祠で寝てばかりだったガイに恋愛相談なんてしても無駄か。

しかしどうしようか。ここは成功者のアドバイスを聞きに行ってみよう。

俺は知り合いで既婚者である人物がいるギルドに向かった。





「あん? そんなときはあれだ。黙って蹴られて殴られろ。耐えれば看病、ひざ枕と天国がたくさん待っているからな」



「クレイマンに聞きにきた俺が馬鹿だったわ」



一応既婚者でラブラブな結婚生活をおくっているクレイマンなら何か良いアドバイスをくれると思っていたが、忘れていた。

クレイマンとソフィアさんが普通の夫婦じゃないということを。



「はぁ? こっちは勤務中に面倒な恋愛相談なんかに乗ってやってんの……ったく何が悪いってんだ?」



「参考にならないんだよ! そんな愛し愛され方しているのクレイマンとソフィアさんぐらいだわ!」



あぁ、何故俺の周りには変人が多いんだろう。

唯一の常識人のセシリアがいないからきつい。

いたとしても恋愛相談はしないけど。

片思いしている相手に恋愛相談なんて考えられないし。



「何だが知らんがもう用がねぇのか? 別に用が無くてもいていいぞ。仕事しなくて済むしな」



「自堕落なのも大概にしろよ。……しかしどうするかな、他に頼れるのは……」


俺が必死に誰かいないか考えていると、いきなり後ろから肩を叩かれる。

誰かと思い振り向くと変装したレイヴンが立っていた。



「あぁ、レイヴンか。今日は休みなのか?」



「……ああ、それで今日こそ買い物に行こうと思ってな」


そういえばこの前約束したな。

律儀に約束を守るためにギルドまで来てくれるなんて。

……そうだ!



「なあ、相談したいことがあるんだけどさ、いいかな?」



「……ヨウキは俺の相談に乗ってくれたからな。別に良いぞ」



レイヴンも常識人っぽいし、少し前までは恋愛に疎かったけど、ハピネスに現在片思い中だから割と良い意見をくれるかもしれない。



「じゃあ、場所を変えてもいいかな。俺が借りてる宿にでも」



「……分かった」



そうして納得してくれたレイヴンを連れて俺は宿に戻った。




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― 新着の感想 ―
[一言] むしろ片思いの相手に恋愛相談した方が色々と進む気がしてきたなぁ。 なんだろう、甘酸っぺぇ・・・
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