城に行ってみた
「えっと……どちらさん?」
セシリア、ハピネスと共にクレイマンとソフィアさんはラブラブ夫婦だということを証明した数日後。
今日もギルドで依頼だーと思いつつ、身支度を整えていたら、部屋の扉からコンコンとノックする音が聞こえた。
誰かなと思い出てみたら、金属の鎧に兜を身につけ、腰に剣を帯びている兵士がいた。
「あなたがヨウキ様ですね? はじめまして。私はクラリネス王国第三騎士団所属のカイトと申します」
「はぁ、どうも」
丁寧に挨拶をしてきた、兵士に頭を下げる。
カイトいう名のようだが、城の騎士が俺に何の用事だ。
……デュークが何かやらかしたのか?
充分にありえる話だ。
しかし、兵士から話を聞いたところ、何やら俺に用があるらしい。
どうやら一緒に城に来てほしいそうだ。
……そういえばこの前セシリアが城に来てもらうことになるかもとか言っていたな。
城に行かなきゃならないとか俺何かやらかしたか?
身に覚えがないが断るのはまずいだろうし、表に迎えの馬車が来ているとか言われたので仕方なく行くことにした。
「……ん?」
宿を出ると見たことがある馬車が停まっていた。
アクアレイン家の馬車だ。ということは……。
「ヨウキさん」
馬車に乗り込むと予想通りセシリアがいた。
そして……
「隊長〜お久〜」
何故かシークも一緒にいた。
この前までの暗い雰囲気は何処にいったのか。
俺が知っている明るいシークに戻っていた。
おそらくセリアさんのおかげだ。
戻ってくれて良かった……
「隊長〜馬鹿隊長〜へたれ隊長〜」
……もう少しあのままでも良かったかもしれない。
立ち直った分、前よりうっとうしさが増しているのだ。
狭い馬車の中だというのに俺の頭の上に乗り、無邪気な笑顔ではしゃいでいる。
「こら、俺の頭の上に乗るな!」
「座り心地がいいからやだ〜」
「んなわけあるか! とっとと下りろ」
そんな子ども全開なシークと微妙な表情をしている俺をセシリアは微笑ましく見守っている。見守っていないでシークに注意してくれないかな……。そんなやり取りをしている内に馬車は城に向かって出発した。
ガタゴトと揺れる馬車の中、窓から見えるもう見慣れた王都の景色を眺めている。
結局、シークは俺の頭の上にいるままだ。
何を言っても頑なに下りようとしないので諦めた。
この感じも久しぶりだしいいだろうと俺も少し思えるしな。
まあ、クラリネス城に着いたらさすがに下りてもらうが。
そういえば……
「ところで、何で俺は城から呼ばれたんだ。あとシークも」
俺は自分の頭に乗っているシークを指差す。
俺もシークも城に来いなんて言われるようなことをした覚えがない。
この前の口ぶりからしてセシリアなら何か知っているだろうと思い、説明を求める。
「はい、説明しなければなりませんね」
セシリアは頷き、今回俺達が城に行くことになった理由を説明しだした。
「私とヨウキさん、シークくんの三人でダガズ村へ行きましたよね。私の仕事で」
「ああ、行ったな」
かなり記憶に新しいことなので、忘れているわけがない。
「治療の手伝いをしていて俺のところには老人達しか来なかったことを鮮明に覚えているよ」
セシリアの元にはデレデレしている男どもが、シークの元には目をハートにした女性が殺到していた。
そして、俺には人の良さそうなお爺さんお婆さんしか来なかったことを今でも忘れていない。
そういえばあの時セシリアのことをエロい目で見たり、ナンパしていた馬鹿な村人が何人かいたので、隠れて魔法を使って報復したこともあったな。
セシリアや村長に内緒で。報復した日にちょうど山賊が攻めてきたからうやむやになってくれて安心したっけ。
「あ、あはは、そんなこともありましたね。ですがまだ――」
「そういえばティールちゃんや馬鹿ーゴイルと会ったのもダガズ村だったよね〜」
俺の頭の上に乗っているシークがいきなり会話に入ってきた。
おそらく、ただ揺れているだけの馬車の中。
景色を眺めているだけに飽きたからだろう。
「馬鹿ーゴイルってなんだよ」
ガイが聞いたら怒るぞ。……いやティールちゃんの方がもっと怒るだろうな。
「だってあいつ馬鹿じゃ〜ん」
ガイの遺跡居眠りエピソードを思い出したのか、あはは〜と笑い出した。
人の頭の上で腹を抱えて笑うのはやめてほしい。
「確かにあの話を聞いたらそう思うかもしれないけども……」
ティールちゃんはそんなガイの村の守り神になったエピソードを知らない。
聞いたとしても、「さすが守り神様。村を守るために今まで守られていた遺跡に帰らなかったんですね」
とか間違った解釈して終わりな気がする。
最初会った時は病弱で冷静に物事を見据えることができる、知的な文学少女かと思ったんだけどなあ。
ガイの話をしたり、ガイと一緒にいると暴走しだすから、気をつけないとならないし。
ガイも別に心底嫌がっているわけじゃないみたいだからなんとも言えないのだ。
「でしょ〜? あ〜本当に面白いよね〜馬鹿ーゴイル〜」
「おいおい……そんなに笑ったらガイに失礼だぞ」
「隊長だって笑ってるじゃ〜ん」
「うっ……」
そう言われると何も言えない。
確かに俺もガイの話は何回聞いても面白いと思ってしまうからだ。
元部下、しかも子どものシークに言いくるめられてしまい言葉を返せずにいると、セシリアが遠慮がちに一言発した。
「あの〜話の続きしてもいいですか……?」
「「あっ……」」
俺とシークが二人で勝手に盛り上がっていて、肝心のセシリアから話を聞くことを忘れていた。
セシリアは少し苦笑しつつ、俺達を見ている。
俺から説明を求めたというのに勝手に違う話でシークと騒いでしまうなんて最低だ。
「ごめんセシリア、ほらシークも」
「セシリアお姉ちゃん〜ごめん」
俺の頭から下ろし、正座させて頭を下げさせる。
もちろん俺も頭を下げた。
「いえ、気にしていないので大丈夫ですよ。ですから、二人共頭を上げてください」
優しいセシリアに促され頭を上げる。
許してもらえて良かった。いずれは再告白に挑む予定なのに、嫌われてしまっては話にならない。
純粋に好きだとまた伝えられるのはいつになるのだろうか?
