勇者に頼んでみた
「昼食の準備ができたから呼びに来たんだけど……席順おかしくない?」
「ユウガはそっち側よ」
「残念ながらお前は俺の隣だ」
「何でさ!?」
僕はミカナの隣が良いと喚くユウガを強制的に俺の隣に座らせる。
この席順に変更はない、仕方のないことだ。
隣にいるユウガへ早速話を持ちかける。
「実はユウガに頼みたいことがあってな」
「だから、この席順だとおかしいよね。普通ならお客さんと家主で分かれるものじゃないの」
席順に納得できないユウガが本題に入らせてくれない。
全く……わからない勇者様だな。
「俺たちはこっち側だからさ。この席順を受け入れるしかないんだよ……」
「こっち側って何!?」
「それで頼み事っていうのはな」
「僕の質問は無視なの、ヨウキくん」
「ユウガ、話が進まないから静かにして」
「勇者様、ここは抑えてください」
ミカナとセシリアにまで言われてしまい、ユウガも渋々納得した。
やはり、女性陣は強い。
「これが魔王を倒し世界を救った勇者とその勇者以上の力を持った魔族の姿か……」
ガイがぼそっと誰にも聞こえないように呟いた。
おい、俺には聞こえてるからな。
セシリアたちには聞こえていなかったらしく、特に反応していない。
後でどうしてくれようか……。
「それで僕に用事って何かな。ヨウキくんとセシリアのためなら協力は惜しまないよ」
「そうか。それじゃあ、人前で俺を殴って欲しいんだが頼めるか」
「えっ……」
「ヨウキさん、説明不足ですよ。勇者様、私から説明しますね」
説明役失格、セシリアとバトンタッチ。
俺のやらかしからユウガにやってもらいたいことまで無駄な話なく説明。
セシリアは何でもできる、自慢の恋人だ。
「そう言う頼み事だったんだ。……ミカナごめん。少し席を外してくれるかな」
ここでどういうわけかユウガがミカナを部屋から追い出そうとし始めた。
おいおい、どうしたんだ急に。
「何でよ。アタシに聞かれたくないことでもあるの」
「……うん」
ユウガの寂しそうな表情を見るとミカナはそれ以上の反論はせず。
寝室へと足を運ぼうとした……が。
「そうだ。そこにいる人はヨウキくんの知り合いの冒険者でさ。催眠療法ができるすごい人なんだ。昼食前だけどミカナも少し体験してみたらどうかな」
ここでガイの出番が来たか。
ガイもミカナも無言で俺を見ないでくれ。
ここでガイの正体についてユウガに説明する……よりもさ。
後回しにしてユウガとの話を進めた方が良いだろう。
わざわざミカナを遠ざけようとしてるってことは何が悩んでるのかもしれないし。
「そうだな。ガイ、相手は妊婦だ。心を落ち着くような夢を見せてやってくれ」
「まあ、我輩がここにいても意味がなさそうだからな。任せておけ」
「催眠療法って何なのよ……」
ガイとミカナが寝室へ向かい、俺とセシリア、ユウガが居間に残る。
さて、大好きなミカナを遠ざけた理由は何なのか。
「ごめんね、ヨウキくん、セシリア。正直な話をすると僕だと力になれない。聖剣の力が全く使えなくてね。こんな僕に仮面を飛ばされても周りからは八百長だってすぐにばれちゃうと思うよ」
「ミカナを遠ざけた理由はもしかして……」
「まあ……これから父親になるっていうのにさ。弱音を吐いてるところを見せたくないじゃない。協力するって言ったのにごめんね」
何かを誤魔化すような笑みを浮かべられてもな。
全く自然に笑えていないぞ。
結構、真剣に悩んでいるんだな。
まさか、聖剣を脅して力を出さないようにしているのがミカナだとは思ってもいないだろうな。
どうしたら良いんだ、この一人シリアスな雰囲気。
「勇者様にしかできないことなんです。お願いできませんか」
セシリアが頼み込んでもユウガの答えは。
「僕以外にも適任者はいるよ」
首を縦に振ることはなかった。
他の適任者って誰だよ、ソレイユを呼ぶか?
