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追われてみた

黒雷の魔剣士の正体は俺だとばらしてから、数日後。

俺は追われていた。



「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



ヨウキの姿で屋根上を全力疾走する。

最近、ずっとこんなのばっかりだ。

追ってきているのは情報屋だけではなく、同僚の冒険者も混じっている。



野次馬感覚で話を聞きたいだけだろう。

俺もその辺はわかっているので、最初は重要な部分を隠して話そうと考えた。

しかし、隠すことが多すぎて話せることといえば……。



「セシリアの好きなところ? そうだな、優しくて家庭的で俺が道を間違えたらすぐに叱ってくれるところだ。もちろん他にもあるぞ」

「セシリアの料理は全部好きだ。淹れる紅茶もまた絶品で」

「セシリアにアクセサリーをプレゼントした時はとても喜んでくれて」



セシリアへの惚気話を聞かせまくった結果、ふざけんなとキレられ追われているわけだ。

みんな、どういうふうに出会い恋仲になったのかが聞きたいのだろう。



それはわかっているんだが、詳しく説明はできない。

そもそも、したくないかな。

セシリアに手を差し伸べられたあの日、俺は救われたんだ。

この思い出は俺とセシリアのものなのさ。



「つーか、本当にしつこいな。特に……」



俺は追ってきている軍団の先頭を走る男を睨む。

屈強な冒険者たちがいるにも関わらず、先頭を走っているのは。



「取材ぃぃぃぃぃぃ!」



「お前、この前しただろうがぁぁぁぁぁぁ」



脚力自慢の情報誌記者ウッドワンである。

以前、ソレイユが黒雷の魔剣士の正体を調べに来た時に何故か二人が協力。



俺の家に招くとセシリアがいてあっさり話してしまったんだよな。

その時に話を聞かせたはずだぞ。



「顔ばれした版の取材もお願いしたいんですぅぅぅぅ!」



「知るかぁぁぁぁぁ!」



ウッドワンは惚気話でも構わないスタイルなのだが。

俺の心情やらセシリアの表情やら事細かく聞いてくる。

話し終えると必ずさすが黒雷の魔剣士さんですねとよいしょしてくる。



そして、きらきらさせた目で次の話はと言ってくるんだ。

これは終わりがないと逃げたらこうなった。



正体をばらすことがどういうことになるか。

わかっているつもりだったんだが……予想以上だなこれは。



家に入れればと追いかけられながら、帰路に着く。

しかし、家も調べがついているようで先回りされていた。



「おいおい……どうすりゃ良いんだよ」



これはしばらく家に帰れないか。

そう覚悟したところで救世主が現れた。



「……これはなんの騒ぎだ」



数人の騎士を連れたレイヴンである。

集まっていた人たちに事情を聞き、いくら何でもやり過ぎだと注意。



必要以上に話を聞こうとしたり、家の前で張り付くのは迷惑行為になる。

今後も同様の行動が見られたら治安維持の名目で騎士団本部に連行もあると説明。



そこまでのリスクは負いたくないのだろう。

俺を執拗に追いかけていた冒険者や情報屋はほとんどいなくなった。



「取材許可はどう取れば良いんですか」



「……後日、尋ねると良い」



「追いかけても良い距離はどれくらいまでですか」



「……相手が逃げた時点で取材は終わりにしてくれ」



「そんな!? 僕の脚力を活かす場が消えたんですけど」



「……騎士団の連絡員になるか?」



ウッドワンはレイヴン相手に粘りを見せていたけどな。

連絡員になる気はなかったようでウッドワンはまたお願いします、切実にと言い残して帰っていった。



「あー……疲れたー」



救世主レイヴンを家に招き入れ、俺は椅子の上にどかっと音を立てて座り込む。

こんな日々が毎日続けば疲労も溜まるって。



「これが幸せの代償ってやつなのか」



「……そういうことになるな。セシリアは有名人だし、黒雷の魔剣士は以前から謎に包まれていた。それが前情報もなしに急遽、正体を現したんだ。こうなることは想定内なはずだぞ」



