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訪ねられてみた

クレイマンとソフィアさんのラブラブっぷりを垣間見た翌日。

そんな二人が羨ましく思え、セシリアに会いたい病が発症してしまった俺は何もやる気が起きなかったため、ギルドにも行かずにベッドの上でゴロゴロしていた。



そんなだらけている俺を見てガイがうっとうしく思ったのか、そんなに会いたいならセシリアに会いに行けばいいと言ってきた。

今日は会う約束をしていないし、僧侶の仕事がある可能性が高いから無理だというのに簡単に言いやがって……。



腹が立った……というかほぼ八つ当たりでスフィンクスからミロのビーナスに外見を変えてやった。

むしゃくしゃしながらも手を抜かずに作製した。

良い出来だな。



外見を変えたことでガイがギャーギャーうるさく喚いている。

大仏やスフィンクスの時も文句を言いやがって、全くわがままだな。

ガイの必死な訴えを気にせず、眠ることにした。





コンコン、コンコンと扉をノックする音に気づき目が覚める。

ベッドから起き上がり、少しの間ボーッとする。

体感では一時間も寝ていない気がするなぁ……。

中途半端に寝たせいで、眠いし、頭があまり働かない。

ボリボリと頭をかいて誰だよと思っていると



「ヨウキさーん、いらっしゃいますか」



扉の向こうからセシリアの声がするではないか。



「いるいる! でもちょっと待ってくれ」



まさか、セシリアが会いに来てくれるとは!

いそいで、寝巻から普段着に着替え、身嗜みを整える。

部屋の中もささっと片付けてこの間三十秒ほどで終わらせた。

ルンルン気分で扉を開ける。



「おじゃまします」



「……します」



そこには私服姿だが一応眼鏡と帽子で変装しているセシリアと、メイド服ではなく普通の私服姿のハピネスがいた。

ハピネスがいるとは知らなかったが、別に気にはしない。

セシリアが会いに来てくれただけでも、嬉しい限りである。



「いきなり訪ねてすみません。迷惑じゃなかったですか?」



申し訳なさそうな表情をしているセシリア。

とんでもない!

むしろウェルカムだ。来てほしかった。

セシリア会いたい病が発症していた俺にとって、セシリアは特効薬なのである。



長い付き合いをしているハピネスは俺がどんなことを考えているか、わかったのか微妙な表情をし。



「……変態」



そう言って、蔑むような目線を送ってきた。

何故、そこまで言われなければならないのだろうか。

別に好きな子のことを考えて何が悪い。

俺とハピネスが睨み合いをしていると、セシリアが控えめに声をかけてきた。



「あの……、ヨウキさん?」



「何かな?」



「部屋に上がらせてもらってもいいですか?」



「……あ」



部屋の前でセシリアを挟んで睨み合いをしていた俺とハピネス。

確かに、こんなことはやるにしても部屋に上がってもらってからでもできる。

一旦ハピネスとの睨み合いをやめ、二人を部屋に招き入れた。



「……隊長」



入ってすぐにハピネスが困惑気味に話しかけてくる。



「どうした?」



「……ガイは?」



「そこにいるだろ」



俺はミロのビーナスと化したガイを指差す。

本人は眠っているのか、何も言葉を返してこない。

ハピネスがガイを五秒ほどじっと見つめ、一言。



「……これはない」



「なんでだよ!?」



まさかの駄目だしである。

スフィンクスが駄目でミロのビーナスも駄目なのか!?

確かに八つ当たり気味で、むしゃくしゃしながらも造ったが手を抜いた覚えはない。

むしろ、今までより最高の出来だと思う。



「セシリアはどう思う?」



「わ、私ですか!? えっと……」



自分に話を振られると思っていなかったのか、あたふたし始めた。

そんな、セシリアをかわいいと思いつつ返答を待つ。結果……



「ちょっと、ないと思います……」



「ええー!?」



まさかのセシリアからも不評だった。

これで三連敗である。

芸術は奥が深いなあとしみじみ感じる。

たぶん、俺の芸術センスがこの世界の芸術に対する美的観点と合っていないのだろう。この時俺はどうすれば自分の造る石像が認めて貰えるかを必死に考えていた。



「……」



だから、ハピネスが俺のことを残念そうに眺めていたことを俺は知らない。



(ああ、神様。どうかヨウキさんが自分の製作する石像を客観的に見ることが出来るようにしてください)



