パーティーの準備をしてみた
どうしようか。
セシリアの花嫁姿を見て眼福だった翌日。
俺は自宅で悩んでいた。
ハピネスの歌で周りの問題解決を企んでいたのにほとんど解決段階に入っていることが判明。
ハピネスに任せろと言ったし、今更中止とかありえない。
セシリアと打ち合わせして前回の提案通りの役割分担で動くことに決定。
俺は会場の料理、セシリアは会場の手配、ハピネスは歌ということになっている。
立食パーティーな感じにすれば良いよな。
行きつけの酒場とアミィさんに頼んで料理を手配しよう。
「良し、悩み解決!」
セシリアと連携して準備を進めていこう。
決意したところで扉をノックする音が聞こえた。
こんな朝方に誰だろうか、セシリアは朝食を作って帰っていったし。
聖剣のことでユウガでも相談しに来たか。
誰かと思い扉を開けると。
「……おは」
そこには使用人服に身を包んだハピネスがいた。
おいおい、仕事抜け出してきたのか。
「どうした。仕事放棄か」
「……否定」
「そりゃそうだよな、冗談だ。玄関前で立ち話もあれだし入れよ」
「……了承」
ハピネスを家に招き入れ居間へと誘導。
客用の椅子に座ってもらい、お茶を用意。
セシリアの淹れる紅茶を頻繁に飲んでるからな。
俺だってそこそこの茶を淹れられるように……。
「……不合格」
「厳しいな」
「……手本」
ハピネスが俺からティーセットを奪いお茶を淹れる。
お茶の入ったカップを渡され一口。
セシリアの紅茶により舌が肥えた俺にはわかる。
俺の完全敗北だ……。
「ぐっ、屋敷の使用人になるとこんな技まで身につく様になるのか」
「……メイド長」
「ソフィアさんの教えか」
「……お嬢様」
「セシリアからも教わってるのかよ」
二人がバックにいるなら俺に勝ち目があるわけないな。
勝ち誇った顔をされるのは腹立たしいが勝てないものは勝てない。
美味いお茶を飲ませてもらったってことで許してやろう。
「それで、お茶の淹れ方を自慢にしに来たわけじゃないんだろう。要件は何だ」
「……パーティー」
「ああ、その件についてか」
ハピネスも気になっていたんだな。
歌ってくれと頼んでいるわけだし、気になるのも当然か。
まだ企画段階で会場、食事、予定調整もしてないんだけど。
言い出しっぺの癖に何も決まってないと言ったら怒るだろうなぁ。
いつも以上に弄られるかもしれないが、これは俺の怠慢が原因だ。
できるだけツッコミを入れずにどんな言葉でも受け止めよう。
「実はなハピネス。俺から言い出しておいて悪いんだけど……」
「……招待状」
「は?」
ハピネスが渡してきたのは一枚の封筒だ。
中を確認すると会場の場所と日程が書かれた招待状が入っている。
これは一体どういうことだろうか。
「いやいやいや……今から色々と準備する手筈だったんだぞ。何でもう用意できてるんだよ」
「……お嬢様」
「セシリアがどうした」
「……隊長、秘密」
「そういうことか」
セシリアが俺に内緒で全て進めていたということか。
張り切り過ぎて空回りされると困るとでも思われたのかね。
食事関係は準備するって言ったのにな。
昨日、どうしようか話していたけど実はもう準備し終わっていたと。
「俺が提案したっていうのに。ハピネスも黙ってセシリアに協力したのか」
「……水面下、行動」
「全く気づかなかったぞ」
いや、もしかしたら俺とデュークとシークでウェスタの劇団に行っていた時か。
ハピネスとセシリアはいなかったからな。
そんなところで予定が組まれていたとは。
隠れて行動するのは俺の得意とする分野なんだけど、今回はハピネスとセシリアに完敗だわ。
「……で、俺の見間違いじゃなければ日程が今日の夜になっているんだが?」
「……正解」
「急過ぎないか?」
これじゃあ、招待客全員は集まれないだろう。
しかし、俺の心配は無用と言わんばかりにハピネスは鼻で笑い。
「……隊長、最後」
「まさか、俺以外の招待客は全員予定調整済みとか」
「……正解」
「本当、俺だけが孤立している状態だったわけね」
ここまで除け者扱いされるか。
セシリア発案じゃないな、ハピネスの考えに決まっている。
目の前のこいつが少しにやついているのがその証拠だ。
やはり、懲らしめてやらねば。
「……時間厳守」
「あ、おいハピネス!」
俺が何かすると察したのか。
ハピネスは遅刻するなよと言い残して家を飛び出していった。
