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逢引してみた

お互いの格好がミスマッチから始まった逢引。

いや、これもう逢引っていうのか謎だけど。

城の最上階ということもあってか、カイウスの言う通り窓から見える景色は……。



「綺麗だな」



「そうですね。ミネルバとはまた違った景色です」



「カイウスがおすすめしてきた理由がわかるな」



「はい……」



「……」



何でだ、会話が続かない。

いつも何話してたっけ。

服装と雰囲気と集まった理由が違うだけでこんなに空気が変わるもんなのか。



早くも選んだ贈り物投入するか?

いや、早すぎるな。

景色よりも君の方が綺麗な言ってみるか。



……駄目だ、俺には似合わない。

というか、セシリアの格好が新鮮で未だに驚いている。



セシリーとして活動している時の格好に似ているが……なんというか反応に困るってやつだ。

率直な感想を述べて良いのだろうか。

黙っているのも変だし言っちゃえ。



「えっと。その服似合ってるよ」



「ありがとうございます。私は普段通りのドレスにしようとしたのですが。シアさんに勧められて普段しないような服装にしたんです。ヨウキさんは……悪い人に見えますね」



「やっぱりか。俺もそう思ったんだけど、カイウスの助言を受けてこうなった。お互いに助言に従った感じなのな」



「そうみたいですね。今のヨウキさんは……簡単に女性を掌の上で操りそうな雰囲気があります」



「そこまで言う?」



俺の本質はどちらかというと転がされる側なんだが。

そんなに悪い男を期待しているのか。



「だったら悪い男、演じてみるよ」



「えっ……?」



「偶にはそういうのもありなんでしょ」



驚いているセシリアにゆっくりと接近する。

もちろんセシリアは後ずさるがそれも俺の計算だ。

後ろにはベッドがあり、足が引っかかった瞬間、肩を優しく押した。



ベッド仰向けに倒れるセシリアを見下ろす。

起きられないようにセシリアの顔に右手を置いてと。



「どう? ご期待に添えることはできたかな」



「どうでしょうね。私は悪い男というものを本格的に存じ上げないので。もう少し具体的な行動を取ってもらえると理解できるかもしれないですね」



セシリアは挑発的な笑みを浮かべながら言い放つ。

成る程、今日は良い思い出になりそうだ。



男として、恋人としてセシリアからの要望に応えないとな。

俺はセシリアの瞳をじっと見つめつつ、顔を近づけて……。



「すみません。夕飯をお待ちしました」



「うぉわぁぁ!?」



ノックもなしに扉が開いてシアさんが入ってきた。

慌てて飛び退く俺、驚いて変な声出たぞ。

見られたか、見られてないよな!?



急な動きと焦りからかぜーぜーと呼吸が荒くなる。

どう考えたってタイミングがおかしい。

俺がそういう星の元に生まれてきたことが原因なのか。



というか何故セシリアは慌ててないんだ。

明らかに他者に見られたら不味い構図だったのに……まさか!?



