もっと元部下の近況を聞いてみた
ハピネス、デュークの近況報告が終わった。
残るはシークのみとなったわけだが。
当の本人はハピネスの腕の中にいて、話せる状態ではないと。
随分と話し込んだし、一旦休憩でも良いかな。
料理をつまみながらハーブティーを飲む。
「いやー、ハーブティー美味ぇ」
「まじっすか。俺も飲みたいっす」
デュークが羨ましそうにカップを見ながら言ってくる。
飲みたいって言われてもな、これは俺のだし。
「シークに頼め」
「そうっすね。シーク、俺もハーブティー飲みたいんでお願いするっす」
「この状況で僕に頼み事するのはおかしいよ……」
「……希望」
「ハピネス姉まで。もうっ、三人とも勝手すぎー」
ハピネスの腕から解放されたシークはぶつぶつ言いながらも台所へ走っていった。
それでも淹れてくれるんだな。
「文句や泣き言は言ってもシークって断ったりしないよな」
「そうっすね。首を突っ込んだら最後まで付き合う感じ。きっと隊長に似たんじゃないすかね」
「……否定」
「おいこらハピネス」
「……冗談、肯定」
「俺に似たって言われてもなぁ」
ふと、シークについて考えてみる。
ティールちゃんに絡まれてもなんだかんだでガイの話を聞いてあげてる。
フィオーラちゃんの好奇心が暴走しても自分の知識を聞かせて、ウェルデイさんの特訓にも付き合ってる。
薬師としての修行や化粧の勉強に戦闘訓練、庭師見習い的なこともやってると。
かなりの苦労人じゃねーか。
「俺以上に頑張ってる気がするぞ……」
「自分の努力は自分じゃ見えないもんっす。俺は似てるって言っただけで比べろって言った覚えはないっすよ」
「……同意」
「そ、そっか。なんか、ありがとうな」
嬉しくなってつい、お礼を言ってしまった。
「うわぁ、シークをダシに使って自分を褒めてもらう算段っすか」
「……腹黒」
言葉にしたら辛辣なツッコミが来るのもお約束と。
今はシークの番だもんな。
俺が悪かったよ。
「へいへい、それで二人のシークの評価は?」
「評価って言われても。シークはセシリアさんの屋敷に住んでるんすから、ハピネスの方がよく知ってるはずっすよ。どうなんすか、ハピネス」
「……全力稼働」
「予想通りか。あいつ、大丈夫なのかね」
三人揃って心配な表情になる。
本人に確かめるのが早いか。
ちょうど良いタイミングでシークが追加のハーブティーを持って帰ってきた。
「デューク兄とハピネス姉、お待たせー。本当についでだけど隊長の分もおかわり淹れてきたよー」
「そうかい。ついででも嬉しいわ、ありがとよ」
「僕は気が利く男だからねー」
軽口を叩きながら、シークがハーブティーを配る。
シークが椅子に座ったところで報告の時間……なのだが。
「シーク、最近の近況……というか一日の流れを教えてくれ」
「一日の流れかー。良いよーん」
軽い口調でシークが話し始めた。
口調は軽くても内容は全く軽くなく。
俺たち三人の心配は的中することになった。
「……ええっと、確認させてもらうぞ。起床後、身なりを整えたら庭園の確認後に戦闘訓練。休憩中のティールちゃんの話を聞いたりして午前終了」
「そうだよー」
「昼食後にフィオーラちゃんと雑談しながら薬の調合や勉強っすね」
「合ってるー」
「……劇団」
「夕方はウェルディちゃんの特訓指導だよー」
「それで夜に屋敷に帰ってきて夕食を食べてから化粧の勉強をしていると」
これがここ最近の一日の流れらしい。
……遊んでる時間が皆無じゃないか。
三人の相手をしながら自分の仕事をこなしつつ、修行までしているぞ。
俺も忙しくしている自覚があったけど……シークは格が違うような。
きちんと休めているのだろうか。
ハピネスの話を聞いてある程度予想はしていたけど。
本人の口から聞くと改めて心配になってくる。
「シーク。今度……いや、明日にでも好きなもん奢ってやる。予定を空けとけ」
「俺もエルフから薬草知識について詳しく聞いてみるっす。シークが喜ぶものがないか」
「……寝具、製作」
「何でみんな急に優しくなるのさー」
「いや、お前の一日の流れ聞いたら優しくもなるわ!」
疲労で倒れないか心配なんだよこっちは。
デュークとハピネスもうんうんと頷いているし。
弟分が働き過ぎてることを知り、ただただ驚愕した。
