助言してみた
何度も体を揺すり、俺の名前を呼ぶ声がする。
ああ、寝てしまったのか。
寝ないぞと強く意志を固めたはずなのに。
ということは、俺を起こそうとしているのはセシリアか。
また、怒られてしまうな。
ゆっくりを目を開けるとそこには……。
「やっと起きたっすね」
デュークがいた。
一緒にいたのセシリアじゃんよぉぉぉぉぉ。
目覚めの鎧兜は欲してないんだ。
「わかるっすけど、そのがっかり顔するの止めてもらえないすか」
「お前には今、俺が感じているこの期待を裏切られた絶望感と喪失感を理解することはできまい……」
「知らないっすよ。そもそもここ、俺が借りてる寮の空き部屋っす」
デュークの至極真っ当なツッコミが飛んできた。
まあ、ほぼ八つ当たりだったしこの辺で話題を変えよう。
「ところでセシリアは?」
「先に帰ったっすね」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
久しぶりのデートで結婚式確定みたいな情報を聞いたばっかなのに。
もっと一緒にいたかったという気持ちが強く、頭を抱えてベッドに伏せてしまう。
今後のこともあるんだから話し合いたかったよ……。
「空き部屋のベッドでめそめそするの止めて欲しいんすけど」
「お前には俺の悲しみがわかるまい」
「さっきも似たような件をしたばっかじゃないっすか。……言っておくっすけど最初、俺が戻ってきた時は隊長だけでなく、セシリアさんも寝ていたっすよ」
「あ、そうなの」
ベッドから起き上がってデュークの話を聞く。
寝たのは俺だけではなかったのか。
「二人で寄り添って寝ていたんで……起こさなかったっすよ。いや、起こせなかったの方が正しいっすかね。雰囲気的に悪いかなって」
「馬鹿な。俺はそんな幸せな寝方をしたのにセシリアの寝顔を見ることもなく……」
「寝過ごして終了っす。セシリアさん、目を覚ましても動揺せずに隊長を起こさないようにそっと動いてたっすね。隊長を頼む、自分はセリアさんと話すことがあるって言ってたっすよ」
「セリアさんとか……」
おそらく、結婚式についての話だろうな。
俺も当事者なんだから、参加したかったんだけど。
「母娘で積もる話もあるんすよ、きっと。そういう訳なんで……隊長。この後、付き合ってくれないすか」
「付き合う?」
「いや、隊長やハピネスのお祝い的なやつっす。最後に魔王城の面子で騒がないっすか」
「成る程。身を固める前に最後は魔王城面子で騒ごうってことだな」
「そんな感じっすね」
俺の家で集まって朝まで語るのもありか。
全員、ミネルバに来てから色々と変わったからな。
「でも、ハピネスは良いのか。せっかく、婚約発表したんだぞ。レイヴンと一緒にいたいんじゃ……」
「大丈夫っすよ。むしろ今日から大変だろうから労ってくれってレイヴンが言ってたっすから。自分が情報屋とやり取りするから、ハピネスのことは頼むって」
もう承諾済みなのか。
経験者らしく、ハピネスに助言してやるとしよう。
「シークはまだ何も言ってないっすけど……まあ、誘ったら来るっすよね」
「もっちろんー、とか間伸びした返事してくるだろ」
「想像できるっすね。それじゃあ、ハピネスから迎えに行きましょうか。隊長、何処にいるか探すっすよ」
「任せろ。俺の能力を持ってすれば人探しぐらい容易に……」
「あ、そういうの良いんでさくっとお願いするっす」
「本当に相変わらずだよな、お前」
少しくらい格好つけても良くないか。
デュークの前で決めても意味はないけどさ。
催促されたのでこれ以上の文句は言わずに感覚強化を発動。
おおよその位置は何となくだがわかったぞ。
「よし、迎えに行くか」
「了解っす」
デュークと共に部屋を出てハピネスの元へと向かった。
外に出ると日が暮れかけていたのでそこそこ眠っていたことがわかる。
