出会いを聞いてみた
「あのさぁ、ソフィアさんと何処でどんな出会いしたんだ?」
「あん? なんだ薮から棒に」
急に話を振ったからか、怪訝な表情をしている。
だが、恋をしている俺からしたら一応こいつは成功者なのだ。
クレイマンの口ぶりからすると、恋愛結婚だろうしな……というのは建前で本当は単に興味があるからだが。
「いいから、いいから。話してくれよ」
「んー、寝てるだけなのも飽きたしな。良いぜ、俺とソフィアの運命的な出会いからラブラブな結婚に至るまでの話をしてやる」
明らかに見下した態度をとり始めたので、思わず殴りそうになる。
しかし、話を振ったのは自分だからと言い聞かせ握った拳をといた。
「まずは俺の話をだな……」
ソフィアさんとの出会いの話をしろと言ったのに自分は小さい頃から天才だっただの、凄かっただのと言う話をしだした。
前フリだろうと信じ、適当に相槌を打ちつつ耳を傾ける。
どうやら、クレイマンは十八歳になるまで、ソロの冒険者として活動していて、ランクAまでいったらしい。
自分は天才だと思い、逆にやることなすこと簡単に終わってしまうので、人生に暇を感じてきた頃にソフィアさんに出会ったようだ。
「俺はな、昼間っからギルドのテーブルで酒をちびちび飲んでだれていたんだよ。もう、冒険者家業つまんねーやる気出ねーってな」
酒を飲んでること以外、今とあまり変わらない気がするが……。
まあ、とにかく仕事をする意欲が薄れていたということか。
「そんな俺に声をかけて来たのがソフィアだったんだよ!」
出会った日の事を詳細に思い出したせいか、頬が緩みまくっている。
そして、いつものだらけた感じがあまりなく、声のトーンに力がこもっている。
「近づいて来たソフィアは俺になんて言ったと思う?」
いきなりクイズ形式かよ。あまり、深く考えても意味がない気がするので普通に答える。
「仲間になりませんかとか?」
「フッ」
俺の答えを聞いたクレイマンが鼻で笑う。
自分で聞いてきたくせにそれか。
「ソフィアはなあ、俺に『あなた暇そうで強そうですね。良ければパーティー組みませんか?』って言ってきたのさ」
「うわぁ……」
答えを聞くとさすがソフィアさんという感じがする。暇そうで強そうって……洞察力すごいな。
暇そうは分かるかもしれないけど、強そうな人なんてよく分かったな。
「まあ、最初は断ろうとしたんだが、その時俺は酒を飲んでいて酔っていたからな。返事を言う前に、当時から美人だったソフィアに抱き着いちまったんだよ」
「馬鹿だろ」
ソフィアさんにそんなことしたらどうなるか?
聞かなくたってわかるな。
「すぐに腕から抜け出されて、無表情のソフィアに俺は容赦なくボコボコにされた。満足に抵抗できずにな。人生をだらけつつも何をしても成功していた俺からしたら、ソフィアに敗北したのは少なからずショックを受けた」
「訂正するわ、大馬鹿だろ」
あのソフィアさんに、だらけまくっていたクレイマンが勝てるわけないだろうに。
というかこいつは俺最強とかそれまで思っていたのか……。
「これが俺とソフィアの出会いだ」
「出会いの話、終わり!? その後どうなったんだよ」
「その翌日、俺から改めてパーティー申請をしたら快くソフィアは了承してくれたぞ」
いきなり抱き着いてきた奴とよくパーティー組むこと了承したな。
いや、元々ソフィアさんから誘っていたんだし、不思議な話でもないか。
「まあ、そこから俺とソフィアは凄かったんだぜ。二つ名だって出来たからな」
ファンタジーで強い奴に贈られる称号みたいなものか。
どうせ聞くだけで耳が真っ赤になるような恥ずかしい厨二な二つ名なんだろ。
「『無敵の無気力カップル』っていう」
「何そのまったく羨ましくない二つ名」
完全にクレイマンのせいでついた二つ名だよな。
ソフィアさんは無表情だから、そう見えてしまったのか……?
それにカップルって何だよ。
「何でカップルなんだ?」
「周りの連中がそう騒ぎ立てただけだ。俺は面倒だし、ソフィアはくだらないと思っていたみたいだから否定しなかったんだよ。そしたらそれが定着しちまった」
「それでいいのかよ……。というかそこから良く結婚までいけたな」
そんないい加減な形でカップルって呼ばれても実際にはそうでなかったんだろうし。
付き合いだしたきっかけかがあったはずだ。
「あぁ……結婚な。結婚ね……」
急に目を閉じて思い出に浸りだした。
いや、こっちはさっさと話を聞きたいんだけどな……。
このまま、浸らせ続けると話が進まないので覚醒させよう。
「おい! 続きを聞かせてくれ」
「…………うぉっ!? ああ悪い悪い、つい懐かしくなっちまってな」
思い出の世界から現実世界に帰ってきたようだ。
少し悪いことをしたかな……?
いや、思い出に浸るのは俺が帰ったらにして貰おう。
「まあ、まず付き合うとかはないな。先にプロポーズしたようなもんだし」
「え!? そうなの」
「おう、二人でコンビを組んでいる内に愛が芽生えたっていうわけだ。いつの間にか休日にデートするようになっていたしな」
「……」
恋愛ってそんなことあるんだな。
自然消滅じゃなくて、自然交際か。
「まあ、結婚する際にものすごい事件が起こったんだが……」
「……俺が聞いていいような話なのか?」
両親の説得とか、実は愛人がいたとか生々しい昼ドラのような展開じゃないよな。
他人の俺が聞いて大丈夫だろうか?
