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元部下の背中を応援してみた

「イレーネって弓が下手なんすよ。剣の方はそこそこ良いのに弓は全然なんすよね。それで狩りができなくて故郷ではあまり良い目で見られてなかったそうっす」



聞いても良い話なのかデュークがイレーネさんの身の上話を始めた。

本人に許可取ってんのか。



「それにイレーネってこう……動きが読めないというか危なっかしいというか」



「天然でドジっ子ってことだな」



「ヨウキさん。もう少し言い方を柔らかくできませんか」



いや、これが一番良い言い方なんだよな。

デュークもそうっすねぇと頷いているし。



「そういう理由で嫁にも出してもらえなかったみたいで。自分の存在価値を見つけるためにミネルバに来て騎士になったみたいなんすよ」



「結構ちゃんとした理由でイレーネさんて騎士をやっていたんだな」



「そうっすよ。騎士として出世して故郷の家族に一泡吹かせてみせるって息巻いてたんで。立派な目標じゃないすか。それなのに俺を連れて故郷に帰るなんてだめっすよ」



なんか言葉の繋がりがおかしかったな。

どうしてデュークを連れて故郷に帰ってはいけないんだ。



「デューク、お前は自分がイレーネさんに相応しくないとか思っているから行きたくないのか」



「そういうわけじゃないっす。相応しくないなんて思ってるなら告白なんてしないっすよ。ただ、イレーネは騎士団での鍛錬だけじゃ足りないって休日俺に訓練付き合ってほしいって頼んでくるっす。それだけ頑張ってるのを見てると……俺なんか連れてってイレーネの積み上げてきた力まで否定されたら申し訳ないじゃないっすか」



ここまできて何奥手になってんだよ。

昔のチャラそうな雰囲気出していたデュークはどこに行ったんだ。

自信持って前に進めよ。



「デューク。お前がやらなきゃ誰がイレーネさんの隣に立つんだ。あんな見事なまでにオチを担当してくれる子なんて探しても中々いないぞ。お前のフォローがイレーネさんには必要なんだよ」



「ヨウキさん。それは恋人としてではなく保護者としてという意味に聞こえますが」



「うっ……まあ、さっきも言ったけどイレーネさんは危なっかしいだろ。デュークぐらいに面倒見の良いやつが近くにいるべきなんだ。お前の誰かをフォローする力は誰にも負けていない。魔王城での経験を知っている俺が保証する」