蒼炎の鋼腕と訓練中に……そんな流れもありだろう。
しかし、ミカナから頼まれてしまったからな。
どうにかやる気になってもらわないと困る。
ここは俺の話術で攻めてみよう。
「聖剣の力とか関係なく、俺はユウガにやってもらいたいんだ。説得力とかじゃなくてさ。俺の友人は聖剣の力が有ろうが無かろうが任せてと言う……そう思っていたんだけどな」
語尾をはっきり言わず、消え入るように斜め下を向いてがっかりしている様を演出。
悪いと思ったのか表情に出ている。
「ヨウキくん……でもさ」
ここで逃げる理由を言わせるわけにはいかない。
もう一押しだ!
「でもじゃない。俺はユウガに頼みたいんだよ。勇者とか聖剣とか関係なく……友人のユウガにさ」
ここでさりげなく手を差し出すところがポイントだ。
あとは軽く頷くだけで……。
「そっか……そうだよね。これが僕にできる結婚式の手伝いなら引き受ける。ヨウキくん、弱気になってごめんね」
「俺こそ無理を言って悪いな。でも、お前なら余程の事情がない限り引き受けてくれると思っていたよ。ありがとうな」
「うん、任せてよ。ヨウキくんとセシリアの友人として協力する」
交渉完了の証である握手をして任務終了。
俺もユウガも良い笑顔で握手をしている。
友情って素晴らしいな。
「……これで良いのでしょうか」
セシリアからの好感度が少し下がった気がする。
うーむ……難しいところだ。
「そうだ。セシリアに僕の成長を知って欲しいんだ。ヨウキくん、詳しい打ち合わせは今度にして良いかな」
「良いけど成長って何の?」
「料理だよ。この前、セシリアに注意されてばっかりだったからさ。良かったら味見して欲しくて」
「構いませんよ。ヨウキさんはミカナを起こしてきてくれますか。勇者様の自信を見る限りだと特に何もなさそうなので」
「わかった」
ユウガとセシリアは厨房、俺は寝室へと向かう。
ガイがミカナに良い夢を見せているはず。
普段の疲れもあるし、夢の世界でリラックスできていれば良いが。
寝室に入るとベッドの上で眠るミカナにガイがナイトメア・スリープをかけていた。
ミカナの寝言が聞こえてくる。
さて、どんな夢を見ているんだ……。
「ユウガ……そろそろ……引越しの時期……よ」
新婚で生活し始めたばかりなのに引っ越す夢を見ているらしい。
この家に不満でもあるのか。
首を捻っていると。
「次で……七人目……もっと広い……家……住まなきゃ……」
「……成る程」
ミカナを起こさないよう、音量を落として呟く。
一応、ガイに何て夢を見せているんだと視線で訴えるものの。
「我輩のせいではないぞ。我輩は寝ている人間が心の奥で望んでいることを見れるように操作しているだけだからな」
「そうか……なあ、このことは俺とガイの秘密にしておいてやろう」
「当然だ」
ミカナに何を聞かれても知らないを突き通す。
セシリアはともかく、ユウガには絶対に言わないぞ。
今後、暴走されたら困るし。
「実現しそうな気もするけどな」
この後、ミカナは起きると顔を赤くして俺とガイを睨んできた。
夢の内容は忘れず、しっかりと覚えている様子。
何か寝言を言っていなかったか聞かれたが二人で何もと答えて終了。
ユウガの顔がまともに見れないかもしれないと両手で顔を覆い悶えていた。
夢の内容の全てを寝言で言ってなかったみたいだな。
二人で暮らし始めてそこそこが日が経っているのにこれだ。
どんな夢を見たんだよ……。




