使用人の相談を受けてみた
黒雷の魔剣士がいらない子になりかけていたため、直接的に協力してほしいと声をかけてもらえたのは嬉しい。
しかし、その内容が婚約者との接し方についてとは。
俺の恋愛経験値はそこまで高くないのだが……依頼中の頼み事には答えないとな。
「ふっ、どうやら我が人脈を披露する時が来たようだ。ブライリングに住んでいる恋のキューピッドを紹介してやろう。やつに恋愛相談すればどんな悩みも即座に……」
「黒雷の魔剣士様でなければならないのです!」
ジェイサーさんの圧がすごい。
そこまで緊急を要することなのか、俺でなければならない理由があるのか。
とりあえず、顔が近いのでお互いに三歩程、距離をとって深呼吸。
ジェイサーさんが落ち着いたところで事情を聞くことに。
まずはあのレストールくんに相談にのる必要があるのかだ。
まだ会って数時間だが、彼の印象は努力家で素直。
顔立ちも悪くなく、まだ幼さが残っているものの、将来が楽しみな美少年。
性格、容姿共に問題ないように見える。
「レストールくんなら放っておいても婚約者と上手くやれそうな気がするが……どうなんだ」
「私も最初はそう思っておりました。レストール様なら何の問題もないと。ですが……」
それはレストールくんに婚約者ができた日のことだ。
ジェイサーさんはレストールくんの父親から婚約者のことを伝えるように命じられたらしい。
忙しい自分に代わり、レストールくんを幼い頃から可愛がっていたジェイサーさんの口からの方が喜ぶだろうという考えだったのだとか。
ジェイサーさんは嬉しさのあまり飛び跳ねたくなったようだが、そこは一流の使用人。
どうにか表情に出ないようにしてレストールくんに報告に行ったらしい。
自室で勉強中だったレストールくんに婚約者ができたことを伝えると。
「……そうか。ジェイサー」
「はい、レストール様」
「相手のフェリミール嬢について調べてくれ。趣味や特技に食べ物の好み。一日をどう過ごしているのか、日程表も欲しいな」
婚約者ができたと聞いて最初のやり取りが情報収集の依頼。
ジェイサーさんも予想外の反応だったらしく、返事が遅れたそうだ。
しかし、レストールくんのお願いは止まらず。
「あと、人心掌握術について書かれた本と交渉に長けた講師を手配してくれ」
「それは……必要なのでしょうか」
ジェイサーさんが更なる要求に疑問を持ち質問したところ。
「当たり前だろう。妻のことを知り、心を掴む術を身に付けなければ良き家庭を築くことはできない。身の回りをきちんと固められていない者が上に立つ資格はないからね。だから、頼むよジェイサー」
そこで話し合えるとレストールくんは勉強に戻ってしまったそうだ。
やろうとしてることはわかるが……正解かどうかと言われるとな。
「一応、レストール様のご命令ということもあり、情報をまとめた資料を作成したのですが」
「もう作成済みなのか……」
ジェイサーさんが何処から取り出したのか、書類の束を見せてきた。
あとは渡すだけの状態まで来ていると。
「本日、黒雷の魔剣士様が依頼を受け、当家に足を運んで下さったのは運命としか思えません。どうかこの書類を渡す前にレストール様と話をしてもらえないでしょうか」
「わ、わかったから頭を上げろ。依頼人に深く頭を下げさせるような真似はしたくない」
ただでさえ、今のところいらない子状態なんだからな。
必死の説得により頭を上げたジェイサーさん。
なんか涙目になってるぞ、今ので了承したって思ったのかね。
そもそも黒雷の魔剣士への思い入れが強すぎないか。
ジェイサーさんにもレストールくんにも関わった覚えがないのだが。
「確認するが初対面で合っているか?」
「はい、間違いありません。ただ、レストール様にとって黒雷の魔剣士様は特別なのですよ。あれは先日のことです。鍛錬ばかりの日々を探すレストール様を心配された旦那様と奥様が偶には息抜きをするようにと命じられまして」