俺が不安げ空気を出しているのを感じとったクレイマンが軽く笑う。
「なんかお前、生々しいこと考えてるだろ!? 言っておくがお前が思っているようなことは起こってないぞ」
クレイマンの言葉にほっとする。
正直、前世の世界で見た昼ドラのようなことが、身近で起こっているのはあまり好ましくないからな。
「じゃあ何があったんだよ」
「……まずプロポーズをしたのは俺だ。一緒に過ごしていく内に段々ソフィアに惹かれていったからな。それまで俺はだらけつつ人生を過ごしていたが、初めて人生で真剣に悩んだ。」
どうやら、どうプロポーズするかはだらけずに真剣に考えたようだ。
なら、真面目なプロポーズをしたはずだ。
事件なんて起こらないだろう。
「ちゃんと雰囲気の良い店に食事に言って指輪を渡したんだぜ。そして、こう言ったんだ『結婚しねぇ?』ってな」
「普通じゃん」
何も面白くないし、それじゃあ何も起こらないだろう。
何故それで事件と呼べることが起こったんだ?
「ソフィアは普通に了承してくれたんだが……。その後言った俺の言葉でソフィアがキレてな。結果俺は全治半年の重傷を負った」
当時のことを思い出したのか、顔を青ざめている。
なんか、似たような話をセリアさんから聞いたことあるぞ……。プロポーズ当日の話だったんだな。
「了承して貰ったのにどんないらんことを言ったんだ?」
「……冒険者を辞めようと言ったんだ。その頃俺に副ギルドマスターにならないかっていう話が来てたんだでな。せっかく結婚するんだし、危ない橋を渡る必要はないだろ。そしたら、キレちまったんだ。ソフィアは『無敵の無気力カップル』を続けたかったらしい。ボコボコにされながらも説得したらな……納得してくれたのさ。」
「……」
なんだろう、ツッコミどころがありすぎる。
何故ソフィアさんは『無敵の無気力カップル』を続けたかったのか、何故クレイマンなんかに副ギルドマスターへの話が来たのか、一番謎なのは……。
「……結局結婚してラブラブなんだよな?」
「おう!」
ニッと歯を出して笑うクレイマン。
俺から話を振っておいて何だが、聞く価値があったんだろうか……?
そんなことを考えていたら、後ろからガチャリと部屋の扉が開く音がした。
「あなた、迎えに来まし……何故ヨウキ様がいるのですか?」
入って来たのはいつものメイド服を身につけたソフィアさんだった。
迎えに来るとは聞いていたけど、早くないか!?
「あはは……。ギルドでクレイマンにお世話になっているからお見舞いに来てたんです。それより、まだ昼になったばかりでソフィアさんは仕事のはずじゃあ……?
」
「なるほど、ギルドで夫と知り合ったんですね。今日は元々有休をとっていたんです。しかし、急に新人が来たり、ハピネスが仕事を抜け出したりと問題が発生したので午前中だけ出勤だったんですよ」
いつも通りの無表情で淡々と答えるソフィアさん。
だから、さっきハピネスを迎えに来た時、若干機嫌が悪かったのか。
「ハニー、迎えに来てくれたんだな」
「ハニー!?」
クレイマンてソフィアさんのことハニーって呼んでいるのか……?
そう思考していると、ソフィアさんが素早くクレイマンに近づき……
「誰がハニーですか」
綺麗な踵落としを怪我を負っているクレイマンの腹に決めた。
腹を押さえて悶絶しているクレイマンをソフィアさんは無表情で見ている。
「いつもソフィアと呼んでいるでしょう」
「いや、ただの冗談だ。あとスカートの中見えたぞ」
いつものだらけモードに戻っているクレイマンがいらない一言をいう。
そんなこと言ったらまた蹴られるんじゃ……
「だからどうしました? 関係ありませんよ」
「関係ないの!?」
今の発言はおかしいと思う。
だからだろうか、驚いてつい口に出してしまった。
俺の質問に答えるため、ソフィアさんが振り向き一言。
「だって夫ですから」
「……」
ソフィアさんの一言に言葉を返せない。そんな俺をよそにソフィアさんの肩に腕を回して立ち上がるクレイマン。
「じゃあな、またギルドで会おうぜ。俺回復力は無駄に高いからあと一週間ぐらいでギルドに戻るからな」
「それではヨウキ様失礼致します。夫のお見舞いに来ていただきありがとうございました」
動く方の腕を上げてひらひらと手を振るクレイマンと、ペこりといつ見ても綺麗だと思うお辞儀するソフィアさん。俺への挨拶を済ませた二人は部屋から出ていった。
「……帰ろう」
治療院から出て、一人寂しく宿に帰った。
悲しげなオーラを纏い帰宅した俺にスフィンクスと化したガイが何があったと問い掛けてきたが、無視をしてベッドに寝転んだ。
なんだかんだで幸せそうな二人を見て嫉妬したとは言えない。
俺も恋愛結婚したいなあと思ってしまった。
ああ、セシリアに会いたい……。