パーティーを楽しんでみた
俺とセシリアのため、密かにパーティーを企画、準備がされ開催された。
俺もセシリアも気がつくことができなかった。
知らない間にウェディングケーキの依頼までされているなんてな。
「待てよ。じゃあ、この前の式場のイベントも……」
「式場がイベントをしようとしていたのは本当よ。そこに依頼を持ちかけたら、是非って話になったらしいわ」
「なったらしいって。発案者はミカナじゃないのか」
ミカナの依頼を押し付けた感じでセシリアに出番が回ってきたはずだ。
なら、計画者はミカナではないのか。
「発案者は私よ」
ドレスに身を包んで歩いてきたのはセシリアの母、セリアさんだ。
グラスを持って優雅に歩いてくる姿に何故か後退りしてしまう。
謎のラスボス感を感じてしまった。
本当に発案者はハピネスなのか、実はこの人の入れ知恵なのではないか。
「ヨウキさん、怪しんでいるのがばればれです」
「だってさ……」
セリアさんならあり得そうなんだもの。
黒幕じゃないのか。
「あら、ヨウキくんたらそんな目で私を見るのは良くないわねぇ。私がしたことは式場にちょっとお願いしただけ。二人のために動こうと言ったのは私じゃないわ」
動く予定ではあったけどね、と付け加えるセリアさん。
否定するってことはやはりハピネスが言い出したと。
「屋敷で二人に結婚式ができないかもしれないって話したでしょう。あの時に決心したみたいよ。自分たちのことを後回しにして周りのために動こうとする二人を見ていられなくなったのよ」
セリアさんの言葉に俺とセシリアは顔を合わせて伏せる。
俺たちで決めたこととはいえ、言葉にされると恥ずかしいものだ。
結婚式のことは後々で何とかしようってかんじだったんだけど。
こんなパーティー形式で全員が手伝うって決意表明みたいなことしてくるとは思わないって。
「ほらほら、そろそろしっかりするっす。俺たち以外にも集まっているみんなに挨拶してくるっすよ」
「そうよ。二人のためにこれから何をしてくれるか聞いてきたら良いわ」
「私は結婚式のために色々と裏から働きかけるつもりだから、期待していてね」
デュークとミカナに背中を押されて会場内を歩き回るように促された。
これから何をしてくれるかって俺たちから聞きに行くのか。
そして、セリアさんは裏から動くって……何をどうするつもり何だろう。
「セシリア、セリアさんは一体どんな方法で何をするんだ」
「……ヨウキさん、本気になったお母様は結構怖いですよ」
セシリアはセリアさんの何を知っているんだろう。
家族にしか見せていない顔があるのか。
少し怖くなったが、セリアさんは俺とセシリアを見てにこにこ笑っているだけ。
それ以上の情報は得られない。
余計な詮索は身を滅ぼすと言うし、下手に首を突っ込まない方がいいかな。
「……移動しよう」
「そうですね。お母様、また後程」
「二人でちゃんと楽しむのよー」
セリアさんに別れを告げて会場内を彷徨く。
全員に挨拶しないとなぁ。
まあ、でも一番気になるところに行くか。
「あの、イレーネさん」
「どうもです、隊長さん」
デュークと里帰り予定のイレーネさん。
少し丈の短い緑のドレスを着て椅子に座っている。
近くのテーブルには料理と飲み物が置いてあるのだが……立食パーティーだよな?