俺はセシリアの表情を見るために振り向いた。

そこには笑いを手で押し殺しているセシリアの姿があった。

この状況はつまり……。



「はめられた、だと?」



「正解です」  



「お役に立てたみたいですね。では、夕食を置いていきますのでごゆっくり」



シアさんはにこにこ笑いながら部屋を去っていった。

打ち合わせ通りだったということか。



「俺がどんな服装にしてくるか読んでいたのか」



「シアさんがカイウスさんはヨウキさんにそういう服を勧めてくるだろうと話していたので一芝居打ってみました。こういうことがあったら思い出に残りやすいかと」



「今でもドキドキしているくらいだから、ばっちり記憶に残るよ」



シアさんが入ってきた時、終わったって思ったからね。

セシリアがドッキリを仕掛けてくるなんて……予想外だった。



「それでは夕食の時間にしましょう。短時間で作れるものをシアさんと用意したので」



夕食はセシリアとシアさんの手作りなのか。

俺が服やら贈り物やらを選んでいる間にセシリアは完璧な段取りを済ませていたと。

このまま、やられっぱなしで良いのかヨウキよ……。



「ごめんセシリア」



「えっ、ヨウキさん!?」



俺は椅子に座ろうとしていたセシリアの腕を掴んでベッドへ。

先程と同じ体勢から再スタートだ。



「温め直した夕食が冷めてしまいますよ」



「今日の俺は悪い男だからさ」



このままどう持っていくかが重要だ。

唇奪うとか耳元で愛を囁くとか……ハードル高いな。



いやいや、恋人同士なんだからハードル高いとか遠慮してどうする。



頭を振って雑念を飛ばしたいところだが今の俺は悪い男。

このまま平静を装って続行だ。



「あの、私たちは想い合ってる恋人同士です。強引に迫ってくるのも新鮮で悪くないかなって思っているので構わないのですが……ヨウキさん、大丈夫ですか?」



「ふっ、大丈夫って何がだ。この状況だとセシリアは自分の身を心配すべきじゃあないのか」



逃げられないこの体勢、何をされるかわからない恐怖。

いや、本格的に嫌がることは絶対にしないけども。

優位な位置にいる俺に心配事などあるわけがない。




「いえ、その……大変言いにくいのですが。ヨウキさんは自分の感情のままに行動して後悔されることが多いので大丈夫かな、と」



後で引きずりませんか、と聞かれて黙る俺。

悪い男って何、俺様キャラ?

唐突に頭が冷えた、押し倒して上から覆い被さるっておいおいおい!



唇奪うとか耳元で囁くって……付き合ってるならやるかもしれないけども。



「何か途端に罪悪感……」



気がつけば頭を抱えていた。

面倒臭い男でごめん、そして目を覚ましてくれてありがとう。



あのまま変なスイッチが入るところだった。

厨二よりやべぇよ。



「服装を変えてもヨウキさんはヨウキさんですね……まあ、強引に迫られた時、少し胸が熱くなりました。こういう経験も悪くないですね」



「じゃあ、悪い男継続する?」



「それはヨウキさんの身が持ちそうにないので遠慮しておきましょう。冷めない内に夕食を頂きませんか?」



「そうだな。食べよっか」



セシリアとシアさんが作ってくれた夕食を二人で食べた。

アンデットでも食事ってするんだな。

肉料理にスープにサラダ、パスタまであるとは。



「めっちゃ美味い」



「そうですね。明日、シアさんにお礼を言いましょう。このパスタの作り方も教えてもらうことにします」



セシリアはパスタが気に入ったようだ。

セシリアの料理も、もちろん美味い。



「俺はセシリアの料理も好きだ。特に紅茶」



「紅茶は料理ではないですね」



「うぐっ……」



「ですが、褒められて悪い気分にはなりません。美味しいと言ってくれてありがとうございます」



勢いでアホ発言をしてしまったが結果的にセシリアが喜んでくれたので良しとする。

夕食を食べて綺麗な景色見て……良い一日の終わりだ。



「昨日、今日でどうなるものかと思ったよ。無人島で一泊して仮面被って観光してだもんな」



違う意味で記憶に残る旅行だよ。

もっとこう……自然にイチャイチャするようなものを意識していたんだ。

俺の考えが甘かったのかな。



「……どうかした?」



セシリアが俺を見て小さく笑みを浮かべている。

俺、何か変なこと言ったっけ。



「いえ……ヨウキさんといると飽きないなと思っただけですよ。私から言い出した旅行なのにこんな予想不可能な旅行になるとは思っていませんでした」



「それはくじ引き形式で旅行しているし何が起こるかなんて予想不可能じゃない?」



「それでも……色んな意味でドキドキする旅行になるのはヨウキさんと一緒だからなのでしょうね」



「……まあ、ユウガ程ではないけど巻き込まれ体質だからな、俺も」



気がつけば何かの事件に巻き込まれてるパターンが多いからな。

今のところ何も起こってないけど。



しかし、セシリアが言いたいのはそういうことではないらしい。



「違いますよ。ヨウキさんは自ら巻き込まれに行っているんです。そして誰かの力になってる。今回のくじ引きでの旅行が成立しているのは……今までのヨウキさんの行いがあったからだと思うんです」  