やはり、元部下だけあってわかってるなぁ。
ハピネスが出ていった扉を見つめて一言。
「パーティー会場でお仕置きするか」
レイヴンが怖いからばれないようにやろう。
あと、過剰なものもチクられたら困るから軽めのもので。
そう誓う俺であった。
予定があると時間が経つのは早いもの。
ギルドに行くのは止めて家の掃除、整理をしていたらあっという間に夕暮れに。
「来るのは知り合いだけだし、そこまで服装は気にしなくて良いかな」
さすがに討伐依頼で着ていく装備までいかないが、外行きの服で良いだろう。
クローゼットから服を選んでいたら、扉のノック音が聞こえた。
朝方のようにハピネスが訪ねてきたのだろうか。
扉を開けた先にいたのは。
「隊長、お疲れ様っす」
「デュークじゃないか。どうしたんだ」
いつも通りの鎧に身を包んだデュークが立っていた。
イレーネさんとは一緒じゃないらしい。
デュークも招待されているから、準備があるはず。
こんな時間に何の用だ。
「いやー、隊長ことだからもしやと思って心配して来たんすよ」
「心配って……何が?」
「お邪魔するっすー」
勝手に家へと侵入する騎士団員。
おい、取り締まるべき立場のやつが許可なく住居侵入して良いのか。
デュークの後を追いかけると、俺が選んでいた服を物色していた。
「ふーん、隊長。まさか、この中から服を選んでパーティーに参加する気だったんすか」
「え、ダメなのか」
「良くないっすよ。あのハピネスが人前で歌うんすよね。それ相応の格好で見届けるのが家族じゃないんすか。それに他の人たちもきっちりした格好で来るはずっすよ」
「な、成る程」
そう言われるとラフな格好じゃなく、多少は堅苦しいのを我慢してスーツとか着ていった方が良いのか。
デュークの鎧は仕方ないとしても俺はどうにでもなる。
「何着かは持っているから、それを着ていこう」
「いやいや、まだパーティーまで時間があるんすから。大事な記念日になる予感がするんでもっとちゃんとするっすよ」
「つまりどういうことだ」
「付いてくればわかるっす」
デュークは黙って付いて来るようにと俺を外へ連れ出した。
ここに来てネタ的な要素を入れてはこないはず。
ということは服屋にでも向かっているのか。
デュークを信じて歩いていると目的地へ到着。
そこは俺も知っている店だった。
「ここって前に俺がセシリアに連れてきてもらった店じゃないか」
プロポーズの時に来た店だよ。
店員三人がかりで着せ替え人形扱いされたのを覚えている。
「何でデュークが知ってるんだ」
「セシリアさんに聞いたっす」
「おおう……」
ここでもセシリアのサプライズが絡んでくるのか。
わかったよ、今日はそういう日だってことだな
「良いだろう、ツッコミはもう不要ということだな。のってやろうじゃないか。店に入れば良いんだろう」
「そうっすね。ここまで案内したのに入らないっていう選択肢はないっすよ」
「まあ、そうだな。それじゃあ、お望み通りなってきてやるよ。着せ替え人形にな!」
「店員さんの言うことはしっかり聞くっすよー」
デュークが母目線で話しかけ、俺に手を振っている。
そんなデュークを軽くチラ見して俺は店の中へと入っていった。
店の中で行われたのは以前と同じ……ではなく。
二回目の利用ということでそこまで時間はかからずに着替えは完了した。
「やっぱりこういう服装は慣れないな」
普段、動きやすさ重視の服を着て生活しているからな。
ここを利用している人でこんなよたよたした歩き方しているのは俺くらいだろうな。
何人かとすれ違ったけど、全員かっこよく歩いていたし。
ほら、目の前から歩いて来る女性もドレスを着ているのに所作が綺麗なもんだ……って。
「あれ?」
「あっ」
目の前から歩いてきていたのはセシリアだった。
どうやら、同じタイミングで着替えていたらしい。
こんな偶然があるんだなぁ。
それよりも会場に行く前にパーティーの準備についてお礼を言わないと。
「あのさ」
「ヨウキさん、ありがとうございました」
「えっ」
俺、お礼を言われるようなことしたっけ。
混乱して何も言わずにいると、セシリアから追加の言葉が。
「ハピネスちゃんから聞きましたよ。私に黙って準備をしてくれたみたいで。相変わらずヨウキさんは私を驚かすのが好きみたいですね」
嬉しそうに笑顔で話すセシリア。
俺は訳がわからず呆然。
どういうことだろうね、これ。