頼んでみた
平和に終わるわけがなかった結婚式。
セシリア登場前にたくさんの問題が発生していることを知ってしまった。
このまま問題を放置していれば式が台無しになること間違いなしだ。
ならば取る行動は一つ。
「セシリアの準備ってまだ時間かかるよな。俺が超速で動いて全部解決してくれば良くね?」
セシリアとの約束を果たすため……もあるけどさ。
俺だって何事もなく結婚式を執り行いたいんだよ。
そのためなら、帝国の勇者だろうが貴族だろうが相手してやる。
「ふっ……我が最愛のセシリアとの結婚式を阻む障害共よ。まとめてかかってくるが良い! 黒雷の魔剣士と頼れる仲間たちが迅速かつ完璧に処理してくれ……おい!?」
台詞終わりにポーズを決めようとしたら、デュークに邪魔をされた
せっかく伸ばした腕を掴んで下ろされ、不発に終わる。
これやらないと気合いが入らないんだって。
「おい、今大事なところだぞ」
邪魔されたので抗議したら、デュークは呆れ顔で反論してきた。
「大事なのはそこじゃないっす。頼れる仲間って思ってくれてるんなら、もっと全面的に頼るべきなんすよ」
「……同意」
「二人の言う通りー。そこは隊長らしくさー」
ほらほら指示出して、と煽り出す三人。
いや、指示出せって言われても。
「あのさ、隊長と部下の関係って大分前に終わってるはずだよな?」
「何を言ってるんすか。隊長は隊長っすよ。俺たちの関係は変わらないっす。こうしてここにいるのがその証っすね」
「……家族」
「みんなずっと一緒だもんねー」
「俺たちの意思はこんな感じなんで。だから、隊長。指示が欲しいっす!」
三人からの熱い視線を感じる。
ここまで言われて遠慮することはできないな。
お互いに支え合ってきた家族に頼ることにしよう。
「わかった。三人とも結婚式のために俺に協力してくれ」
「了解っす。結婚式のために三人で協力するっすよ」
「……了承」
「わかったよーん」
「うん?」
今、何か変じゃなかったか。
三人が協力してくれるのは分かったんだけど。
三人でって……俺、はぶかれてね?
「こんな時のためにエルフの皆さんに待機してもらってたんすよね。今日は特別交流会を開くっす」
「……衣装、持込」
「ハピネス姉の補助して、新技を披露するよーん」
「待て待て。お前ら何する気だ」
エルフの交流会にハピネスの歌って……余計な騒動を増やしてどうする。
「俺たち三人の仕事はお祭り騒ぎの中心を式場にさせないことなんすよ」
「……分散」
「隊長はここでイチャラブ結婚式をぞっこーう」
「誰がイチャラブ結婚式だ……って、おい。最後まで話を聞け!」
三人は揃って走り去っていった。
詳しい説明くらいしろ。
それに、お礼くらい言わせてくれ。
追いかけようにもさ……先を越されたんだよな。
イレーネさんはドレス姿でデュークの背中にしがみついてる。
何故、ドレスを着ているのに走っているデュークに追いつけるんだ……。
シークは走っている道中、フィオーラちゃんの式神に咥えられた。
式神の背にはフィオーラちゃんだけでなく、ティールちゃんとウェルディさんも一緒だ。
相変わらず、仲がよろしいことで……。
「それで。お前はこんなところで何をしているんだ」
「……ヨウキ」
気まずそうに俺に近づいてきたのはレイヴンだった。
おいおい、この流れでついていってないのかよ。
「……俺も友人の結婚式のために微力ながら力を貸したい。だが、この場を離れることは正解なのか……俺は」
「悩むな悩むな。ほら、後ろ」
俺が指差し、レイヴンが振り向く。
そこには入り口から顔だけ覗かせこちらを見ているハピネスがいた。
明らかにレイヴンを待っている顔だな、行くしか選択肢はないだろうに。
「改めてうちのハピネスをよろしくな」
軽い感じで片手をひらひらしながら言った。
この発言にそこまで深刻な意味はない。
少し後押しできればと思ってる程度だからな。
しかし、俺のちょっとした後押しに気合いが入ってしまったらしく。
「……わかった。今行くぞ、ハピネス!」
そのまま切り掛かるんじゃないかと疑ってしまいそうなくらいの気迫を見せながらハピネスに接近。
流れるような動きでお姫様抱っこ……レイヴンがするのは珍しい。
「……このまま、俺が連れていく。嫌か?」
「……歓喜」
落ちないようにか、もしくはレイヴンへのご褒美か。
腕を回してぎゅっとレイヴンの腰に抱きつくハピネス。
幸せ全開なオーラを出しながら、ハピネスを抱えたレイヴンは走り去っていった。
「あー……俺も行くかぁ」
後頭部を掻きながら、首を軽く回して式神を出すクレイマン。