セシリアは俺を過大評価し過ぎではないだろうか。

真剣な目で言ってきてるし真っ向から否定はできない。

いや、そういうものなんだと俺が受け入れれば良いのか。



「つまり……この幸せなひと時を過ごせているのは俺が頑張ってきたご褒美ということか」



「そういう捉え方で良いかと」



「そうか。なら、これを渡して更に良い思い出をのこそうじゃないか」



俺は懐からセシリアへの贈り物を取り出し渡した。

喜んでくれるだろうか。



「ありがとうございます。開けても良いですか」



「ああ」



「では、早速……これは小物入れですね」



俺が選んだ贈り物は小物入れだ。

アクセサリーや日用品やらと迷った挙句、選んだのは小物入れだった。

理由はきちんとある。



「今回は婚前旅行でさ。次回は新婚旅行でしょ」



「そうなりますね」



「頻繁にではないけど二人で遠出することが今後もあるだろうから……その小物入れは旅行の思い出の品入れなんかに使ってもらえたらなって」



結婚直前の二人きりの旅行。

次回は新婚旅行だから……思い出をしまっておけるように前準備みたいな感じでって思ったんだけど。

どうだろうか、センス無いかな。



「本当にヨウキさんは読めないですよね。さっきまで頭を抱えていたのに……どうして急に格好良くなるんでしょう。不思議ですよね」



「それはまあ、俺だし?」



「そうですよね、ヨウキさんらしいです。素敵な小物入れありがとうございます。私からはこれと……」



セシリアが渡してきたのはグラスだった。

何かグラスの底が不思議な光り方をしているな。



「珍しいですよね。グラスの底に特殊な鉱石を混ぜてあって底の色が不規則な色合いに変化するみたいなんです」



「まじか」



見た目からしてテンション上がるな。

これで果実酒飲むのも悪くない。

帰ったら早速使わせてもらおう。



俺がグラスを眺めているとセシリアがメモを見せてきた。

これは……くじ引いたのか。



「明日の予定を決めてしまおうとさっき引いてしまいました」



「ああ、全然構わないけど」



内容は二人きりでゆっくりすると良いっす。

デュークのやつ、ゆっくりするのは決まってるんだよ。

何処でゆっくりすれば良いのか書いてくれよ。



「二人きりでゆっくりねぇ。セシリア、明日は近くの町で……」



「こちらを見てください」



セシリアが見せてきたのはメモの裏。

そこにはぎゅーっと抱きしめましょう、相手を逃さないようにしてください、と書かれている。



イレーネさん、何書いてんの!?

逃がさないようにって俺もセシリアも逃げるとかないから。

心の中でツッコミしていたら背中に柔らかな感触が。



「はえっ!? セシリア」



「くじ引きの結果です」



「いや、そうだけども」



「少しこちらを向いてください」



言われた通りに顔を左に向けた。

すると左頬にまた柔らかな……。



「小物入れが予想を上回るくらいに嬉しかったので……私からは贈り物を二つにしてみました」



「脳の処理が追いつかない」



この後、全然眠れなかった。

セシリアは可愛らしい寝息を立てていたけどな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふたりの距離感がなんとも言えず読んでてにやにやしちゃいます。 [気になる点] 夕飯はセシリアが作ったんでしょうかシアさんが作ったんでしょうか? 夕食はセシリアの手作りなのか。 とあるのに…
[良い点] へたれ〜ヘタレ〜 [一言] 普通に同じ部屋で寝てるしなあ。 迫ってみても、いまさら感が出てしまう。 セシリア、ヨウキの事わかり過ぎだし( ̄▽ ̄;) どうすれば良いのやら
[一言] 畜生、爆発しろ! いかん、つい嫉妬心が。
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