恋人と体を休めてみた
「えっと、セシリアどうしたの」
セシリアが家にいることは珍しくなくなった。
合鍵渡しているし、頻繁に夕食を作りにきてくれている。
忍べてないんじゃないかって思えるレベルの頻度だ。
しかし、こんな家でぐったりしているセシリアを見るのは初めてだ……。
「勇者様が思っていた以上に重症で」
「そういうことか」
一番大変なユウガの処理はセシリアに任せたんだったな。
まさか、セシリアでもユウガの暴走を止められなかったのか。
「ミカナの秒刻み把握についてはどうなったの?」
「まずはミカナに話を聞いてから勇者様とお話したんです」
ミカナによると家事は頑張っている。
仕事も頑張っていて最初は嬉しかったと。
ただ、ちょっと動こうとすれば飛んでくる。
仕事の帰りが遅くなると飛んでくる。
買い物に行く時は一緒に飛んでくる。
いや、どんだけ飛んでんだよ。
そんな聖剣の力を利用して何処にでも現れるユウガ。
ミカナもやり過ぎだと注意したらしいが。
「ミカナはもっと自分の身体を大事に考えなきゃダメ、もうミカナ一人だけの身体じゃないんだよ。大丈夫、僕がミカナもお腹の子も支えるから」
と言ってのける始末。
ミカナも持ち前の気の強さを出して反論しようとすると。
「ダメだよ。ミカナの怒った顔も好きだけど……僕は笑顔が一番好きだから笑っていて欲しいな」
優しく抱きしめられ甘い言葉を囁かれてノックアウト。
試合終了してしまい、その後も注意しようとしては甘やかされてと連敗しているらしい。
おい、ミカナちゃんとしろよ!
このままではいけないと思いつつ、自分では解決できないということで頼ってきた、
そこでミカナを抜いてユウガと話し合ったわけだが。
「勇者様。もう少しミカナを信用してあげてはどうでしょうか。子を宿しているといっても出産予定日はまだまだ先のことですし」
「うん、ミカナのことは信用しているよ。だからこそ僕もミカナのために」
「だからこそ、の使い方が間違っていますね。ミカナとしっかり話し合ってミカナの行動範囲を増やす等……」
「うん、ミカナが行きたいっていう場所には何処へだって連れて行ってあげるよ!」
「……勇者様、今日のミカナの予定はわかりますか」
「全部、覚えてる。念のために日誌も書いてるからね」
日誌を見せてもらったら、そこにはミカナの予定がぎっしり書いてあったと。
一緒に買い物に行った日はどんな物を買ったかが記入されていた。
そこまでなら、家計簿と納得できる。
ただ、ミカナの好みを知るためなのか、ミカナの手に取った物、ユウガに買おうか聞いてきた物等と細かく備考欄に記入されていたと。
ミカナが愛されている、という一言では片付けられないと判断したセシリアはミカナの話を聞いてあげて下さいと告げて撤退。
他にも休んでいた分、治療院や孤児院訪問等の仕事を片付けて。
さらに屋敷でソフィアさん、ハピネス、フィオーラちゃんから相談も受けたという。
「結果、大変申し訳ない気持ちがあったのですが。一度、ヨウキさんの家で休ませてもらおうかと思いお邪魔していたということです」
「そっか」
セシリアも俺と同じくらい走り回っていたんだな。
「正直、二人で温泉にでも行きたい気分ですね」
「わかるわ。旅行行ったばかりなのにな」
「また行きたいですね」
お互いにテーブルに寄りかかってぐてっとする。
夕食の準備をするには早い時間だ。
少しくらいはだらだらしたっていいだろう。
「それにしてもどうしたもんかな」
「そうですね。こうも立て続けに来るとどう解決に持っていけば良いのか」
「着地点何処だよって感じだよなぁ」
二人してため息をつく。
デュークは頑張れと応援しておくとしてだ。
レイヴンとハピネス、クレイマンとソフィアさん、ミカナとユウガをどうするべきか。
悩みがそれぞれ別なことだし、優先順位を決めて解決に持っていくのが正攻法だな。
まずは緊急性の高い案件から……。
「なあ、セシリア」
「何ですか」
「俺たち結婚するんだよね」
