俺以外の厨二の話を聞いてみた
「何故お前がここにいる!?」
俺は蒼炎の鋼腕、ソレイユに声をかけた。
てっきり俺の知り合いというからガイだと思っていたのに。
セシリアの勘違い事件の解決と共に封印したものだと思っていたんだが……いや、ユウガの結婚式の時にいたわ。
それでも隣国の次期領主の肩書きを持っている人間がいるとは思わないって。
「俺がミネルバで依頼を受けてはいけない理由があるのか。困ってる人の声に応えるのが蒼炎の鋼腕の信条だからな。黒雷の魔剣士なら……わかるんじゃないか」
黒雷の魔剣士としてそのような言葉を聞いては反論することはできない。
俺にも信条というものがある以上、相手を否定する立場にはなれん。
「それがお前の信条というのならば俺がとやかくいう筋合いはない。だが、貴様は一度この街を混乱させた実績がある。再びこの街に現れた目的を教えてもらおうか」
依頼をこなすだけなら自分の領地でやれば良い。
ミネルバに来た理由が必ずあるはずだ。
ソレイユは悪い奴ではないが野放しにするのもな。
「良いだろう。ただ、少し待ってくれ。依頼の完了報告がまだでな」
「わかった。報告ならここにいるクレイマンに……」
いつの間にか俺の受付相手がシエラさんになっている。
席を移動した覚えはないんだが。
クレイマンは何処へ行った。
「二人がお話しされている間に……ここは任せた。重要な会議があったの忘れてたわ、と言って裏口から」
逃げたんですよ、クレイマンさん。副ギルドマスターなのに……とぼやいている。
「ふっ、どうやらさすがのクレイマンでもこの俺、黒雷の魔剣士と蒼炎の鋼腕、二人を相手取るのは難しいと判断したようだ」
「副ギルドマスターが身を引き、後任を任せる程……彼女は受付担当としてかなりの能力を持っている。そういうことだな」
「クレイマンさーん。戻ってきてくださーい!」
シエラさんの心からの叫びはクレイマンに届かなかった。
ちょっとシエラさんのメンタルが厳しそうだったので、一度テーブル席に座り話すことに。
「それでお前の目的は何だ。頻繁に他国に来れるほど暇な立場じゃないだろう」
「確かに最近、出歩きすぎて父に叱責をされたばかりですね。見聞を広めるのも良いが自領に目を向けろと」
だったら、尚更ここにいる場合じゃないだろう。
また親父さんに叱責されるのではないか。
「ですが、今回は父が納得する説明をしてきたので何の問題もありませんよ」
「納得する説明?」
「はい。クラリネス王国で起きた黒雷の魔剣士と勇者ユウガの対決。その際、勇者が見せた新たな力についての調査……理由はそんなところですね」
「そういうことか。他国からしたら勇者ユウガの戦力向上は気になるところだ。調査って名目なら、親父さんも首を縦に振るか」
「ええ、他には……黒雷の魔剣士が正体を明かしたのでその身辺調査ですね」
椅子からこけそうになった。
危ない危ない、黒雷の魔剣士は話の最中に動揺してずっこけるなんてしてはならない。
ヘルメットの中で一度深呼吸して落ち着いて考えよう。
ユウガのことはわかるが俺の身辺調査ってなんだ。
まあ、黒雷の魔剣士の正体はずっと隠していたが。
「まさか、俺の内に秘めた力を狙って……」
「そういうことではありません。あのセシリア様が婚約者に選び、勇者ユウガを相手に善戦した。そんな人物の顔が割れたのですから調査対象にもなるでしょう。……情報屋たちにも随分と追いかけ回されていたようですね」
もう調べている途中みたいだな。
完全に仕事モードでミネルバに来ていると。
ギルドで依頼を受けているのは色々な人と関わることができるからか。
「ふっ、俺は覚悟を決めたからな。やましい事など何もない。調べたければ勝手に調べるが良い。この街に迷惑をかけることは許さんがな」
「一度過ちを犯しているんですから、その辺は考えて行動しますよ。もう、セシリアさんから叱られたくありませんからね」
