帰宅してみた
レストールくんが婚約者へ手紙を書くことが決まった。
何故だろう、実は全てジェイサーさんの掌の上だったんじゃないかと思ってしまう。
今日、俺たちが依頼を受けてここに来たのは偶然だから、そんなわけがないんだけど。
今日の鍛錬は終了、つまり依頼は達成ということになる。
やはり、黒雷の魔剣士の力を以ってすれば貴族の依頼と言えど失敗することはない。
唯一、残念な話があるとしたら俺は今日で終了。
しかし、蒼炎の鋼腕は本来の指導者が戻ってくるまで、期間の延長を求められたことか。
まとめ役としては貢献したが、講師としては貢献できていなかったからな。
うん、仕方がない。
「ふっ、凹んでなどいないぞ……」
「いや、凹んでいるじゃないか黒雷の魔剣士」
二人で依頼を受けたため、達成報告も二人で行う。
必然的に蒼炎の鋼腕と二人でギルドに向かわねばならないと。
帰り道で励まされているこの状況……屈辱だ。
「おい、蒼炎の鋼腕。貴様、十日間も依頼の延長を引き受けていたが大丈夫なのか。いつまでこの国にいるつもりだ」
「俺にはやることがあると話したはずだろう。我が使命を果たすまで、故郷へは帰らんさ」
しばらく居座るつもりらしい。
おい、次期領主様がそれで良いのか。
「……そもそも待たせている人がいないっておかしくないか。レストールくんに婚約者がいたようにお前にも婚約者がいるはずでは」
「黒雷の魔剣士、事情を知っているお前がそれを聞くのか?」
「熱くなるなよ。セシリアのことではなく、もっと前から決まっていなかったのかという話だ」
事情を知らないで聞いたわけではないからな。
セシリアと婚約しようとしていたのは知ってるから、そこまで無神経では無い。
「俺も無事に帰ってくることができるかわからない旅をしていたからな。セシリアさんも似た理由で婚約者を作っていなかったのだろうよ」
「成る程。それで旅を終えて次期領主という立場なのに相手がおらず。こうして一人で他国に潜入し調査活動をしていると」
「それは挑戦状を顔面に叩きつけてきたという認識で良いでしょうか」
「おい、素が出てるぞ」
ちょっと煽りすぎたらしい、反省。
気になってる相手がいるなら、恋のキューピッドのところに連れて行くんだかな。
まずは相手を見つけるところからだ、蒼炎の鋼腕よ。
ギルドに着くとまだクレイマンは戻ってきておらず。
いつもの席にはシエラさんが座っていた。
俺たちを見つけてびくって震えたんだが……何か悪いことをしただろうか。
まあ、依頼の受注はシエラさんにやってもらったし、達成の処理もしてもらおう。
「黒雷の魔剣士と蒼炎の鋼腕。無事に依頼をこなしてきたぞ」
「……お疲れ様です。黒雷の魔剣士さん、蒼炎の鋼腕さん。えっと、依頼中に何か問題を起こしたりとかしてないですよね」
恐る恐る質問されたんだが、俺たちに限ってそんなことあるわけがない。
依頼を終えてみたら、結構良いコンビだったんじゃないかと思えたし。
「きちんと依頼達成の証拠となる書類を貰ってきた。こちらが俺、蒼炎の鋼腕への追加依頼についての書類だ。確認してくれ」
「確認させてもらいます。……確かに問題なしで二人には特別報酬を上乗せ。蒼炎の鋼腕さんには追加で十日間講師をしてほしい、と。……私の首は飛ばなそうですね、良かった」
最後のぼそっと言ってるの聞こえてますよ、シエラさん。
この人も上司がクレイマンで実はかなりの苦労人だ。
今回もクレイマンが逃げたから、俺たちの相手をしているわけで。
いつだったか、結婚相手を探しているためかクレイマンに食事会をエサに仕事を頑張らさせられていたっけか。
「さて、確認は終わったようだな。では、次の依頼を……」
