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物語を話してみた

今年もよろしくお願いします。

俺は子どもたちに真実を広めた。

勇者の紆余曲折、魔法使いの涙ながらの決意、聖……いや、そのパーティー全体の活躍とか。

演劇は美化し過ぎていると話したつもりだったのだが。



「何故今、俺はブーイングをくらっているのだろう」



子どもたちの評価は不評の嵐。

真実ってものは時には残酷な刃になるもんだとかっこよく締めても収まらない。



どうしてこうなったの?

俺の疑問にはセシリアは答えてくれた。



「子どもたちは英雄譚が好きなんですよ。その英雄譚に勇者様の真実味のある失敗や仲間内の微妙な関係性の話は好まれないようです」



「成る程。ドロっとした修羅場ってる話はまだ汚れを知らない子どもには向かないってことか」



「誰になら興味が向くと考えているのでしょうか」



セシリアの尤もなツッコミに黙り込む。

子どもに受ける話をしないとこれダメな流れだよなぁ。



集めた手前、ブーイングの嵐で終わるのはちょっと。

持ちネタとかないんだが……そうだ。



「ある男の話をしよう……」



俺は子どもたちに語った。

引きこもっていたある男の話だ。

無気力な男の前に聖女が現れ救済される話。



ある男には格好悪い、引きこもりは駄目と辛辣な意見が飛び交った。



だが、俺はその意見を受け止めた。

当たり前だ、これは英雄譚ではないと。



俺は格好悪い引きこもりが一目惚れした聖女を追いかけたことを話した。



その過程で友人ができ、後輩に恵まれ、ライバルに出会ったことも話した。



最初は振られたが根気強く友人から始めて徐々に関係を深めていったことも話した。



そこには苦楽を共にしたとか、幼い頃からの付き合いとかはなかったと。



日常的に様々な困難が舞い込み解決していくことで信頼を得る。

そして、聖女の出した試練を突破し二人は結ばれましたとさ。



「……っと、こんなもんだな」



「すげー」

「大逆転じゃーん」

「聖女様かっこいいー」



うん、中々ウケているじゃないの。

ある男の話は勇者のノンフィクション話よりも高評価だった。



やはり、主人公の根気強さと誰も見捨てない正義感。

ヒロインの安定した優しさと世話焼きなところが評価された結果だな。



これでこいつらも満足して帰路につけるだろう。

いやぁ、良かった良かった……うん。

さっきから後ろにいるセシリアが怖くて振り向けないのよね。



「ヨウキさん」



「はい……」



「こちらを向いてもらっても?」



「わかりました……」



逃げ場なしと覚悟を決めて振り返る。

そこには笑みを浮かべたセシリアの姿があった。



「ヨウキさん。話を盛るのはいけないことなのではなかったのですか」



「話を盛るというか、ある男の話を俺はしただけで」



「ヨウキさん?」



「すみませんでした」



正座して謝罪、悪いことしたらこれ重要。

子どもたちから話にあった謝罪の場面の再現だーと声があがっている。

違う、再現じゃないから、本当のやつだから。



「自分の意見を簡単に曲げてしまうのは良くないことではないかと」



「いや、違うんだ」



「何が違うというのでしょうか」



「これはある男目線での物語だからな。多少は自分のことを盛ったりするだろう。それ以上に自分を救ってくれた聖女様のことに関しては尚更……」



「それで私が納得すると?」



「……思ってません」



駄目だ、上手い言い訳が見つからねぇ。

しかし、話し手の俺が説教を受けているところを見て子どもたちからおねーちゃんは面白くなかったのという意見が出てきた。



たった一人の子どもの発言は子どもたち全員の意見となりセシリアを襲う。

気がつけばセシリアは子どもたちに囲まれていた。

孤児院で見るいつもの光景だ。

これにはセシリアも折れてしまい……。



「……まあ、ある男の話ですからね。聞いていて悪い気分にはなりませんでした……ね」



ということで説教終了となった。

危なかった……もう少しで長時間コースになるところだったぞ。



子どもたちに感謝だな。

よし、追加の話をしてやろう。



「これはある男の話なんだが……」



「まだするんですか!?」



セシリアから驚きの声が聞こえたが子どもたちからの反応は良好だ。



先程話していなかったエピソードを披露するとこれまた好評だった。

やはり、主人公とヒロイン効果だな。



話している最中、後ろのセシリアが怖かったけど。

途中から観客も増えていったが……黒雷の魔剣士で身につけた度胸で噛まずに語りきってやったぜ。



「拍手喝采。ふっ、見たか。これが俺の演説力だ」



「ヨウキさんてよくわからない所で才能を発揮することが多いですよね……」



セシリアよ、それは誉めているのか?

しかし、人が集まり過ぎだな。

このままだと騒ぎを気にした騎士団員が飛んできそうだ。

そろそろ退場させてもらおうか。



「セシリア、行こう」



「はい、了解です。もう慣れましたよ」



「全く取り乱さないのね」



俺はセシリアを横抱きにして準備完了。

一部の若い女性から歓喜の悲鳴があがっている。

ミネルバではそこまで悲鳴あがんないんだけどな。

まあ、そこは慣れということで。



「では、さらばだ」



俺はセシリアを抱えて跳び上がった。

そのまま屋根に着地して疾走。

人気がない所で着地する予定だ。



「ヨウキさん。ここはミネルバではないんですよ」



「そうだけど。まあ、栄えてる街で娯楽も多いみたいだしある程度の騒ぎは紛れるんじゃないかな」



「そもそもヨウキさん。素の状態に近いのに私を抱えて跳び回って大丈夫なんでしょうか」



「……まあ、明日にはここを発つからさ」



「確実に噂になりますよ」



「うん、だよね……」



念のためがっつりな変装に変更して街を歩くことにした。



ちなみに宿に戻ってくじを引いたら、お土産希望と書かれたメモが。

珍しい薬草ねーと一発でシークだとわかる内容だったな。



何処で何をするという指示ではなかったのでもう一枚引いたら。

落ち着く場所でゆっくりするが良いとガイらしい意見の書かれたメモが。



ガイらしくてほっこりした俺とセシリアだったがメモの裏を見ると。



守り神様の魅力について語りましょう、守り神様の強さ、優しさ、逞しさ、思いつく限りのことを二人で延々と……。



メモを見た俺とセシリアはこの旅行で初めてメモの指示に従わなかった。

ティールちゃんは本当にぶれないなぁ。

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[一言] さすがに守り神様を語り合おうにも話題が…
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