この気持ちを伝えることは今関係ないので、今度こそセシリアの話を聞く姿勢に入る。
「では、続きを話します。ダガズ村での、村人の治療、山賊討伐は別に城に報告するほどのことではありませんでした。ガイさんのことも別に人を襲う意思が見られなかったですし……こう言ってはなんですが隠していれば大丈夫なので問題はありません」
勇者パーティーの一人だったセシリアが魔物の存在を隠蔽していいのかと少し心配になる。
しかし、良く考えてみればセシリアは似たようなことをよくやっているのだ。
デュークにハピネス、シーク。
そして極めつけが魔族である俺に人として生活することを勧めたことだ。
セシリアの言う通りばれなければいいし、俺やデューク達が悪いことをする可能性なんてないしな。
あとダガズ村であったことと言えば……。
「まさか、あのふざけた勇者のことか?」
勇者という言葉を聞き、シークがビクッと震える。
どうやらシークも思い出したらしい。
自分が目の前にいたのにガイを救えずに戦っても一方的にやられたことを。
立ち直ったとはいえ、心に負った傷は完全に癒えていないのだろう。
優しく頭を撫でてやる。
「……大丈夫だよ隊長。僕はもう平気だからさ〜」
震えて俯いたかと思えば、顔をあげていつもの無邪気な笑顔を見せるシーク。
どうやら俺の杞憂だったようだ。
シークはもう吹っ切れているらしい。
セリアさんにまかせて本当に良かったと思う。
「シークくん、本当に大丈夫ですか?」
セシリアもシークのことが心配になったのか、声をかけるが……
「うん、僕はもう誰にも負けないように強くなるって決めたんだ〜。だから大丈夫だよ〜。……それに強くなったらあいつをぐちゃってするってセリアさんと約束したから」
とても良い笑顔で物騒な表現を用いてリベンジを誓うシーク。
一体セリアさんはシークとどういう風に約束をかわしたのだろうか。
気になるが今シークにそれを聞いたらまた話が脱線してしまうので我慢しセシリアに話の続きをするよう言う。
「……ヨウキさんの言う通りガリス帝国勇者ミラー。彼がクラリネス王国に諜報活動に来ていたということは城に報告せねばなりませんでした」
「まあ、そうだよな」
いくらなんでも隠して良いことと悪いことがある。
もし奴のことを報告していなかったら下手をすると、何も知らない内に因縁を吹っ掛けられて戦争とかいう事態になりかねない。
それに人造魔武器だったか? を大量生産している可能性だってあるのだ。
クラリネス王国にとっては有益な情報だろう。
セシリアも立場上報告しないわけにはいかなかったのだろう。
問題は……
「俺達のことはどこまで報告したんだ?」
そうなってくると報告する際にいろいろ問題が発生したはずだ。
まずミラーが襲っていたガーゴイルであるガイについてや、俺やシークについて。
そして、どうやって奴を撃破したかだ。
人造魔剣のことを報告するとなると魔法主体のセシリアが倒したというのは信憑性にかけてしまうだろうし、俺の正体をばらすのはまずいし……。
「……大変でしたよ本当に。でも、なんとか考えました。よって、シークくんやヨウキさんの正体は伏せることができたので安心してください」
どうやらなんとかしたらしい。
しかし、どう報告したのだろうか。
セシリアに報告した内容が書かれた紙を貰ったので読んでみる。
ガイのことは書かれておらず、俺とセシリア、シークが山賊の討伐をしていると魔物を楽しそうに殺しているミラーを発見したことになっている。
奴が諜報活動をするためにクラリネス王国にやって来たことを自白し戦闘に。
様々な人造魔武器を使われながらも、なんとか川に追い詰め落としたと書かれていた。
「……これで大丈夫だったのか?」
「なんとか……」
ところどころ真実が混じっているから良いものの、正直騙せたかどうかがわからないから怖い。
セシリアはなんとかなったと思っているようだが大丈夫だろうか?
シークだけは難しい話が終わったからか、よじよじと俺の体を上り、頭に乗りはじめた。
もうこの際シークは放っておくとして。
俺は城に着いてから何をされるのかが不安で仕方ない。
セシリアも城に呼ばれただけで何をするかは聞いていないらしいし。
俺とセシリアの不安が拭えないままでいると、気がつけばクラリネス城に着いてしまったのだった。
城への移動だけで終わってしまいました……