しかし、本人はそこまでのことではないのか。
いつもの調子でからからと笑い。
「隊長もデューク兄もハピネス姉も心配性だなー。僕って薬師だよー。倒れる程、無理するわけないじゃーん。今日は結構、疲れてたけどー……昼寝すれば回復する程度だし」
「いや、そうは言ってもな」
「僕が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だもーん。……まあ、大変じゃないって言ったら嘘だけどねー」
やっぱり大変なんじゃないか。
「無理してないっすか」
「うーん、どうかなー。無理してるとかそういうのじゃないんだー。こういうのを充実してるって言うのかなーって思うんだけど」
違うのかな、と無邪気な笑みで浮かべながら質問してきた。
この笑顔を見せられたら、心配だとか無理するなとは言いにくい。
「シークの感じてることは間違ってないと思う……が。一人で抱え込み過ぎないようにな。頼れる家族がいることを忘れるなよ」
これくらいは言っておいても良いだろう。
「もちろーん。何かあったら隊長に頑張ってもらうもーん」
「俺だけかい!」
「デューク兄とハピネス姉に迷惑かけるのはちょっと申し訳ないしー」
「俺なら良いのかよ!」
まあ、何かあったら出来る限りのことはしてやるけどさ。
そこはデュークやハピネスも頼って良いところだからな。
弟分に頼られて悪い気にはならない。
そこは冗談でも聞き逃せなかったらしく。
「シーク。隊長だけを頼るってのは水臭いっす。迷惑とかじゃないから相談するっすよ」
「……期待」
二人してアピールしていた。
いつものやり取りとわかっていても聞き捨てならなかったと。
「あ、う、うん。二人にも相談するよーん」
少し言葉に詰まったものの、しっかり頼ると言えたな。
二人も安心しただろう。
「シークの近況はこんなもんだな」
ティールちゃんたちについてもう少し詮索すべきか迷ったけど。
シークの一日の流れを聞いたら、とてもじゃないけど茶化す気分になれない。
まだそういう年頃……でないこともないが。
普段の様子やシークの感じからして、恋愛云々は絡んでいないように見えるしな。
「そうっすね。話の切りも良いし、そろそろ寝るっすか」
「……賛成」
「僕も眠ーい」
三人ともおやすみ希望と。
なら、最後に予定を話しておくか。
「わかった。それじゃあ、連絡。俺とセシリアの結婚式で着る服。俺が奢るから近々買いに行くぞ」
んじゃ、おやすみー、と寝室に行こうとしたら三人に止められた。
何故だ、寝るんじゃないのか。
「どうした。せっかく集まったんだから一緒の部屋で寝ようとかそんな感じか。悪いが俺にはセシリアという相手が……」
「そんなこと考えてないっす」
「……論外」
「あり得ないかなー」
「じゃあ、何だよ」
引き止める理由がわからん。
「いや、服買いに行くって何すか」
「そのままの意味だが?」
結婚式に着る服を買いに行くんだよ。
それ以外にどういう意味がある。
説明するまでもないだろうに。
「……疑問」
「僕らが隊長に買ってもらうのは変かなーって」
「何も変じゃないだろう。こういう時に着る正装は必要だしさ。安い買い物じゃないが……任せとけ」
懐の広さを見せてやる。
というか、いつもなら太っ腹ーとかおだててくるところじゃないのか。
何で不満そう……いや、心配そうな顔しているんだよ。
「あの、隊長。セシリアさんと結婚するんすよね。そうなったらもう一人じゃなくなるんすよ。家族になるんすから、出費を考えて生活するようにしないと」
「ああ、そういうことね」
金の使い方を考えろと言いたいのか。
確かに独り身の立場と家族がいる立場ってのは違う……が。
「ふっ、俺はお前たち三人とは血が繋がってなかろうが種族がばらばらだろうが家族だと胸に刻んでいる。俺の最高の晴れ舞台に出てもらうんだ。いいから黙って奢られろ。そして盛大に祝ってくれ……最高の笑顔でな!」
返事を聞くつもりはない、と高笑いしつつ寝室へ。
追いかけて来ることもなかったので、そのままベッドに潜り込んだ。
俺は間違ったことは言っていない。
財布が軽くなるだろうが。
「散々、助けられてるからな」
これぐらいのお礼は素直に受け取ってくれ。