「何か嫌な褒め方っすね。ああ……魔王城での苦労した記憶が蘇るっす」



デュークが頭を抱えている。

懐かしい記憶を思い出しているのだろう。



「ヨウキさん。魔王城暮らしの時に何をしたんです」



デュークの様子を見て気になったのかセシリアが俺に質問してきた。

何をしたというか。



「ふっ、上司は厨二で引きこもり。同僚は口数の少ないハーピーに幼いピクシーだぞ。そんな奴らに板挟みにされたデュークの苦労は俺でも計り知れないな」



「誇らしく言うことではないですよね」



それだけデュークは苦労人ということだ。

俺としては魔王城での修羅場を潜っているデュークなら、イレーネさんを支えることができると確信している。



「お前がやらずに誰がやる。デューク、俺たちのことはもう心配いらない。ここは魔王城ではないんだ。もうお前はお前の好きな子のために……苦労して良いんだぞ」



「よくそんな爽やかな笑みを浮かべて何とも言えない説得の言葉を並べられますね」



セシリアのツッコミが痛い。

だが、苦労をかけた身だからこそかけられる言葉だってある。



俺はデュークに安心してイレーネさんと里帰りして欲しいんだ。

俺の説得が効いたのか、デュークは顔を上げた。



「はぁ……隊長の言葉っていっつも何か惜しいんすよねぇ。どうしてスッと心に響く言葉を言えないんすか」



呆れた口調で文句を言われた。

スッと心に響く言葉ね、なら言ってやろうじゃないか。



「相手の好きって気持ちに行動で応えてやれよ!」



どうだ、わかりやすくて熱い言葉だろう。

これならデュークの心に届いたはずだ。

しかし、デュークの反応は俺が思っていたものと違った。



兜ごしだが長年の付き合いの俺にはわかる。

これは戸惑っている顔をしているな。



俺の名言にどう返して良いかわからないのだろう。

ふっ、これが隊長の本気だ。



「えっと……セシリアさんが口をとんがらせて隊長のことを見ているっすよ」



知ってしまったら後ろを振り向けないじゃないか。

何故、言ったんだデュークよ。

俺って行動で応えられてなかったっけか。



デュークの心に響くどころか今までの自分の言動が不安になる結果に。

微妙な雰囲気の中、ハピネスがイレーネさんを連れて帰ってきた。



空気を変える救世主が来たぞ。

脳内で整理したいからハピネスたちよ、話の流れを変えてくれ。



「デュークさん。私……デュークさんのことが一層好きになりましたっ」



デュークに勢い良く抱きつくイレーネさん。

首元に腕を回してがっしりとロックをかけている。



抱きつかれた方が外しにくいようになっているな。

抱きつき慣れているのだろう……デューク限定で。



「うわっ、ちょっ、イレーネ。何事っすか」



「今もこれからも離れたくないでふ」



興奮しているのか最後に噛んだな。

それにしてもイレーネさんは好きと言葉にして行動でも気持ちを表している。



これはデュークの面目丸潰れだな。

男としてもっと頑張らないと。

俺もセシリアからの視線が痛いが……。



「まあ、何か里帰りに付いて行く前に集まりみたいな物を考えてるからさ。その辺よろしく。ここは俺が奢るわ」



「ちょっ、俺は放置っすか隊長。この状況を何とかしてほしいっすよ」



「だめです。離しません!」



イレーネさんといつまでも仲良くな。

振り解けないっすーともがくデュークとしばらく離れそうにないイレーネさんにご馳走様と言葉を残す。

支払いをしてからセシリアとハピネスを連れて店を出た。 



「やっぱりデュークは助けなんていらないな。あとは何とかなりそうだ」



「そうですね。好きという気持ちに行動で応えられれば問題ありませんね」



「セシリア、今度一緒にどっか行こう」



もっと行動で示すように頑張るわ。

俺を鼻で笑ってくるハピネスに構っている暇などなく、セシリアへどう行動で示そうか考えている間にユウガたちの家に着いた。



「うん?」



扉をノックしようと思ったところで何か違和感。

気のせいではないような……何だろうかこの感じ。

ハピネスも首を何度も傾げているが何なのかはわかっていないようだ。



「不思議ですね。勇者様とミカナの家から神聖な空気を感じます。長年朽ちることなく育った大木のある森に来たような……」



セシリアは僧侶なのでそういう雰囲気を感じることに敏感だ。



俺やハピネスでは感じれなかった違和感をセシリアは感じ取ったらしい。

だが、神聖な空気をどうして一般的な一戸建ての物件から感じるんだ。



「取り敢えず入ってみようか」



ノックをすると少ししてから返事があり、ユウガが出てきた。



「やあ、ヨウキくん。セシリアにレイヴンの彼女さんも一緒なんだね」



家から出てきたユウガは普段着で腕まくりをしていた。

掃除中だったとかかね。



「悪いな急に」



「別に良いよ。さあ、入って入って」



ユウガの案内で中に通される。

対応も普通、喋りに違和感もない。

特に問題はないように見える。



「あの、勇者様。ミカナは?」



「ミカナなら寝室にいるよ。そうだ、ヨウキくんたちの旅行の話とかしてくれるかな。ミカナも気分転換になるだろうし」



「気分転換……?」



この時点で何かあったんじゃないかと疑ってしまう。

俺の視線と声色でユウガも察したのか。



「違う違う。ヨウキくん、僕がミカナと喧嘩したとか考えてるでしょ。そんなんじゃないからね」



いつまでも迷惑かける夫でいられないよと頼もしい台詞を言ってきた。

表情もキリっと凛々しい。



これなら問題はないだろうと思いたいのだが。

寝室に近づくにつれて妙な違和感が強くなってるような。



「ミカナ、入るよ」



ユウガが一声かけて扉を開ける。

ラッキースケベは起きず、中にはミカナがいた。



たしか……俺は前にこの家に来たことがあり、寝室も見たことがあったはずだ。



当時見た寝室はこんなにも白色と緑色に溢れていただろうか。

家具がほとんど目に優しい色遣いな物に変わっている。



じっくり見るのも失礼だがミカナもおかしい。

白の寝衣が妙に似合っていて、髪の毛はさらさらで肌艶も良く、疲れている様子が皆無だ。



休日だからという理由で片付けるには無理がある。

そもそもこの時間帯に寝室って珍しいよな。



「ユウガ、早くこれ解きなさいよ!」



ミカナの第一声は俺たちではなく、ユウガへの文句だった。

解けって……やっぱりユウガのやつ何かやってるじゃねーか。

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― 新着の感想 ―
[一言] さすが我らが勇者様。期待を裏切らないですね! …で?今度はなにやらかしたんだい?(じと目)
[一言] 解けって何?神聖な雰囲気って?
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