そこでレストールくんの付き添いとして同行したジェイサーさん。
息抜きとして外に出ているのに騎士団の訓練している姿を見に行こうとしたり、国立図書館に行って本を読みに行こうとしたり。
やりたいことをやれば息抜きになるわけではない。
そう考えたジェイサーさんが向かった先はというと。
「劇場にて黒雷の魔剣士様と聖母様の演劇を観に行きまして。その時のレストール様の表情は今でも忘れられません。帰路に着く道中、演劇の感想をずっと話しておりました。何かレストール様の心に響いたものがあったはずなのです」
「そういうことか」
レストールくんが何を思ったのかわからない。
ジェイサーさんの勘違いという可能性もある。
相手は貴族だ、ちょっとした無礼な行為が大問題になるだろう。
結婚式を間近にしてセシリアに迷惑をかけるようなことはあってはならない。
だが、ここで何もせずに帰るという選択はありえん。
「……俺にできることをやろう。その書類を貸してくれ。悪いようにはしない」
ジェイサーさんから書類を受け取り、鍛錬している二人の元へ戻った。
休憩中らしく、二人とも剣を納めて息を整えている。
「ジェイサー、いつの間にか黒雷の魔剣士さんといなくなっていたから驚いたぞ」
「はい。依頼について追加事項がございまして」
「追加事項……僕は何も聞いていないが」
「ああ、悪い話じゃない。ところで休憩は始めたばかりだろうか。再開するなら今度は俺と模擬戦をしようと思うのだが……どうだろうか」
「黒雷の魔剣士さんとですか。是非、お願いします!」
嬉しそうに返事する辺り、俺へ好感を持っていそうだ。
ジェイサーさんの勘は正しかったということか。
「黒雷の魔剣士、席を外していたようだが何かあったのか?」
唐突な模擬戦の申し出、ジェイサーさんと二人で抜け出したこともあってか。
蒼炎の鋼腕が事情説明を求めてきた。
「ああ……追加依頼だ。俺指名のな」
「大丈夫なのか。貴族と問題を起こせば……」
「わかっているさ。失敗は許されない。今の自分の状況を考えれば……理由をつけて断るという選択もあったろうな」
「だったらここは俺に任せるべきじゃないか。貴族絡みのことなら俺の方が」
「ふっ、これは俺の依頼だからな。そこで黙って見ていろ。黒雷の魔剣士のやり方を……教えてやる」
強引に蒼炎の鋼腕を隅に追いやり、準備万端のレストールくんへ目を向ける。
「待たせたな。では、始めよう」
レストールくんが剣を抜き構えたので、俺は拳を軽く握りいつもの魔法を発動。
「えっと……剣ではないのですか」
「ああ、特別に真の俺の戦闘スタイルで相手をしよう。一瞬たりとも気を抜かないように。初手は譲るから、何処からでも打ち込んでくると良い」
「わかりました……行きます!」
真正面からフェイントを入れながら突っ込んできた。
そのまま切り掛かってきたので、容赦なく剣の腹に裏拳を叩き込んだ。
剣を手放してしまったレストールくんの首にラリアットをお見舞いして地面に優しく叩きつけて終了と。
一連の動作をかなりの速さで行ったからな。
レストールくんは地面に仰向けになったままで何が起こったかわからないといった表情。
目をパチパチさせて口は半開きと。
まあ、こうなるわな。
「レ……レストール様ー!」
ジェイサーさんの叫び声が響き渡る。
怪我はさせてないからそこまで動揺しなくても良いだろうに。
念のために治癒魔法かけておこう。
「か、完敗ですね。何をされたのかわかりませんでした。握っていたはずの剣が無くなったと思ったら、胸と背中に衝撃が走って一瞬、息ができなく……」
「これが黒雷の魔剣士の強さだ」
「黒雷の魔剣士の強さ、身を以って体験することができて光栄です」
「そうか。まあ、ここまでの強さを持つ俺だが……苦戦した相手もいる」
「黒雷の魔剣士さんがですか」
「ああ。セシリアだ」
「えっ?」
純粋な強さや戦略では成功しないものがあることを教えてやろうじゃないか。