蒼炎の鋼腕として活動していた時に二人で仲良く説教されたっけな。
ソレイユにとっては苦い思い出になっているようだ。
セシリアに叱られた数か……ぎりぎり両手で数えられるかな。
「お前が正しい道を歩むと言うならセシリアは何も言わんさ。それじゃあ、俺はこの辺で失礼しよう。黒雷の魔剣士を求める人のために動かねば」
席から立ち上がり、依頼を受けに行こうとしたら腕を掴まれた。
もう話すことはないのだが。
「待って下さい。僕の目的を話しましたよね」
「ああ。それで?」
「質問なんですが。誰かの身辺調査をする時、相手が知り合いなら歩き回って聞き込みするより……直接本人に聞いた方が効率が良いと思いませんか」
逃げようと試みたが腕を掴まれているので叶わなかった。
ソレイユに付き纏われるのは嫌だ。
こいつの詰め方苦手なんだよ。
「ええい離せ。俺は依頼を受けるんだ」
「まあまあ、ちゃんと情報提供料を支払いますから」
「金で自分の個人情報は売らん!」
騒ぎながら受付へと向かう。
そろそろシエラさんも現実を向き合えるようになっている頃だ。
さすがに依頼まではついて来ないだろうと思っていたら。
「あのー……クレイマンさんが黒雷の魔剣士、蒼炎の鋼腕でパーティー申請を受理しちゃってるんですけど」
「はぁ!?」
何やってくれてんだ、あの男。
確かにパーティー組もうとか言ったけど。
それは組む相手がガイだったらの話だ。
蒼炎の鋼腕とは組まんぞ。
「受理取り消し、受理取り消し、受理取り消し!」
「ええ……と」
「そのままで頼む」
「どっちですか……」
パーティーメンバーの主張が食い違っているため、手続きを始められない。
シエラさんも別の業務があるんだ、あまり困らせられないのだが。
「俺としては黒雷の魔剣士と一度組んでみたい。かつて憧れた相手の実力。間近で見てみたいものだが……断るということは不調なのだろうな。実に残念だ」
ふっ、と鼻で笑って挑発してきた。
仮面越しでも聞こえたぞ、分かりやすすぎる。
そんな見えすいた挑発に黒雷の魔剣士が乗るわけ……。
「良いだろう。俺の実力を見せてやる。依頼を迅速かつ完璧にこなす黒雷の魔剣士の力を見るが良い!」
ないこともなかった。
今の俺はヨウキではなく黒雷の魔剣士。
舐められたまま引き下がることなどできない。
埋められない実力差というやつをわからせてやる。
「ふっ、そうこなくてはな。では、手頃な依頼を頼む」
「ふ、二人に合う依頼ですか。少々お待ち下さい」
何枚か依頼書を確認していくシエラさん。
表情は真剣そのもの。
これが受付のプロってやつか……。
「クレイマンさんならどの依頼を薦めるんでしょう。あまり騒ぎにならなくて、簡単すぎない依頼にしないといけないんですよね……うん、これです」
一枚の依頼書がテーブルの上に置かれた。
蒼炎の鋼腕と二人で内容を確認すると。
「臨時の家庭教師……だと」
「貴族絡みの依頼ですか」
「はい。どうやら普段教えている指南役が怪我をしてしまったらしく。これを機に他の方からの指導を取り入れてご子息の視野を広げてみたいそうです」
討伐や護衛系の依頼を受けることが多く、指南役をするって依頼はあまり受けたことないんだよな。
しかも相手は貴族の坊ちゃんときた……大丈夫だろうか。
「ふっ、蒼炎の鋼腕の名を汚すことないようにしよう。行こうか、黒雷の魔剣士」
蒼炎の鋼腕は乗り気のようだ。
ここで引く選択はないな。
「良いだろう。黒雷の魔剣士一人でも充分なくらいだが……蒼炎の鋼腕。お前の力を見る良い機会だ。出発するぞ」
「何かあったらクレイマンさんに責任取ってもらいましょう。まだ結婚相手も見つかってないのに無職にはなれませんからね……」
シエラさんは心配のご様子。
俺もシエラさんが心配になったけど。
クレイマン、食事の席ぐらいは面倒見てやれよ。