「うーむ……今日に限って何故、寝てしまったのやら」
「隊長って最近、色々と忙しかったじゃないすか。知らない内に疲労が溜まっていたんすよ。それでセシリアさんとの結婚式が秒読み段階になって安心したんじゃないっすかね」
「そういうことか。セシリアも似たような理由かな」
「きっとそうっすよ」
デュークと適当に世間話をしながらハピネスのいる場所を目指す。
レイヴンと揃ってまだ劇団にいた。
情報屋の帰っていく姿も見られたし。
ちょうど二人の婚約発表が終わった感じかな。
控え室で休んでいたハピネスを回収しに来たんだけど。
「ぐったりだな」
「……疲労」
部屋に入るなり、テーブルに突っ伏すハピネスの姿を見ることに。
元々、人の前に出るの得意じゃないからなぁ。
こうなるのも仕方ないか。
「……質疑応答はできる限り俺が受け持ったんだが、それでもハピネスに聞いてくる情報屋もいてな。ハピネスの言葉を俺が説明していたら、少し遅くなってしまった」
レイヴンも顔にも疲れが見える。
二人とも覚悟はしていたけど、実際に体験したらってやつに直面しているな。
俺も経験したからわかるよ。
わかるからこそ、助言できる。
「辛いのは今だけだ。その先にある未来を想像しろ」
「……未来」
「そうだ。二人で過ごす日々を考えてみろ。両想いで結婚してからの暮らし始めて……二人だけの思い出を築いていく日々を」
目を閉じれば思い浮かぶはずだ。
俺だって結婚式の後はセシリアと一緒に暮らすからな。
朝起きたらセシリアがいる。
俺よりも早く起きて朝食の用意をしてくれるんだろうな。
向かい合わせて座って今日の予定を話し合いながら食べるんだろう。
いってらっしゃい、おかえりなさいとかも言うんだよな。
それだけで一日頑張ろうって、ああ、今日も頑張ったなって感じる。
そんな日が訪れるのも近い……。
「隊長、隊長……しっかりするっすよ!」
「へぶっ!?」
後頭部に衝撃が走った。
デュークによるチョップが炸裂したようだ。
完全に油断していたため、もろにくらってしまいその場でうずくまる。
「二人を元気付けるはずが、何で自分の将来を想像して腑抜けた顔をしてるんすか」
「面目無い」
「……半端」
ハピネスはいつも俺に厳しい。
今回は俺が失敗したから何も言えないが、レイヴンは違った。
「……お互いに状況が状況だからな。先輩のヨウキの言葉に倣って明日以降も頑張るよ」
「ありがとうレイヴン。俺の周りは厳しい奴らばかりで」
「隊長がしっかりしないから悪いっす」
「……同意」
「返す言葉もねぇわ」
「……賑やかだな。そういえば、二人はハピネスを迎えに来たんだろう。あまり遅くならない内に休ませてやってくれ。あと、俺に話せないこともあるだろうから聞いてやってほしい」
それは堂々とハピネスの前で言ったら駄目な頼みじゃないか。
あとでこっそり頼んでくれれば……いや、深く気にすることもないか。
「ふっ、任せろ。何があったとしても俺が良案を授けて……」
「……デューク、よろ」
「任せるっす」
「……何とかなりそうだな」
レイヴンが心底安心した表情を見せてきたから、良しとするか。
……俺の扱いが雑でもな。
「それでハピネスも合流したし、あとはシークだけだな」
「そうっすね。何処にいるのか、隊長、見せ場が来たっすよ」
「……出番」
「はいはい……って、するまでもないわ」
シークは多分、俺の家で寝てる。
レイヴンとハピネスの婚約発表で午後の部の劇がなくなったから、劇場に戻ってきてないんだ。
セシリアと劇場を出た時にウェルディさんがシークに午後の部について話をするって……。
「あっ……」
「どうしたんすか、隊長」
「いや、ちょっとな」
「……犯罪」
「やらかしてないわ。ただ、シークに悪いことをしてしまったかもしれないんだ」
あの後、どうなったんだろう。
ご機嫌取りのためにお土産買って帰るか。




