作戦を説明してみた
せっかく俺の考えた作戦を実行していたのにクレイマンにばらされてしまった。
クレイマンは俺と長く接点があるからな。
少しずつの変化でも気づいたらしい。
だが、クレイマンのツッコミは幸いにも周りに聞こえない程度の声だ。
まだばれていない、作戦は続行できる。
そのためにもクレイマンは事情を説明しておくべきだな。
「良いか、クレイマン。これは俺が考えた作戦なんだ。全ては俺の正体を混乱なく明かすためのものだ」
「少しずつ服装を変えていくことがか?」
「そうだ。突然だがクレイマンは急激な変化についてどう思う。例えば二日続けて同じ料理を食べたとしてだ。いきなり味が変化していたら驚くだろう」
「そりゃあそうだが」
「しかし、味が少しずつ変化していたらどうだろう。それなら、後で変化していたと言われても受けた衝撃は少ないだろう。つまり、いきなり正体を現さず、少しずつ周りに溶け込んでばらす方向に持っていくというのが今回の作戦でな……」
「あー……そうか」
かなり自信がある作戦なのにクレイマンはやる気なさげな返事をしてくるだけ。
おいおい、もう少し興味を持ってくれても良いんじゃないか。
クレイマンが説明を求めてきたから話したのにこんな反応はないだろう。
「そんなお前に一言、言ってやる」
「何だ」
「後ろを見てみろ。それがお前の作戦とやらが起こした結果だ」
頬杖をついたクレイマンはちょんちょんと人差し指で俺の後ろを差す。
何があるのかと振り返ってみると。
「あっ……」
「小僧、我輩は知らんぞ」
早々にガイから見捨てられた。
まあ、そうするのも無理はない。
だって後ろには……。
「魔剣士さん、用事があるので来てもらえますか?」
久々に見る聖……の微笑み。
これはやらかしてしまったようだ。
セシリアの登場にギルドがざわつく中、俺は抵抗することなく。
「……はい」
「では、行きましょうか。ガイさんも同行お願いしますね」
「うむ」
大人しくセシリアに付いていくことにした。
この状態のセシリアに逆らってはいけない。
振り向くと頬杖ついたクレイマンがひらひらと片手を振っていた。
助ける気はないらしい、当たり前だな。
セシリアを先頭に歩き、馬車へと乗り込む。
空気が重い、俺はとんでもないことをやらかしてしまったのか。
最初に口を開いたのはセシリアだった。
「まず、その格好に関しての説明をお願いします」
「はい……」
俺は今回の作戦について説明した。
「成る程。ところで何故ガイさんと共に依頼を?」
「隣に俺より目立つガイを置いたら、もっと周りに溶け込めるかなーって」
だから、ガイに協力を依頼したんだ。
効果はあった、と思う。
俺がどんどん服装を変えていっても周りから突っ込まれることなかったし。
「行動に出る前に私に一言、相談して欲しかったです」
セシリアから説教が飛んでくると考えていたのだが。
俺の予想は外れた。
怒っているというよりもむくれているという感じ。
黙って行動に出たのが悪かったのか。
「ごめん、セシリア。相談もしなかったのは悪かった。でも、みんなが動いている中、俺だけ何もしていない気がしてさ。俺にできることはないかなって思って……」
「わかっていますよ。ヨウキさんは考えなしに行動したりしません……から」
ちょっと間があったのは何故なんだ、セシリア。
今、そこを追及する場ではないのでツッコミはしない。
ただ、顔には出ていたらしくセシリアはわざとらしく咳払いをして空気を変えた。
「話題がずれましたね。ヨウキさんの気持ちは伝わりました。ですが、ヨウキさん。現在の動きを整理してみてください。私たちの結婚式を行うためにどのような動きがあるか」
「動きの整理か。セリアさんが貴族関係に働きかけてユウガとミカナが外交関連。レイヴンが警備関係で動いてるくらいか。……あとはセシリアも何かしているんでしょ」
きっとセシリアも俺に黙って動いているはず。
俺の予想はある程度あっていたらしく、セシリアは軽く頷いた。
「そうですね。そこで問題になってくることがあります」
「問題?」
「黒雷の魔剣士とは誰なのか、ということです」
たどり着いたのは正体についての話だった。
やはり、黒雷の魔剣士の正体は明かすべきなのだろう。
俺の作戦は間違っていないのではないか。
しかし、セシリアの話には続きがあった。
「お母様や勇者様とミカナ、レイヴンさんが動いている。秘密裏にとは言ってもどうしてもばれますよね?」
「まあ、そうだな」
それと黒雷の魔剣士がどう関係してくるんだ。
「私と縁のある方々が行動していることになります。黒雷の魔剣士が誰なのかわかっていないため、結婚式に向けて周りに指示を出しているのは私ではないかと考える人たちも出てくるんですよ」
「成る程」
俺がユウガたちに色々頼める程、仲が良いか周りは知らないわけだからな。
何度か行動を共にしていることはあるけど、セシリアには劣ると思われるだろう。
そうなるとセシリアの知人ばかりが動いている構図になるのか。
「そんな中、魔剣士さんが日に日に装備を脱いでいった結果。私は結婚式を行うためにさっさと正体を明かせと婚約者の装備を一枚ずつ剥いで仕事に行かせている聖母、という非常に不名誉な噂が立っているんですが……」
「申し訳ございませんでした!」
狭い馬車の中で俺は土下座をした。
俺の行動がセシリアのイメージダウンに繋がってしまったとは。
「セシリアは……そんな女性じゃない!」
「あの、誰に説明しようとしているんですか」
「世間の人々にだ」
頼む、俺の声が届いてくれと願うも残念ながら馬車の中にしか響いていない。
広場に行ってくれないかな、この馬車。
俺の姿を見てガイがため息をついて。
「我輩は今後、小僧が何かをしようとしたら必ず相談しろと言うことにする」
「そうしてくれ」
俺は自分のやらかしに頭を抱えることになった。
どうやったらセシリアのイメージを回復させられるんだ。
「セシリア、俺はどうなっても良いから打開策を一緒に考えてほしい。俺の名誉が傷ついても構わないから、セシリアの……清廉潔白な印象を世間に再確認させないと」
「ヨウキさんは私に何を求めているんですか」
「それはもちろん聖母としての立場……」
やべっ、焦りすぎて言ってはならないことを口走った。
時すでに遅しセシリアの表情が変わっていく。
「ヨウキさん?」
「は、はい……」
「今後のことも考えて屋敷でゆっくり話そうと思っていたんです。ただ、着く前に話しておかねばならないことができたので、御者の方にお願いして少し周り道をしてもらおうかと」
「そ、それはガイもいるし真っ直ぐ屋敷に向かった方がいいんじゃないかなーって」
「……ナイトメアスリープ発動」
「ちょっ、おい!」
ガイは自分自身に魔法をかけて眠ってしまった。
俺のことを見捨てたな。
「ガイさんも眠ってしまわれたようですし……ゆっくりお話しましょうか」
この状態のセシリアから逃れることはできず。
屋敷まで遠回りをした道のりで俺はセシリアからのお話を聞くことになった。