「そうですよ。私とヨウキさんは結婚するんです」
「自分たちの準備もままならない状況でこうして走り回ってるのって正解なのかな」
セリアさんが動いているとはいえ、自分たちの結婚は後回しにしていて良いのか。
俺らしくないことを言ったと思う。
でも、これで良いのかって考えてしまったんだ。
セシリアの考えはどうなんだろう。
寄りかかる姿勢を止め、セシリアは真っ直ぐな瞳で俺を見てきた。
こんなこと言って幻滅されたかな。
「……正しいか正しくないかではなく、自分がどうしたいかで動くべきかと思います。自分たちのことを棚に上げているのはわかっていますが……ヨウキさんはどうしたいと思っていますか?」
どう動きたいか。
そう聞いて来るのか、なるほどな。
俺は今まで数々の相談を受けて解決に導いてきた。
巻き込まれて仕方なくじゃない、自分の意思でだ。
今回だって自分で走り回ってどうするかなーって悩んでいた。
「俺は帰り道どうしたらうまい具合に収まるかなって考えてた。話聞いて自分たちのこと優先したいなんて中途半端なことしたらダメだわ。そんなのかっこ悪い」
「ヨウキさんは黒雷の魔剣士さんですからね。かっこ悪いというのは仕事に響きますよ」
「そうだな。ダサい黒雷の魔剣士なんて誰も求めないわな」
二人して笑った。
もうひと頑張りしよう……そうだ。
「ハピネスに頑張ってもらえないかな」
「ハピネスちゃんですか」
「うん。ハピネスの歌の会場に皆を集めてさ。思い出作ってもらおう」
色々とぎくしゃくしているなら、それ以上の感動を与えて上書きするんだ。
喧嘩しているではないんだから、感動したものについて意見交換することで何かのきっかけになれば。
「上手くいくでしょうか。レイヴンさんもハピネスちゃんが劇団に所属するかで悩んでいるんですよね。そこが解決しないと」
「劇団所属決定じゃなくてさ。身内だけでやるパーティーみたいな」
つまり騒ごうぜっていう提案だ。
ぎくしゃくしていてどうしたら良いのかわからないままでいるよりも行動しよう。
「解決……しますか?」
セシリアが心配になるのもわかる。
それでもだ。
「するって。俺の良い考えは必ず何かを起こすから」
何かは起きる、うん。
どう転ぶかは正直わかんないけど。
悪い方向には転ばないさ。
「ヨウキさんの突拍子もない行動の後処理は私が担当ですか」
「いつもごめん」
「何故、謝るんです。迷惑をかけてもそれ以上に笑顔にしてくれるんですよね。私はそれで充分です」
「それ俺のプロポーズの時のやつ!」
「やはり歌が聞こえて来ると忘れないものですね」
嬉しそうに言ってくれるなぁ。
俺としては喜んで良いのかどうなのやら、複雑な気分だ。
多分だけど屋敷でハピネスが歌っているからだな。
よし、ハピネスに絶対断らせないぞ。
「てかハピネスのやつ、恋愛の歌と家族愛の歌と妊娠した妻への正しい身の振り方こめるべき感情の度合いも含めてについて歌ってくれないかな」
「最後のだけやけに具体的ですね」
「ユウガは曖昧な表現じゃ伝わらないと思う」
はっきり言葉にしてもちゃんと伝わるかどうか。
怪しいところである。
「……まあ、ダメ元で頼んでみましょう」
「そうだな。ハピネスもメイドの仕事があるし負担をかけ過ぎたらレイヴンに怒られる」
無理そうだったら他の方法を考えるさ。
「それでは方針も決まったところで夕飯の支度に取り掛かりましょうか」
「だなー。夕食の材料買ってきてるよ」
「ありがとうございます。何が食べたいですか?」
「そうだな。走り回ったから……スタミナ回復するやつ」
「家にある物も使えば可能ですね。任せて下さい」
相談しながら台所に二人で向かう。
結婚してからもこんな感じで過ごすんだろうな。
セシリア主導で俺は皮むきとか手伝って完成した夕食は最高に美味かった。
そして、この日セシリアは泊まっていった。
ソフィアさんに話はしてあるから大丈夫らしい。
朝早くに俺が送っていってハピネスに話をつけよう。