紹介してもらおうとしたら、シエラさんの表情が凍りついた。
まだ依頼を受けるのかという顔だ。
…….黒雷の魔剣士と蒼炎の鋼腕と絡み、貴族からの依頼を見送った時点でシエラさんは限界だったのかもしれない。
そういえば外はもう暗くなりそうだったな。
一件しか依頼を達成していないが、今日はもう終わりにして良いかもしれん。
「いや、時には早めの休息を取ることも大事だな。次の依頼へ向けて我々は身を休めることにする。さらばだ!」
決め台詞を残して蒼炎の鋼腕の腕を引っ張る。
シエラさんの安堵した顔を見届けた俺は蒼炎の鋼腕と共にギルドを出た。
本日の仕事は終了、各自で帰宅……のはずなのだが。
「何故付いてくる、蒼炎の鋼腕よ」
「このまま解散なわけがないだろう。俺の目的のために話を聞かせてもらおうと思ってな」
家まで付いてくるつもりらしい。
おい、俺を休ませろよ。
「何を言っているのか理解できんな。貴様の目的は勇者ユウガとセシリアの婚約者である俺の調査だったはず。まさか、俺が自分自身の情報を提供すると思っているのか。黒雷の魔剣士をあまり嘗めるなよ?」
「確かに黒雷の魔剣士は厄介だ。俺が憧れた存在、その実力は充分承知している。今回の依頼も依頼者が一番、解決したかった案件を……見事、解決してみせた。そんな男が簡単に口を割るとは思えない」
「そこまでわかっているのなら、何故、付いてくる」
「素の状態で話してみないとわからないこともあるだろう」
仮面を取り、ヨウキとソレイユとして話し合いがしたいということか。
……正直、ソレイユは理詰めしてくるから苦手なんだよな。
妙に察しの良さを発揮してくることもあるし、どうにか撃退できないものか。
うん、思いついたわ。
「ふっ、どうしても付いてきたいと言うならば構わん。だが、貴様は我が家に来て後悔することになると思うぞ」
「……何だと」
「セシリアには家の合鍵を渡していてな。最近は頻繁に家へ来て夕食を作ってくれているんだ。エプロンを着て調理道具を片手に俺を迎えてくれるわけだが……今のお前にその光景が耐えられるか?」
これぞ必殺、婚約しようとしていた相手の同棲している姿を見るのは辛い作戦だ。
蒼炎の鋼腕の事情を知っている中、こんな作戦を使うのは卑怯だと思う。
だが、これは蒼炎の鋼腕へ精神的ダメージが入らないようにするための配慮でもある。
今日、セシリアが来ているかどうかはわからないが。
「俺の調査だと確かにセシリアさんは家に出入りしているみたいだな。だが、毎日ではないはず。いくら合鍵を渡しているとはいえ、家主がいなければ日を改めることもあるだろう。つまりだ、黒雷の魔剣士。俺に付いて来られたくなくて、その場で思いついた姑息な作戦を決行した。そういうわけだな」
その俺の考えを見透かすような推理、止めてくれないかな。
言ってることが大体合ってるから、言い返せない。
「沈黙は肯定、と判断させてもらうが」
「……好きにしろ」
もう、どうなっても知らん。
勝った気になってる蒼炎の鋼腕の足取りは軽い。
俺はどうにでもなれという考えに移行したので、特に変化なし。
家に帰宅すると扉には鍵がしっかりとかけられていた。
出る前にかけたんだから、当たり前だ。
家に入るとぱたぱたと誰かが駆けてくる音がして。
「ヨウキさん、お帰りなさい。今、夕食を作って……」
エプロンを着たセシリアが出迎えてくれた。
俺としてはとても嬉しいんだが、綺麗に作戦が決まった形になってしまって……蒼炎の鋼腕に申し訳ない。
「ありがとうセシリア。今日のお客さんの蒼炎の鋼腕だ。できれば三人分で頼む」
「……よろしく、お願いします。セシリアさん」
食卓に着くまでにこの空気、何とかしないとな。