いや、別に座ってはいけないということではないけども。
セシリアも不思議がっているし、理由を聞いてみようかね。
どうするか躊躇っていると、イレーネさんから祝福の言葉をもらった。
「デュークさんから聞きました。お二人が結婚するということで私もできる限り協力します」
「そうか、ありがとう。ところでどうしてイレーネさんは一人で椅子に座って食事をしているんだ」
「デュークさんにここを動かないように言われました。食事も飲み物もドレスも用意してくれたんですが。これはデュークさんに甘え過ぎているのではと思っています」
イレーネさんも思うことがあるらしい。
これは俺の予想なんだが、丈の短いドレスは転ぶリスクを減らすため。
テーブルと椅子は誰かにぶつかったら困るから、食べ物はよく見たらスープ系の料理が盛られてない。
こぼしてドレスにかかって熱さでパニックを起こさないようにするためだな。
デュークのやつ……完璧なフォローじゃないか。
「やっぱりこのまま、デュークさんにもらってばかりではダメですよね。よーし、私もデュークさんに飲み物を渡してきます」
「あっ、それは辞めた方が……」
俺の忠告は間に合わず、イレーネさんはデュークの元へと向かって行った。
「デュークさん、大丈夫でしょうか」
「大丈夫だろう」
セシリアの心配もわかるがデュークなら問題ない。
「私は勇者様とミカナの新婚旅行でのイレーネさんを知っているので正直心配です」
「イレーネさんも里帰りの件もあるからしっかり者になるように努力しているさ。こういうパーティーの護衛とかも騎士団ですることもあるだろうし、早々失敗は……」
「熱いっすぅぅぅぅぅぅ!?」
「ああーっ。ごめんなさーい。デュークさーん」
セシリアと話していたら後ろからカップが割れる音と叫び声と謝罪の言葉が聞こえた。
「……デュークさん、頑張らないといけないみたいですね」
「デュークはその方面の達人だからきっと上手くやれるさ」
「デュークさん。冷たい飲み物を持ってきましたー」
「駄目っすよイレーネ。まずは床を拭いてからじゃないと……」
「きゃーっ!?」
「人の忠告を聞いてから行動するっすー!」
また、後ろから悲鳴と叫び声が聞こえたので移動することにした。
仲良くやれよ、デューク。
さて、次に会うのは誰かな……。
「おう、来てやったぞ」
「お嬢様、ヨウキ様、お疲れ様です」
会場内を歩いているとクレイマンとソフィアさんに遭遇した。
二人とも珍しくスーツとドレス姿だ。
クレイマンは普段と違って髪を整え、スーツも着こなしているのでだらけた感じが全くしない。
ギルドでもこの格好でいれば良いのに。
「何だよ、その目は」
「いや、普段から格好を気にすればもっとギルドでクレイマンの列に並ぶ冒険者は増えるんじゃないかと」
「おっさんが服装を気にしたところで仕方ねーだろ。今日みたいに決める時に決めてたら良いんだよ」
どうやら、このクレイマンは今日限定らしい。
俺とクレイマンで話し込んでいる間、セシリアはというと。
「お嬢様、先日はありがとうございました」
「えっ、私、ソフィアさんにお礼を言われるようなことをした覚えがないのですが」
「先日、私は夫との喧嘩で息子が仲裁したため戸惑ってしまい、和解が遅れてしまったのです。息子は私と夫が喧嘩をしても本を読んでばかりで無関心だったので意外でした」
「そうでしたね。でも、どうして急に和解を……」
「お嬢様が結婚すると聞きまして」
「ええっ、それが関係しているのですか!?」
「私はアクアレイン家のメイドとしてお嬢様の成長を見守ってきました。そんなお嬢様が自分で結婚相手を見つけてきたのです。お嬢様の決意は固く、ヨウキ様は私の視線から逃げずに真っ直ぐに私を見てきました。子どもの成長に戸惑っている場合ではありません。私はお嬢様の幸せを一番に考えているであろう、ヨウキ様との結婚式を全身全霊で応援するまでです」
ソフィアさんの言葉にセシリアは涙目になり、二人は自然に抱き合っていた。
これは俺とクレイマンは近くにいなかった方が良かったのではないか。
「俺もソフィアも感謝してるんだ。クインはどっか冷めてるところが有ったが、今は夢中になれることが見つかった。フィオーラも俺に似ちまってだらけ気味で自分が気になった世界にしか興味を持たなかったせいか、友達がいなくてな。今じゃお前の知り合いと楽しく毎日過ごしてる」
「クインくんはあれで良かったのか俺には判断しにくいんだが。フィオーラちゃんはまあ……ティールちゃんと仲良くシークを取り合ってるよ」
「まあ、良い変化だったっていうことに変わりねぇ。言っておくが俺はあまり本気出すのは好きじゃない」
「知ってる」
最近はともかく、やることはやって早く休みたい派だろう。
面倒事は嫌いなのがクレイマンという男だ。
「ああ……そこそこの付き合いだし知ってるよなそりゃ。そんな俺が協力してやるっつーんだ。必ず成功させるぞ。反省会なんて面倒なことはしねぇし、させねぇからな。二次会で騒ぐのは付き合ってやるからよ」
やるからには失敗させないということか。
ギルドで何度か本気で仕事をするクレイマンを見かけたが、他の職員が必死になってどうにか付いていってるレベルの動きだった。
クレイマンの本気は頼りになる。
この夫婦の協力が得られたのってかなり頼もしいことなんじゃないか。