この場で準備を始めるって珍しくやる気を出してるようだ。
「行くってギルドにか?」
「人手がいるっつーなら、俺ほど適任者はいねーからな。今頃、シエラ辺りが悲鳴をあげてる頃だろ」
クレイマンにはギルドが大変なことになっている光景が想像できるらしい。
でも、さっきソフィアさんとの会話でさ。
「休日出勤は嫌いなんじゃなかったか」
「お前な……今日はそうも言ってられねぇってことだよ。あれだ、察しろ、お前は。何のために残業したと思ってんだ」
「……それもそうか」
クレイマンは俺とセシリアの結婚式のために嫌いな残業も休日出勤をしてくれると。
普段、面倒が口癖のクレイマンがここまでしてくれるなんて。
「言っておくが、今度俺の仕事手伝えよ。俺が楽できるようにだぞ。俺の仕事が増えるような仕事の仕方はするなよ」
「念入りだな」
やはり、クレイマンはクレイマンだったか。
それでも自分の性分を曲げてまで協力してくれるのだから、感謝するしかない。
後日、お礼の意を込めて仕事をしよう。
「それじゃ、ソフィア。行ってくるわ」
もちろん、去り際にソフィアさんへの挨拶を忘れない。
いってらっしゃいませ、と見送るのかと思ったら……ソフィアさん、耳元で何か囁いてるな。
どんなことを言われたのか。
大量の式神を展開したクレイマンは全力疾走で去っていった。
クレイマンが走るなんて珍しい。
「ソフィアさん。何と言ったんですか」
「稀にやる気を出している姿がとても素敵だと伝えただけです」
「伝えただけって……」
「夫は単純なんですよ」
涼しい顔で言ってのけるソフィアさん。
夫の操縦はお手のもの、と。
俺が感心しているとセリアさんが含み笑いをして近づいてきた。
俺に対してではなく、ソフィアさんにだ。
「相変わらず、かわいい旦那さんねソフィア。一言伝えたらやる気を出すなんて」
「元々、やる気は出していました。最後に少しだけ背中を押しただけです」
「少しって……」
かなり効いていたように見えたけどな。
セリアさんもその辺をわかっているから、聞いたんだろうに。
「良いわねぇ。いつまでも仲が良いって。そう思わない、ヨウキくん?」
ここで俺に振るんですか、セリアさん。
「そうですね。俺もクレイマンやソフィアさんみたいにいつまでも仲の良い夫婦になりたいです」
「そうでしょ、そうでしょ。ただ、セシリアをあまり困らせないようにね。あの子も怒ると怖いから」
「それは身をもって経験しているので気をつけます……」
「あら、そうだったかしら?」
セリアさん……知っていて聞いているな。
俺で遊んでいるとしか思えない。
それとも、これは今後に向けての助言なのだろうか。
そりゃあ、極力怒らせないようにはするぞ。
「私としてはヨウキくんが時々、セシリアに叱られるくらいがちょうど良いんじゃないかって思うんだけど」
「待ってください。それはどういうことですか」
確かに今まで説教されてきたけど、それが癖になってるとかないから。
自らセシリアを困らせて説教をくらいに行く気はないぞ。
「変な意味はないのよ。ただ、あの子は真面目で気遣いができる優しい子だから……多分だけど、最初は何でもヨウキくんのお世話しちゃいそうでね」
「それは……ありえますね」
何でもセシリアがやってくれるとか……自分の存在価値を日々考えることなりそうだな。
「ソフィアはほら。旦那さんと上手い具合に意見をぶつけ合ってお互いを尊重しながら生活しているでしょ?」
「聞き分けが悪い時は実力行使をしていますね」
「意見のぶつけ合いとは?」
まあ、それはそれでクレイマンが納得しているから良いのか。
その辺は本格的に一緒に暮らし始めてからの課題になりそう。
「もちろん、二人が幸せなら私は良いの。だからヨウキくん。セシリアのこと、お願いね?」
「私からも。お嬢様と末永くよろしくお願いします」
二人が揃って頭を下げてきた。
セシリアを幼少の頃から見守ってきた二人からの言葉。
とても重く感じる……これが背負うってやつなのか。
「はい。俺はセシリアと幸せになります!」
率直に自分の思いを伝えた。
二人とも俺の答えを聞き、満足そうな笑みを浮かべている。
「本当にヨウキくんはセシリアが好きなのね。安心して任せられるわ」
「そ、そりゃあ、まあ……」
セリアさんに褒められ照れ笑いしてしまう。
今更だろと言われるかもしれないが、婚約者の母親に娘さんが好きですって断言するのは結構……恥ずかしいものだ。
「それじゃあ、私も二人の結婚式のために頑張らないといけないわね」
「えっ?」