「まあ、な。これもセシリアと結婚するためには絶対に通らなくてはいけない道だったからさ。わかっていたつもりだったんだけど」



背もたれに体を預けてリラックスする。

甘いものでも食べたいが買いに出かけるのはリスクが高い。

我慢するしかないか。



「……セシリアとはあれから会ってないのか」



「あの正体ばらした日な」



大パニックの中、どうにか帰れたけど。

俺の能力を使っても屋敷に来るのは少し控えた方が良いとセリアさんに言われたんだよなぁ。



俺の行動がいつどこで見られているかわからないこの状況。

いつの間にか家主の俺が家から消えてセシリアの屋敷にいたら不自然だからな。



同じ理由でセシリアを家に招くのも厳しい。

どうしよう、会いたいのに会えない。



「……ヨウキ、泣きそうな顔になっているぞ」



「あ、顔に出てたか。ここ最近、セシリアと半同棲みたいな生活していたからさ。正体ばらして世間に俺とセシリアの距離が近いことを知らせることができたけど……」



「……セシリアと物理的な距離ができてしまったと」



レイヴンが同情的な目で俺を見てくる。

レイヴンも立場的にハピネスと会えない日々が続くことがあった。

俺の気持ちがわかるんだろう。



「ああ、セシリアの紅茶が恋しい……」



「……まだ数日しか経っていないだろうに」



「数日でも辛いんだよ」



「……重症だな」



レイヴンの言う通り、俺は重症なんだろう。

セシリア不足になっている。

しかし、会いに行くことはできない。

こんな不幸があるかと顔を手で覆って悶える。



「……ふっ」



「何故、笑った」



俺の悶える様がそんなにおかしかったのか、レイヴンよ。

返答によっては不幸のお裾分けの刑に処すぞ。



「……いや、セシリアは幸せだなと思ってな。数日、会えていないだけでここまで頭を抱える恋人は中々、見かけないぞ」



「俺の目の前にも似た輩がいると思うんだが」



どうなんだ、騎士団長レイヴンさんよ。

いつもより長い沈黙が流れる。

考えた結果、出てきた言葉は。



「……否定はせん」



「だろ」



俺だけじゃないんだよ。



「……ヨウキは結婚がどんなものなのか考えているのか」



「どうした突然」



そんな哲学的なことを聞かれるとは思っていなかった。

レイヴンは冗談を言うタイプではないし、真剣に聞いてきているんだろうな。

結婚、結婚ね……。



「俺は結婚して突然、何かが変わるとかは思ってないかなぁ。好きな人といつでもいちゃいちゃできるとか……それはまたちょっと違うだろうし」



やり過ぎたらどっかの勇者夫婦みたいなことになりそうだし。

そこは常識的な範囲で……いちゃつく常識的な範囲ってなんだ。



自分の家の中でなら多少、やり過ぎても。

いや、俺の中のセシリアが聖母の笑みを浮かべ、ヨウキさんと語りかけてきている。

深く考えるのはやめよう。



「とにかく変に身構えずに生活をする」



「……そうか。ヨウキのことだから、いつもの調子で絶対に幸せにしてみせる。何があってもだ、ぐらいは言うと思っていたんだが」



意外だなと、どこか物足りなさを感じている様子のレイヴン。

俺らしい台詞を考えるな、言いそうだわ。

でも、こうして結婚することが現実味を帯びてきて視野に入ってくると思うことも変わるんだ。



「俺はセシリアを幸せにする。セシリアは俺を幸せにする。つまり、二人で幸せになる」



「……理想的な形だな」



「ああ。でも、最初からそんな目標を立てて生活するのは難しいと思う。結婚してから見えてくる問題とかあるだろうし。一個一個解決しながら、幸せになろう、幸せにしようって考えながら生活してたらさ。どこかで崩壊すると思う」



結婚未経験者が何を言ってんだって話だけどさ。

俺もセシリアも結婚初心者だ。

段階を踏んで成長していかなくちゃいけない。



「最初は色んな課題にぶつかるだろうけど。俺はセシリアの淹れた紅茶を飲んで談笑する時間があれば乗り越えられるさ」



あの時間があれば俺は大丈夫。



「そうだな。結婚してからは他にも好きな時間を探すのも良いかもしれないな。一緒にいることも増えるんだ。どう過ごしている時が落ち着くのか、ドキドキするのか、嬉しいのか……どうしたレイヴン」



何故、俺から視線を逸らしているんだ。

自分で聞いてきたくせに失礼だろう。

よく見たら小刻みに震えているし。



「……す、すまん。気を悪くさせたな。だが、はっきり言わせてもらう。ヨウキ、いつも以上に恥ずかしいことを言っている自覚はあるか」



「今回は俺の純粋な気持ちを述べただけだ。恥ずかしがる点はない」



「……そうなのか。そこまで考えているんだな」



「思っているだけだ。実際に生活してみてどうなるかはわからんさ。ただ、今話したことを念頭に置いて生活していければ良いなって」



「……早くセシリアと会えると良いな」



「そこなんだよなぁぁぁ」



会えない現実を突きつけられ床に崩れ落ちる。

こうなったらガイに黒雷の魔剣士の格好をさせて影武者にしてこっそり会いに行くか。

いや、家を深夜に抜け出して密会するってのもありだな。



「……勝手な行動はしない方が良いと思うぞ」



「何でわかった」



「……今のはセシリアでなくてもわかる。明らかに何か企んでいる顔をしていたからな。まあ、もう少し待つことだ。事態が好転するかもしれないだろう」



「そうかな。そうなると良いなぁ」



この騒動が早く収まるとはちょっと考えにくいんだよな。

レイヴンの言う通り待つのが無難か。



「……さて、そろそろ仕事に戻らないとな。見回りの巡回コースの再編成計画書を作成しなければならなくなったし」



「再編成計画書?」



「……これだけ騒動が起きているんだ。ヨウキの住宅周辺に騎士が多く通るようにする」



「本当、迷惑かけてごめんな」



ただでさえ忙しい身なのに仕事を増やしてしまった。



「……気にするな。ヨウキには何度も世話になった。これからも頼りにすることがあるだろうし。今日、話を聞けて良かったよ」



それじゃあ、またなと言い残してレイヴンは去って行った。

気のせいだろうか、最後妙にすっきりした表情をしていたような……。



「俺、そんなに深いことを話したかな?」



一人、首を傾げる俺であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウッドワンさんマジでパネェっす 後に人気ゴシップ誌の編集長とかなってそう
[一言] レイブン君も若干マリッジブルーだったのかな。
[一言] 会った事すら誰にもバレなければ問題無い
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