子どもを元気づけてみた
孤児院の子どもたちの元気がないのはセシリアが来ないから。
ダバテ神父の考えはきっと正しい。
何回かセシリアと孤児院に行ったけど、みんなセシリアに懐いたし。
来なくなったら寂しくもなる。
ここ最近、結婚式やら新生活の準備やらでばたばたしていたからな。
治療院の仕事も含めて忙しかったのだろう。
……まあ、それも含めて俺は原因の中心みたいな存在だ。
行ったら袋叩きに合うのではないか。
ちょっと不安であるが一度荷物運びを引き受けた以上、今更行くの辞めますなんて言えるわけもなく。
ダバテ神父と孤児院へ向かった……が。
「聖母様と結婚した人だー」
「聖母様何処ー」
「聖母様と遊びたーい」
「おわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
予想通り俺は子どもたちに囲まれた。
荷物を運び入れた途端にこれだ。
当然だがセシリア関連の質問が多い。
ただ囲まれているだけでなく腕やら足やら腰やらにしがみつかれているので逃げること不可能だ。
「今度、今度一緒に来るから!」
「今度っていつー?」
「今遊びたいのー」
「本読んでほしー」
「聖母様ー」
「だぁぁぁぁぁぁぁ!?」
説得しても効果なしと来た。
力づくで振り払うわけにもいかんしな。
ソレイユの受け入れ先が見つかっていないから、戻らないといけないんだが。
どうしたものかと困っていると、小さな救世主が現れた。
その救世主は子どもたちの背中を軽く叩いて、避けるように指差して誘導。
結果、助けてくれた子ども……いつも俺に引っ付いていた女の子が残った。
「た、助かったよ」
片手を挙げお礼を言うと女の子は頬を膨らませて小走りで俺から離れていった……うん?
何故だろう、お礼の言い方が不味かったのか。
考えていたら、後ろからダバテ神父が声をかけてきた。
「あの子はヨウキさんのことを気に入っていましたからね。結婚したと聞いてから、少し拗ねてしまっているのですよ」
「拗ねてる……?」
「子どもとはいえ女の子ですから。ですが、セシリア様にお世話になっているのはあの子も同じです。やり場のない気持ちを今日、偶々来たヨウキさんにぶつけているのでしょう」
俺が結婚しても悲しんだり残念に想う異性はいないと思っていたが。
ここに一人だけいたんだなぁ。
「子どものやることですし、あの子もヨウキさんが結婚したからといって嫌いになったわけではないですから。悪く思わないでくれませんか。きっと時間が解決してくれるでしょう」
「時間が解決ね」
確かに俺が孤児院に来る機会は滅多にない。
顔を合わせないでいる内に以前のような態度に戻る可能性はある。
しかし、それは今拗ねているあの子を放置するということだ。
先程、あの子は俺が子どもたちに囲まれていた時に助けてくれた。
時間が解決することを祈って無視する選択はない。
「ふっ、俺は恩義を忘れない男。我がもう一つの顔……それは黒雷の魔剣士!」
俺は小走りで去っていった女の子を全力で追いかけた。
木陰から様子を伺っていた女の子を両手で持ち上げてあっさりと確保。
俺が走ってきてびくっ、と反応して硬直してしまったからな。
逃げる暇がなかったようだ。
「依頼を迅速かつ完璧にこなすこの俺の足から逃げられるとでも?」
「むぅ……」
相変わらず頬は膨れたままである。
さて、いつも俺を選んでくれていたこの子をどう説得するかだが……。
「まあ、とりあえず」
俺は女の子を俺の頭の上に乗せた。
ガイと一緒に孤児院を訪れた時に決まった、この子の特等席だ。
他にも子どもたちが俺に乗りまくっていつの間にか決まっただけなんだけどね。
「悪いけど俺の隣はセシリアで埋まった。そこは納得してくれ」
はっきりと言葉にしたところで女の子はべしべしと頭を叩き始めた。
もちろん、本気でではない。
納得なんて簡単にできるかという意思表示だろう。
「俺とセシリアの生活はまだ始まったばかりでな。色々と大変なんだ。いつ頃落ち着くのか分からないって感じなんだ」
もしここにセシリアがいたら、主にヨウキさんが原因なのですが、なんて言うんだろうな。
「俺の頭の上は君の特等席だ。いつまでなんて具体的な期限は言わないぞ」
頭の上くらいなら、セシリアも許してくれるだろう。
これで満足してくれると思ったのだが、頭を叩く回数が増えた。
しかし、叩く力は非常に弱く女の子はものすごく嬉しそうな表情をしていたらしい。
俺は表情が見えなかったけどな、頭の上にいたんだし。
一通り走り回ったら満足してくれたようで、最後に服をぎゅっと力強く握ってから孤児院へ入っていった。
「ふっ、これで解決だな」
「そのようですね。これであの子も元気になるでしょう」
「今度、孤児院にセシリアと一緒に来るって約束もしました。あの女の子が上手く子どもたちに話を広げてくれれば……」
「大人よりも仲間の話の方が聞くでしょう。念の為に私からも、もう少しセシリア様を待ちましょうと話します」
これで孤児院の件はもう大丈夫だな。
……ふむ、孤児院か。
「ちなみにダバテ神父。ちょっと聞きたいんだけど」
「何か?」
「孤児院の部屋って余っていたりは……」
「ちょうど商業ギルドに見習いとして入った子が出ていったのでありますが」
「重症者を置いてもらったりは……」
「……治療院への入院をお勧め致します」
「ですよね」
当たり前な問答をしてからダバテ神父と別れた。
子どもたちからは一緒にパーティーしようと駄々をこねられたけど。
「俺には待たせている人がいる。その人を悲しませたくないんだ……分かるな?」
と、言ったらみんな諦めてくれた。
セシリア効果だな。
「それにしてもダメ元で頼んだ孤児院も無理と」
こうなったら最終手段を使うしかないらしい。
できれば使いたくなかったんだが……仕方ないか。
俺が最後の望みで向かった場所は。
「クレイマン!」
冒険者ギルドである。
「お、おう……どうした。依頼か」
受付のクレイマンは俺の勢いに少し引き気味だ。
もうここしかない、最終手段ということで気合が入っているから、許してほしい。
「そうだ、依頼だ」
「あー……お前、手続きとか引っ越しやらがようやく終わったところだろ。だったら、護衛や討伐系じゃないやつの方が良さそうだな。待ってろ、今手頃な依頼書見せてやるから」
クレイマンが依頼書を選び始めたので止める。
今日、俺は依頼を受ける側ではない。
「違う。俺が依頼者だ」
「は……?」
クレイマンは訳がわからんと、手にした依頼書を持って固まる。
これが俺の最終手段だ。
「依頼内容は重症者の介護で顔を知ってはいけない。情報収集もダメ。なお、這って逃げる可能性があるためできれば拘束有りで頼む」
「治療院行けや」
ダバテ神父と同じ返しをされた。