「まだセシリアのことを諦めきれない子たちがいるみたいだから。そういう子たちの対応は私がするわ。二人の結婚式には不要だから……理解してもらわないと、ねぇ?」
急に背筋に寒気が走った。
俺に向けられたわけではないというのに……これがセリアさんの本気か。
これも今更だけど……セシリアのお母さんなんだなって再認識したな。
「奥様、お供いたします」
「あら、ソフィアは式場にいても良いのよ」
「いえ。私もお嬢様とヨウキ様のために動こうかと。それに説得するのは夫で慣れていますので」
「そうだったわね。それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
強烈な冷気を纏いながら二人は式場から出ていった。
あの二人の本気説教とか怖すぎる。
今日はもう聴覚強化は使わないようにしよう……。
「さて、残るは帝国の勇者をどうするか……って、おい!」
突如、会場内を聖なる光が満たし始めた。
こんなことができるのは一人しかいない。
「ヨウキくん……僕は」
「眩しいから。話があるならまずそれを消せ!」
「あっ、ごめん」
途端に光が収まったので、手で空を掻いて視界を確認する。
勝手に派手に光るのは禁止だろ、全く。
「で?」
「うん。僕は帝国の勇者と決着をつけてくるよ」
「あ、そう。頼むわ」
「軽すぎない!?」
我らが勇者様は返事に不満がある模様。
感謝する態度ではなかったか。
ユウガ相手とはいえ、ふざけすぎたな。
ここは謝罪して正式な感謝を……。
「ユウガ。これは信頼の証なのよ」
「信頼の証……ヨウキくんが」
待て待て、信頼の証って何だ。
勝手に美談っぽくするな。
俺の反論よりも先にミカナの説明が始まった。
「帝国の勇者の実力は本物よ。前回、敗れた以上さらに強くなってるはず。アタシたちの結婚式の時は数人がかりで倒した強敵を……こいつは軽いノリで頼むって言ってるの。きっと、ユウガなら簡単に倒すって思ってるのよ」
「ヨウキくん……」
ヨウキくん……じゃねーよ。
だが、否定はしないけどな。
今のユウガならどんなインチキ装備を纏った帝国勇者相手でも負けはしないだろう。
てか、ミカナから視線を感じる。
これはあれだ、もう一押ししろって合図だ。
こっちも旦那の操縦方法がわかっているようで。
だったら、全力で乗っかろうじゃないか。
「この前戦った時に思ったよ。これが勇者ユウガなのかって。お前は俺にとって昔は恋のライバルで……今は好敵手ってやつなんだ。帝国の勇者なんて敵じゃないだろ、早く追い返して戻ってきてくれ」
我ながらかなりくさいことを言ったと思う。
厨二スイッチ入れた方が良かっただろうか。
もう少し良い言い回しができたかもしれない。
「何でかな。初めてヨウキくんが僕のことを認めてくれた気がする。いつも失敗ばかりで空回りしちゃってた僕だけど。今回は大丈夫。友人のため、仲間のためにやるから」
ユウガの持つ聖剣から光が溢れ出した。
これは飛んでいく流れだ。
ミカナがユウガの隣にそっと近づいて腕を取った。
「ミカナ、どうして……?」
「アタシも行くわ」
「ダメだ。相手はあの帝国の勇者だよ。ミカナの身に何かあったら」
「何かあるなんてないでしょ。アタシもあの勇者に最低でも十撃は入れたいし」
一撃じゃないんだな。
そういえば、自分たちの結婚式を邪魔された時も杖で何度も殴ってたっけ。
「それでも」
「アタシとこの子で応援するわ、ユウガのこと」
ミカナは自分のお腹を愛おしそうにさすっている。
それ言うの卑怯だろうに。
ユウガもここまで言われたら断れないか。
「うん、わかった。一緒に行こう。ミカナもお腹の子も僕が守る。それに……二人が応援してくれるなら、僕はもっともっと強くなれるよ」
聖剣から出ていた光が二人を包んで球体となり、式場の窓から出ていった。
扉から出ていかなくて良かった……軽いパニックになるだろ、あれ。
「そしてほとんど誰もいなくなった……か」
結婚式なのに参列者がほとんどいないとか。
これはこれで良くない。
誰か戻ってきたり……なんて期待してたら扉が開いた。
そこにはウェディングドレスを着たセシリアの姿が。
綺麗だ、かわいい、感動した。
セシリアを褒め称える様々な感情が渦巻く中、これで良かったのかという疑問が湧いた。
ほとんど参列者のいない結婚式がセシリアに相応しいのか。
俺が相手でなければ、と一瞬考えて首を横に振った。
今の俺がするべきことはそんな思考をすることじゃない。
まずは席まで案内しないとな。
セシリアに近づいて手を差し伸べると。
「約束、守ってくれましたね」
セシリアは笑みを浮かべながら、俺の手を取った。