セシリアが俺のために、手を組んで神に祈りを捧げていたのはもっと知らない。



「……ところで、今日は二人そろって何しに来たんだ?」



ガイの次の姿については、また今度考える事にし、二人が訪ねて来た用件を聞くことにした。



「……隊長を笑いに」



「どういうことかな、ハピネスさん?」



せっかくの休日にわざわざセシリアまで連れてきて、ハピネスは俺のことをからかいに来たということだろうか。

俺にはもっと有意義な休日の過ごし方があると思うのだが。

またもや、ハピネスと睨み合いになるがセシリアが仲裁に入ってくる。



「ハピネスちゃん、冗談は辞めてください。ヨウキさんも抑えて……」



セシリアに言い聞かされて、お互いに身を引くことに。

まあ、この程度の言い合いは魔王城でしょっちゅうしていたので止めに入るまでもないのだけどな。



「二人共落ちつきましたね。では用件……と言ってもただ遊びに来ただけなんです」



何か重要な話でもあるのかと思ったが、そうではないらしい。

ハピネスはティールちゃんが屋敷のメイドとして入り、負担が減ったため。

セシリアはダガズ村での仕事が早く終わり過ぎたため休暇をもらったらしい。

仕事の手伝いをして良かった。

……腹の立つ思いもしたが、その分新しい出会いもあったからな。



「そういえばシークくんは大丈夫ですか……?」



ダガズ村での話で思い出したのだろう。

シークはガリス帝国勇者であるミラーによって、心身共にボロボロになってしまったからな。



「いや、まだ落ち込んでいるよ……」



「そうですか……心配ですね」

セシリアだけでなく、俺やデューク、ハピネスも心配している。

だけど、中々立ち直ってはくれない。

昨日は宿に戻って来なかったし、何処に行ったのだろう。



「……大丈夫」



「「え!?」」



ハピネスの言葉に俺とセシリアは驚き声をあげる。

昨日、ハピネスだってシークのことを心配して訪ねてきたくせに、一日で何があったというのか。



「シークの奴立ち直ったのか?」



「……まだ。でもセリアさんがなんとかしてくれる予定」



「お母様がですか!?」



ハピネスに詳しい話を聞いてみると、今シークはアクアレイン家の屋敷にいるらしい。



「セシリアは知らなかったのか?」



「はい。昨日はダガズ村での件について報告せねばならないことがたくさんあったので……」



どうやら忙しかったせいで、知らなかったようだ。



「……続き話す」



どうやら、昨日セリアさんは町の方に用事があり、それを済ませ馬車で屋敷に帰っている途中で、一人とぼとぼ歩いているシークを見つけたらしい。

いつもと様子が違うことに気づいたセリアさんは、すぐにシークを馬車に乗せて屋敷に向かったそうだ。



「……お母様がしたことって誘拐ではないですよね?」



「……ぽいけど、同居人の俺が許すよ」



「……続き」



屋敷にシークを連れ帰ったセリアさんは事情を聞いたようだ。

ダガズ村でミラーに一方的にやられ、馬鹿にされ悔しいと涙を流して語ったシークをセリアさんは黙って抱きしめて、泣き止むまでずっと頭を撫でていたんだとか。

そして、シークが泣き疲れて、眠ってしまったので屋敷に泊めたらしい。

ちなみに、ハピネスがこの話を終えるのに三十分ほどかかった。



「昨日屋敷でそのようなことがあったのですね……。さすが、お母様です……」



セシリアが自分の母の行動に感動している。

人を癒す仕事をしているからだろうか。



「……隊長、奥様から伝言」



「セリアさんから俺に?」



「……シークのこと預かるって」



その言葉だと誘拐犯の脅迫に聞こえてしまうんだが。まあ、聞こえるだけだから何の問題も無いが。



「わかったって伝えてくれ。シークのことはセリアさんに任せるのが適任だしな」



「……了解」



「ま、どっちにしろ頼む予定だったし。直接行く手間が省けたってとこだな」



「そうだったのですか?」



セシリアは一人首を傾げる。

俺やハピネスはシークの事を知っているからこそ、セリアさんに頼もうと決めていたからな。



「まあ、ね。理由はさ、シークにとってセリアさんは母親より母親らしい人だからだよ。どういうことかは、複雑な話になるからまた今度に話すけど」


これは、シークにとって大切な話だし、本人がいない所でそう簡単にしゃべることはできないからな。



機会があれば、セシリアに話すことにしよう。



「そうですか、わかりました」



「ま、シークはセリアさんに任せとけば大丈夫だと思うぞ。……それで、話が変わるんだけど実はさ」



突然、昨日のクレイマンとソフィアさんのラブラブな夫婦っぷりを見たことを思い出した。

クレイマンの話は聞いたが、ソフィアさんの話は聞いていない。



セシリアなら、ソフィアさんの冒険者時代のことを何か知っているかもしれないし話を聞いてみよう。



何か中途半端だな……

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